
FICCでは、ブランドや事業、組織の変革に向き合う方々とともに、ブランドマーケティングの知見を共有し、互いの問いを深めていく「FICC ブランドマーケティング ナレッジ共有会」を開催しています。
2026年、FICCはこれまで培ってきたブランドマーケティングの視点をさらに広げ、世界や社会の流れを捉えながら、企業やブランドのパーパスが社会の文化となる姿まで見据える、FICCが創造した「ソシエタル・レンズ(Societal Lens)」という考え方を探究しています。
そのソシエタル・レンズを構成するナレッジのひとつとして、今回取り上げたのが「ブランド・イノベーションモデル(Brand Innovation Model)」です。好評をいただき、同じテーマで3回にわたり開催し、経営やブランド、マーケティング、事業に携わる多くのビジネスリーダーの方々にご参加いただきました。
テーマは、「なぜブランドのパーパスが導く『価値創造の方程式』が、組織を動かすのか?」。
ブランド・イノベーションモデルは、ブランドがこれまでの歴史の中で培ってきた暗黙知を、ブランド独自の社会につながる再現可能な「価値創造の方程式」として見出していくためのナレッジです。そして、その方程式を組織の一人ひとりへ「問い」としてひらくからこそ、多様な事業が展開する組織であっても、ブランド独自の価値をともに創造し、一人ひとりが社会につながるリーダーシップを発揮していくことができます。
当日は、こうしたブランドと組織の関係を、FICC代表 森によるナレッジの共有と、参加者との対話を通して探究しました。
本記事では、なぜこのナレッジがFICCから生まれたのかという背景から、ブランドの暗黙知を社会につながる再現可能な「価値創造の方程式」として見出すために捉えるべき観点、異なるブランドの事例、さらに組織の価値創造へとつなげていくプロセスまで、当日の内容をレポートします。
社会をどう見つめ、ブランドの意味をどうひらくか

FICCではこれまで、ブランディングとマーケティング、事業と組織を分断せずに捉える「ブランドマーケティング」の考え方を軸に、企業やブランドの支援を行ってきました。
その中で大切にしているのは、ブランドに関わる人々のナラティブと、社会や文化、市場を形づくるマクロな文脈を重ねながら、「自分たちは社会のどのような課題や変化に向き合い、どのような未来をつくりたいのか」という問いを立てることです。
そこから、自社だからこその意味や価値を見出し、その価値が求められる市場の創造へとつなげていく。そして、ブランドに関わる一人ひとりが、自らの想いや経験を重ねながら、社会や未来に対してリーダーシップを発揮していくことを大切にしています。
こうした考え方の背景には、FICCが価値提供と組織づくりの双方で大切にしているリベラルアーツの思想があります。2026年の年始挨拶でも、正解のない時代だからこそ、一人ひとりが問いを持ち、社会や未来に対してリーダーシップを発揮していくことの重要性を共有しました。

FICCでは、「LIBERAL ARTS empowers BRAND MARKETING ー 問いを意義に変え、問いを社会の意味へとひらく」という言葉を掲げ、この考え方をさらに広げ、2026年から探究しているのが「ソシエタル・レンズ(Societal Lens)」です。
ブランドの歴史や人の想い、社会の構造や文化、価値観を切り分けて捉えるのではなく、複数のレンズを重ねるように見つめることで、その背景にある文脈を捉えていく。そこから社会への問いを見出し、ブランドのパーパスへとつなげ、自社ならではの価値創造のあり方を導き出します。
さらに、その意味に共鳴する人や企業との関係を広げながら、具体的なアクションとして社会へとひらいていくことまでを視野に入れています。
今回取り上げた「ブランド・イノベーションモデル(Brand Innovation Model)」は、その中でも、ブランドのパーパスを起点に、自分たちならではの「価値創造の方程式」を見出すためのナレッジです。
ブランドがこれまで何を信じ、どのように社会と向き合い、価値を生み出してきたのか。その歴史に眠る暗黙知を読み解き、これからの時代をどのように見つめ、過去から現在まで培ってきたブランド独自のアプローチを、未来の価値創造へとつなげていくのか。ここから具体的な事例とともに紹介していきます。
ブランドの歴史に眠る暗黙知を、社会につながる再現可能な「価値創造の方程式」へ

企業やブランドの歴史を振り返ると、商品やサービス、事業の形は変わっていても、その背景には繰り返し現れる、そのブランドならではの価値創造のあり方があります。
FICCでは、ブランドが歩んできた歴史と、その時々の社会や産業の変化を重ねて読み解き、組織の中に蓄積されてきた「暗黙知」を、社会につながる再現可能な「価値創造の方程式」として見出していきます。
当日紹介した国内大手食品メーカーでは、創業当時の代表的な商品を起点に、各時代のヒット商品と社会や食文化の変化をたどりました。時代や商品が変わっても繰り返されてきた価値創造の原理を、過去から現在へと歴史をたどることで見出していった事例です。
一方、国内大手ICT企業では、未来の企業像を体現する新規事業から、その価値創造の背景を過去へと遡りました。未来に向けて生まれつつある価値創造の特徴と、歴史の中にある共通の原理をつなぐことで、これから目指す変革への確信を導いていきました。
また、医療・ヘルスケア企業では、一見ばらばらに広がっていた事業ポートフォリオを起点に、それぞれの事業の背景を読み解きました。異なる事業に共通する信念やアプローチを見出し、価値創造の方程式を軸に、事業ポートフォリオの再編から、事業間シナジーのあるべき姿まで捉え直していきました。

このように、ブランド・イノベーションモデルでは、すべての企業に同じ方法を当てはめるわけではありません。それぞれの企業が向き合う経営アジェンダや、歴史、事業の状況に応じて異なる入り口から暗黙知を読み解き、ブランドを前進させる、ブランド独自の「価値創造の方程式」を見出していきます。
未来のために外から答えを持ち込むのではなく、これまで自分たちは何を信じ、社会や産業の変化にどう向き合い、どのように価値を生み出してきたのか。
その暗黙知を、これからの時代への動機とつなげ、新たな事業の創出や既存事業の付加価値の創造、さらにパートナーシップの広がりとともに、ブランドの次の時代へと牽引し続けていく。ブランド・イノベーションモデル自体が、ブランドにとって重要な経営資源となっていくのです。
答えではなく「問い」をつくる。組織の一人ひとりを価値創造の主体へ
価値創造の方程式を見出すだけで、組織が動き始めるわけではありません。重要なのは、その方程式が組織の一人ひとりに問いかけるものになっていることです。
「この事業には、まだどのような付加価値を生み出せるだろうか」
「自分たちの強みを、社会の変化に対してどのように活かせるだろうか」
「これまで出会っていなかったパートナーと組むことで、どのような可能性が生まれるだろうか」
ブランドとして大切にする信念や価値創造の原理を共有しながら、具体的な可能性を、一人ひとりが考えることのできる余白と動機へとつなげていく。これが、FICCが創造するブランド・イノベーションモデルの特徴です。FICCでは、価値創造の方程式を、そのための「問いかけるフレーム」として組織へとひらいていきます。

当日は、こうした価値創造の方程式を見出し、組織の中で使いこなしていくためのプロセスについても紹介しました。
企業の歴史やナラティブ、社会や産業の変化を読み解きながら、ブランドのパーパスや「価値創造の方程式」を導き出す。そこで終わるのではなく、次世代リーダーとのワークショップを通じて、自分たちの言葉や事業に引き寄せながら問い直していきます。
成長領域の付加価値を見出すこともあれば、既存の主力事業の新たな可能性、パートナーとの協業、グループ企業とのシナジーを考えることもあります。同じ価値創造の方程式を起点に、それぞれの事業や立場に応じた問いへとひらくことで、ブランド戦略を自分たちの仕事に重ねていきます。
一方、組織全体のものにしていくためには、すでに組織の中に存在するナラティブを見つけ、自分たちらしい価値創造への確信を育てることも重要です。

医療・ヘルスケア企業では、価値創造の方程式を策定した後、それを体現するエピソードを社員から集めました。各部署から多くのエピソードが集まり、その中には経営者も知らなかった現場の物語もありました。そこから「これは!」というエピソードを、すべての事業を取りこぼすことなく選び、ブランドブックとして編集することで、「自分たちはすでに、この価値を生み出してきた」という組織の確信へとつなげていきました。
こうして、これまで生み出してきた価値に確信を持ちながら、未来に向けては一人ひとりが新たな可能性を考えていく。その両方を支える考え方として、森は「最大余白・最小ルール」という言葉を紹介しました。これは、FICC自身がリベラルアーツの経営を行う中で大切にしている考えです。
ブランドとして大切にする価値創造の原理という共通の軸を持ちながらも、それを完成した答えとして示すのではなく、一人ひとりへ問いかけることで、それぞれが自身の経験や専門性、感性を持ち込み、新たな可能性を考える余白が生まれます。
実際にご支援した企業では、ブランドの価値創造の方程式が戦略の言葉に留まらず、事業や組織を動かす基盤として活用されています。
A社:グループ全体の企業理念へとつながり、「価値創造の方程式」を起点とした事業進化や新たな価値創造が推進されている。
B社:企業の歴史の中で生み出してきた商品について、「価値創造の方程式」を通じた価値の語り直しが行われている。
C社:「価値創造の方程式」が企業理念の中心となり、事業ポートフォリオや組織の再編を通じて、新たな価値創造が加速している。
価値創造の方程式は、完成した答えを組織へ一方的に浸透させるものではなく、ブランドから一人ひとりへ問いをひらき、それぞれが自らの答えをつくり続けるためのものです。
その問いに向き合うことで、ブランドに関わる一人ひとりがオーナーシップとリーダーシップを持ち、社会への価値創造に主体的に関わっていく。FICCがブランド・イノベーションモデルを通じて目指しているのは、そのようなブランドの姿です。
問いを意義に変え、問いを社会の意味へとひらく、FICCのブランドアクション

こうした考え方は、FICC自身の組織や活動にもつながっています。
FICCでは、社員一人ひとりが社会の中で感じている違和感や、大切にしたいと思うことを起点に、さまざまな活動が生まれています。
一人ひとりの感性を起点に、人とモノの新たな関係性を社会実装し、新しい社会をつくることを目指す「COLOR Again」。その実践の一つとして、日建設計とともに「雨」という資源の意味を捉え直し、天候を含めた自然環境を「都市生活」の価値へ転換する試みに挑戦しています。
また、FICCが大切にする、異なる視点や領域を掛け合わせて考える「クロスシンク」の文化から生まれたのが、教育カードゲーム「モヤヤヤン」です。AIによって答えへ早くたどり着ける時代だからこそ、子どもたちが「答えのない問い」に向き合い、自ら考える体験をつくり、教育現場で活用されるものとして活動を広げています。
テクノツール・テクノベースとは、「福祉」を超えて人の可能性を社会にひらくコミュニティ型シンクタンクの協業事業に取り組んでいます。重度肢体不自由のある人の視点から、これまで見過ごされてきた社会の前提を捉え直し、誰もが自分らしく選び、過ごせる社会の可能性をひらく、「社会の可能性を拡張する起点」を目指しています。
それぞれの起点にあるのは、一人ひとりが社会を見つめる中で生まれた問いです。その問いにFICCのナレッジや専門性、社会を取り巻く文脈を重ね、FICCのブランド活動の中で出会った方々の社会への想いや資源と共創し、具体的なアクションへとひらいていく。FICC自身も、自らの価値創造の方程式を起点にしながら、こうしたブランドアクションを生み出しています。

さらに、それぞれの企業やブランドが、自らのパーパスや社会に対する動機を持っているからこそ、企業の境界を越えた共創にもつながります。
互いの専門性や資源だけでなく、「自分たちのブランドとして、どのような社会を実現したいのか」という意思を重ね合わせることで、一社だけでは生み出せない価値やアクションが生まれていく。
一人ひとりの問いから始まったアクションが、ブランドや企業を越えて共鳴し、新たな社会への価値や関係へと広がっていく。FICCがソシエタル・レンズを通じて見据えているのも、そのような共創の姿です。
社会への問いや想いを持ち寄り、新たな共創が生まれる場へ

ナレッジ共有会の最後には、参加者の皆さまにも、それぞれが感じたことや、新たに生まれた問いを共有していただきました。
「日々は売上など目の前のことを考えることが多い中で、大義やその先にあるものを考えることで、頭の中が広がった」
「問いを自分の中で持つだけでなく、いろいろな人と一緒に考え、シェアする文化をつくることも大切だと感じた」
「何度か話を聞く中で、ソシエタル・レンズやナラティブという考え方がつながり、腑に落ちてきた」
「ブランドを大切にしていくために、社内をどう巻き込むかという自分自身の課題とつながった」
同じナレッジに触れても、一人ひとりの立場や経験が違えば、生まれる問いも異なります。その問いや視点を持ち寄ることで、自分だけでは見えていなかった可能性に出会うことができます。本編終了後の交流会でも、それぞれの取り組みや課題を起点に、企業や立場を越えた対話が続きました。

こうした場のあり方は、ソシエタル・レンズが見据える未来にもつながっています。一つひとつのブランドが、自らのパーパスに対するオーナーシップとリーダーシップを持ち、ブランドアクションとして社会へとひらいていく。そして、異なるブランドや人の意思が共鳴し、社会価値と経済価値の双方を生み出しながら、一社だけでは実現できない価値を共創していく。
FICCが掲げるビジョン「あらゆるブランドと人がパーパスによって、未来を創り続けている世界の実現」。
今回のナレッジ共有会もまた、そのビジョンにつながる場となりました。参加者一人ひとりが、自らのミッションや組織に対する問いを持ち寄り、企業や立場を越えて互いの視点に触れることで、新たな気づきやつながりが生まれていきました。これからも、ブランドや人がそれぞれの問いを持ち寄り、新たな価値や共創へとつながっていく場をひらいていきます。

