これまでの経験全てが自分の糧になる。記憶に残る体験をつくるために大切なこと

今回インタビューしたのは、メディア・プロモーション事業部に所属する田崎 聖子です。前職の飲食業での経験を活かし、コミュニケーションプランナーとして、体験を強みとするプロモーション設計の仕事に携わっています。彼女が大切にしている「相手の期待を超える」こと、記憶に残る体験について話を聞きました。

「相手の期待を超える」サッカーと飲食業で培った俯瞰力とチームワーク

前職は飲食系企業で、ホールの責任者として接客サービス・調理・店舗マネジメントに約4年程携わっていました。そこから、クリエイティブな仕事に興味を持ち、Webの専門学校に半年くらい通った後、FICCに入社しました。大手企業の案件が多く、自分の携わった仕事が世の中に出ていく実感を感じられそうと思ったことや、「デザイナーよりプロジェクトマネジメントをする方が向いてると思うよ」と面接で言われて、スキルだけでなく自分の人となりを見てくれていると感じたことから入社を決めました。入社後は、Webディレクターとして化粧品・ファッション・食品メーカーのサイト制作やキャンペーンのプロモーションを経験しました。現在は、主に体験設計を強みとするコミュニケーションプランナーとして、プロモーションの骨子にあたる戦略やコンセプトを考え、クライアントへの提案からプロモーションの進行までを担当しています。

学生時代にサッカーをしていたことや飲食業の経験から、俯瞰力とチームワークを築く力を身につけてきました。お客様に呼ばれてから動くのではなく、相手のタイミングを見ながら先を読み、お客様は何をして欲しいのか、どうしたら一緒に働く従業員が動きやすくなるかなどを常々考えていました。毎回同じメニューを注文される常連客に対しては、厨房のスタッフと連携してお客様が席に座って従業員と会話をする頃にはお料理を提供できる状態にするなど、相手の希望や要望を汲み取ってそれぞれのスタッフが最適な動きができるよう意識していました。そういった飲食業界で学んだ「目配り・気配り・心配り」はホスピタリティとして、今の仕事にも活きていると思います。相手の期待通りの対応をすると満足はしてもらえるけど、印象には残らない。ブランドのファンになってもらうためには「相手の期待や想像を超えること」が大切だと考えてます。

バズることを狙うより、ブランドの資産として記憶に残る体験をつくる

体験設計において、「共感(Empathy)の矢を創り、繋げること」が私のテーマです。共感力の高さを活かして、自分を誰かに重ね合わせて感情や心の動きを理解し、他者が共感できることを抜き出し、それを価値のある材料として生活者の心に届く矢をつくって繋いでいくことを意識しています。

例えば、Anker「Eufy」のキャンペーンでは、ロボット掃除機(Eufy)に掃除をおまかせして、コロナ禍にお家で過ごす夫婦の時間をより楽しく充実したものに変えていこうというSNS施策「#掃除のかわりにしたいこと」を企画しました。通常インフルエンサーさんにお願いすると、「Eufyを使ってみた」と企業PRのイメージが強くなってしまいがちですが、「Eufyが掃除をしてくれる時間、夫婦や家族で何がしたいか?」をSNSで自由に投稿してもらうことで、インフルエンサーさん自身が楽しみながら発信してくれました。「お父さんが紙芝居を作りました」「料理をしました」「みんなでダンスをしました」などの投稿を見て、「こんなにほっこりするPR、初めて見ました」というコメントもあったりして。みんなが共感できるベネフィット(生活者が商品から得られる恩恵やプラスの効果)に対して、届く人にちゃんと届いたことを実感しました。

アンカー・ジャパン株式会社「eufy」

SNS施策は投げて終わりじゃなく、ターゲットにどういうリアクションをしてもらいたいのかまでを考えて、「バズること」を狙うより、「記憶に残るもの」にしたいと考えています。一時的な話題性に反応してもらうことよりも、中長期的な視点でブランド自体のファンを増やし、ブランドの資産として残る施策にすることを大切にしているからです。さきほど紹介したEufyのキャンペーンで「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である、を体現したキャンペーンだ」とシェアしてもらったことがありました。お父さんが欲しかったのは「ドリル」そのものじゃなくて、子ども部屋に本棚を作るための「ネジ穴を開けること」。生活者が本当に欲しいものを知ることの重要性を表す格言なんですけど、「欲しいのはロボット掃除機そのものではなく、その先にある夫婦や家族の充実した時間だ」という、こちらの意図がちゃんと伝わっているんだなってことがわかって嬉しかったですね。

事例紹介
ブランドの独自資源に還元される、世の中の変化を捉えたブランドプロモーション
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また、プロモーションを推進する中で、コミュニケーションプランナーは戦略を立体的で手触り感のあるものにしていく役割があると思っています。マーケティングの戦略って概念の話が多いため、平面だと伝わりにくいんです。だから、タッチポイント(生活者と企業との接点)、コミュニケーション、タイムライン、ボリュームなどを踏まえて、相手により具体的なイメージをしてもらえるように伝える必要があります。例えるなら、「美味しい料理をつくる人」ではなく、「上手い料理を提供できる人」が理想です。フレームワークを活用すれば戦略は形にできるんですけど、レシピ通りにそのままつくった料理だと相手の心までは動かない。そこに、盛り付け、サービス、空間の演出など、もっと立体的な体験を通して伝えることで、「また来たいな」「また食べたいな」と記憶に残るものになる。そこまで考えて体験を設計することが大切だと思います。広告の先にいる人だけでなく、クライアントやチームメンバーなど、目の前にいる誰かの心を動かせる人でありたいですね。

「それぞれの立場を理解する」三方よしを実現するための考え方

アイリスオーヤマ株式会社「アイリスオーヤマ マスクプロジェクト」

2021年に実施したアイリスオーヤマ「ナノエアーマスク」のプロモーションでは、日本で最初にJIS規格(日本産業規格)に適合した安心・快適なマスクの普及を目指して「アイリスオーヤマ マスクプロジェクト」を実施しました。安全なマスクを1番必要としているエッセンシャルワーカー(福祉・介護施設勤務や配送業者など)の方々に使ってもらうために、プロジェクトをサポートしてくれる企業や人々を募集しました。クライアントもぜひこの施策をやりたいと言ってくれて、プロジェクトを立ち上げた経緯や想いを公式SNSやnoteで発信してくれました。その結果、想定していた数を大幅に上回る数百件の応募がありました。さらに、「エッセンシャルワーカーの方にもっと知って欲しい」とプロジェクトの想いに共感してSNSで拡散をしてくれる人たちもいて、それぞれに共感を得ながら繋げることができた企画になりました。

プロモーション戦略を考える時、私が特に意識していることは、「ブランド・生活者・社会(メディア)」の3軸からコミュニケーションを考えることです。クライアントって、ブランドのことは熟知しているし、ターゲットのことも市場調査をすることである程度理解しているんですけど、生活者や世の中にとってどんな発信が価値になるのかという視点には意外と気づいていないことも多いんです。そこで、FICCは代理店という第三者の立場だからこそ気づけることがあると思うので、必ず3軸を捉えた上で戦略を立てることをベースにしています。

さらに、ターゲットとなる「クライアント・生活者・メディア」それぞれのインサイト(本人も気づいていない動機や本音)について深く理解することを大切しています。クライアントインサイトは主に担当者に向けて、どんなミッションを持っているのか、どういう承認フローが必要なのか、担当者の趣味嗜好などを踏まえた上で、どのようにすれば実現できるのかを一緒に考えます。施策を成功させるためには、まず担当者自身に「この施策をやりたい」と思ってもらえることが大切なんです。また、クライアントとはパートナーとして並走することが大事だと思っています。「制作作業は『代理』できても、問題意識は『代理』できない。ブランドを前進させるエンジンは、常に企業自身の中にある」というアートディレクター・佐藤 可士和さんの言葉にもあるように、第三者の私たちはブランドの主体にはなれないんです。だからこそ、クライアント自身が自走できることを目指して、一緒に考えることを意識しています。

生活者のターゲットインサイトは、一人の声を深掘りする「N=1視点」で考えます。一人の声に焦点を当てることで、アンケート調査では出てこないような本質的な課題を見つけることができたり、多くの人の共感を得るようなパワーを持った本音を発見できたりするんです。

最後に、メディアインサイトでは、パートナー会社さんと情報交換をしながら、今世の中はどんな状態で、どういう情報ならメディアが興味を持ってくれるのかを考えます。事実だけを伝えるのではなく、メディアが取り上げやすいストーリーで伝えるという工夫をしています。

記憶に残り続ける上で大切なこととは。日常の体験から得た気づき

最近とても印象に残っているのが、とあるパン屋さんで食べたハードパンです。食べた瞬間、おばあちゃん特製のぬか漬けを食べたような不思議な感覚がありました。スタッフさんが毎日工房で一つひとつ心を込めて焼き上げていて、オーナーの想いがたくさん詰まったパンだからこそ、懐かしさといろんな素材が織り重なるとても複雑な味がするんだと思います。これはまた食べたいなと思ったし、人におすすめしたくなる程とても印象に残っています。その体験から、作り手の確固たる想いに触れた時、心が動き、鮮烈な記憶として残ることに気づきました。自分自身が良いと思えるものでないと人の心は動かせないと思うので、私自身も体験をつくる上で、大事にしていきたいことですね。

今は、地域や地方のブランディングに興味があります。「誰かの役に立つこと」がウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に健康で幸せな状態)の一つだったりするので、これまでプランナー職で培ってきたことを活かして、その土地の魅力を伝えることをやっていきたいなと思っています。

執筆:黒田 洋味(FICC) / 撮影:後藤 真一郎

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