FICC ナレッジブログ

暗黙知を社会につながる再現可能な知へ。 パーパスが導く価値創造の方程式「ブランド・イノベーションモデル」とは

森 啓子 /

企業には、それぞれ独自の価値創造の歴史があります。なぜその企業から、その商品やサービス、その事業が生まれたのか。なぜその企業は顧客や社会から選ばれ続けているのか。しかし、その理由を明確に説明できる企業は決して多くなく、またその答えは、事業計画や組織図だけでは説明できるものではありません。

そこには、創業者の想い、組織文化、顧客との関係性、そして事業を通じて培われてきた独自の知恵があります。しかし、その多くは言語化されないまま、暗黙知として組織の中に存在しています。それは時に企業の競争優位の源泉となる一方で、属人的な知として埋もれ、組織や社会に継承されないまま失われていくこともあります。

FICCでは、この暗黙知を「社会につながる再現可能な知」へと転換することこそが、持続的な価値創造の起点になると考えています。そのためにFICCでは、企業のブランド戦略を、持続的なブランドの姿を導き出す「ビジョンラダー®」とともに、ブランドのパーパスが導く価値創造の方程式「ブランド・イノベーションモデル(Brand Innovation Model)」により支援しています。

なぜ今、「価値創造の方程式」が必要なのか

近年、多くの企業でパーパス策定やビジョン再定義が行われています。一方で、「パーパスが事業につながらない」「新規事業が生まれない」「成功事例が属人化している」「組織に主体性が生まれない」といった課題も同時に抱えている企業が多く存在しています。理念やパーパスは存在しているにもかかわらず、「なぜ自社だからこそ、その価値を生み出せるのか」が組織全体で共有される姿になりきれていないためです。

その背景には、企業を取り巻く環境の大きな変化があります。人口減少による労働力不足や社会課題の複雑化、サステナビリティへの期待の高まりなど、企業はこれまで以上に社会との関係性を問われる時代に直面しています。さらにAIの進化によって知識や技術そのものがコモディティ化する中で、企業には「何をつくるか」だけでなく、「なぜ存在するのか」が求められるようになっています。競争優位が機能や価格だけでは生まれにくくなった今、自社がこれまでどのように価値を生み出してきたのかという独自の原理や暗黙知を見出し、それを組織全体で共有できることが持続的な成長の鍵となっています。

ブランドには、まだ言語化されていない知がある

企業の価値は、商品やサービスだけでつくられるものではありません。創業以来積み重ねてきた判断や経験、顧客との関係性、そして社会に対する姿勢。その一つひとつが、ブランド独自の価値創造につながっています。しかし、その多くは暗黙知のままです。例えば、「なぜその判断をしたのか」「なぜその事業が生まれたのか」「なぜその企業らしい価値と言えるのか」を説明しようとすると、その説明は難しく、また組織の中でも認識が統一されていないという状況に多くの企業が直面しています。

お客様を含むステークホルダーに対して説明する自社やブランドの価値が組織の中で統一されていないと、さまざまな機会損失が生まれます。例えば、本来は自社らしい強みとして評価されるはずの価値が営業やマーケティングの現場で十分に伝わらず、価格競争に巻き込まれてしまうことがあります。また、新規事業や商品開発においても、自社らしい判断軸が共有されていないことで、事業の方向性がぶれたり、既存事業との相乗効果を生み出せなかったりすることがあります。そして、組織の中で価値創造の背景にある考え方が継承されなければ、成功事例は属人的な経験として留まり、次の挑戦や意思決定に活かされません。

つまり、暗黙知が言語化されていない状態とは、ブランドの価値が十分に伝わらないだけでなく、自社が本来持っている価値創造の原理が継承されず、事業機会や組織の学習機会が失われ続けている状態でもあるのです。

この課題を解決するためには、ブランドに内在する暗黙知を、社会につながる再現可能な知へと転換することが重要です。パーパスやビジョン策定にとどまらず、ブランド独自の価値創造の方程式として「ブランド・イノベーションモデル」まで導き出すからこそ、ブランド戦略は企業の持続的な成長を支える経営戦略へと進化していくのです。

ブランドに内在する暗黙知は、どのように見出されるのか?

ブランドに内在する暗黙知を、社会につながる再現可能な知として見出すためには、ブランドの社会へのパーパスと価値創造の暗黙知を分断して考えるのではなく、それらをブランドの「動機」により理解し直すことが重要です。FICCでは、企業や事業のブランド戦略において、業界や社会につながる「動機」を何よりも重要な戦略として考えています。この考えに基づき生み出され、多くの企業を支援してきた「ビジョンラダー®」というフレームワークにより、持続的なブランドの姿としてブランド戦略を導き出しています。

「ビジョンラダー®」は、ブランドの過去・現在・未来を捉え、自社だからこそ掲げることができる「パーパス」をロジックとストーリーから見出し、持続的に求められるブランドの姿を導き出すフレームワークです。願う社会の姿をブランドが創造する市場として捉え、その実現のために変革すべき社会課題が業界課題の原因となっている既成概念、また理想の未来のために掲げるべき新たな概念を「イデオロギー」として導き出します。また、パーパスとは、単なる理想やスローガンではなく「自社だからこそ掲げることのできる社会への意思」であり、その意思を支える持続的な事業活動の源泉となるものこそが「大義に基づく独自資源」なのです。

そして重要なのは、その独自資源を、どのように社会価値へと変換していくのか、また企業が歴史の中で、これまでどのように変換し続けてきたのかを「社会につながる再現可能な知」として立ち現れさせることです。「ブランド・イノベーションモデル」とは、ブランドが目指す理想の世界のために、変革し追求していくべき「イデオロギー」に基づく、ブランド独自の価値創造の方程式です。そして、それはブランドがこれまで培ってきた判断や経験、価値創造の原理を再現可能な知として蓄積することで、未来の事業や組織の意思決定を支える「大義に基づく独自資源」となっていくのです。

ブランド・イノベーションモデルが目指すべき「6つの成立要件」とは?

「ブランド・イノベーションモデル」は、必ずしも新しい事業を生み出すためだけのものではありません。「既存事業の価値を再発見する」「組織に眠る暗黙知を継承する」「パーパスと経営アジェンダを接続する」「組織の主体性を引き出す」といった変化をもたらすことができるツールでもあります。価値創造の方程式を持つことで、組織は個人の経験に依存するのではなく、共通の問いを持ちながら未来を創造できるようになります。

FICCでは、ブランド戦略を導き出す時に、ブランドが本来持つべき意志を社会と共に進化させる上で目指すべき「6つの成立要件」を提唱していますが、その中の「2. そのブランドだからこそ語るべき説得力のあるストーリーであるか?」「4. 競合が模倣できない独自機能や資源に立脚する、そのブランド 独自の市場であるか?」の問いから導き出されるブランド戦略の要素こそが、価値創造の方程式としての「ブランド・イノベーションモデル」です。

しかし、価値創造の方程式であれば何でも良いわけではありません。ブランドの暗黙知を社会につながる再現可能な知へと転換するためには、そのモデル自体がブランドの信念や経営アジェンダ、組織の主体性と結びついている必要があります。FICCではその状態を実現するために、「ブランド・イノベーションモデル」が目指すべき「6つの成立要件」についても定義しています。

1. 社会や​業界を見つめるブランドの​信念に​根ざし、ブランドのナラティブを​体現したモデルであるか?

「ブランド・イノベーションモデル」は、単なる市場機会や技術トレンドから生まれるものではありません。ブランドがどのような業界や社会を願い、どのような課題意識を持ってきたのかという信念に根ざしていることが重要です。その信念は、創業の想いや歴史、顧客との関係性の中で育まれてきたブランド独自の「ナラティブ」でもあります。だからこそ、そのモデルは事業戦略であると同時に、ブランドの存在意義を体現するものであることが重要です。

2. 企業・ブランドの​成長のための経営アジェンダに​最適化された​モデルであるか?

どれだけ魅力的な構想であっても、企業やブランドの成長につながらなければ持続することはできません。「ブランド・イノベーションモデル」は、持続的な商品開発、事業ポートフォリオの再編、新市場を捉えた成長戦略など、中長期的な経営アジェンダと密接につながっている必要があります。ブランドの理想と経営課題が分断されるのではなく、両者をつなぐことで持続的な価値創造が可能になるのです。

3. 組織の​中から​の確信を得られる、自分たちだから​こそのモデルであるか?​​(​ロジックとナラティブの共存)​

「ブランド・イノベーションモデル」は、世の中の汎用的な価値創造のモデルを導入することではありません。暗黙知でありながらも、企業やブランドのこれまでの歴史の中で、積み重ねてきた経験や成功体験、判断の積み重ねがあるからこそ、自分たちのモデルだと確信を持つことができる、自分たち独自のモデルであることが重要です。そのためには、「ブランド・イノベーションモデル」がロジックとして説明されるだけでなく、自分たちの歴史や想いから語られるナラティブがあることが欠かせません。ロジックとナラティブが共存する価値創造のモデルであるからこそ、組織の中に確信が生まれるのです。

4. 組織全体の​主体性と​イノベーションを​引き出す、​組織に​“問いかける”モデル​であるか?

「ブランド・イノベーションモデル」は、企業やブランドの歴史の中にある暗黙知から立ち現れてくるものですが、同時にこれからの未来に向けて、自分たちだからこその価値創造の可能性を想像させるような、組織に対して​“問いかける”モデル​であることが重要です。正解を提示するのではなく、既存事業の付加価値の発見や、新規事業のアイディエーション、またパートナー協業の可能性など、自分たちだからこその未来への価値創造を想像し始める「動機」となるモデルを目指すことが重要です。

5. ブランドが願う理想の世界を市場として捉える「野心的なビッグピクチャー」と共に存在するモデルであるか?

多くの事業戦略は既存市場を前提に考えられます。しかし「ブランド・イノベーションモデル」は、ブランドが実現したい未来そのものを市場として捉える考え方に基づく野心的なモデルです。つまり、現在存在する需要に応えるだけでなく、理想の社会の実現に向けて新たな価値や市場を創造していく思想です。だからこそ、「ブランド・イノベーションモデル」は短期的な成長戦略ではなく、社会に対するブランドの意思を示すビッグピクチャー「ビジョンラダー®」によるブランド戦略と共に存在するモデルなのです。

6. 時代が変化しても、普遍的な価値創造の方程式となるモデルであるか?

企業やブランドが向き合うマクロ環境は、時代とともにこれからも変化し続けていきます。しかしブランドが大切にしてきた信念や価値創造の原理は、時代を超えて受け継がれるものです。だからこそ、「ブランド・イノベーションモデル」が目指すのは一時的な成功法則ではなく、マクロ環境が変化していく中でもブランドの変わらない信念に基づく、社会につながる普遍的な価値創造の方程式であること。そのためにも、過去・現在・未来を行き来しながら、ブランドの「ナラティブ」を軸に「マクロ」まで捉えた、ブランドの社会につながる信念としての価値創造の方程式を導き出すことが重要です。

フレームワークではなく「ブランドだからこその価値創造の方程式」を目指して

FICCでは「ブランド・イノベーションモデル」をあえて「フレームワーク」ではなく「価値創造の方程式」と呼んでいます。一般的にフレームワークとは、そのあり方自体も多くの企業に適用できる汎用的な知識として提供されます。しかし、ブランドの価値創造は、これまで見てきたように「そのブランドだからこそ成立するモデル」であるべきです。「ブランド・イノベーションモデル」は、最小ルール・最大余白の「恒等式」を哲学に持ちながら、願う社会に対して価値を創造し続けるために欠かせない存在として「価値創造の方程式」として機能することを目指しています。つまり、変わらない哲学を持ちながらも、導かれる解はブランドごとに異なる。だからこそ、唯一無二の価値創造につながるのです。

ブランドとは、社会に対して価値を創造し続ける意思です。そして「ブランド・イノベーションモデル」とは、その意思を「社会につながる再現可能な知」へと転換するための価値創造の方程式です。企業やブランドが持つ固有の信念や知恵は、本来、特定の個人や時代の中だけに留まるものではありません。それらを次の事業へ、次の組織へ、そして次の時代へとつないでいくことこそが、ブランドの持続的な成長につながると私たちは考えています。FICCはこれからも、ブランドに眠る暗黙知を「社会につながる再現可能な知」へと変えていくための思考と実践を探求し続け、ブランドの力になっていきたいと願っています。

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※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識とリベラルアーツの哲学により、FICCが開発したフレームワークです。

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「ブランドマーケティング」

  • 持続するブランド
  • 市場を創るマーケティング
  • 共創がつづくクリエイティブ
  • 存在意義の共創

FICCは、人の想いの共創を通じて、企業やブランドのビジネスを成功へと導くブランドマーケティングエージェンシーです。
ブランドの社会的意義による新たな市場を創造する「ブランドマーケティング」の考えと、20年以上にわたる実績で培ったノウハウを通じて、企業のブランディングやマーケティング活動の支援、さまざまなセクターの方々と未来に向けた取り組みを行っています。