心を動かすストーリーを描きたい。映像業界出身のクリエイティブディレクターが惹かれ続けるもの

今回インタビューをしたのは、メディア・プロモーション事業部に所属する森田雄。映像や脚本制作の経験を経て、FICCではクリエイティブディレクターとして、コンテンツのクリエイティブに向き合う日々を送る森田。昔から変わらない「ストーリー」への興味から、そのストーリーがもたらす人々への影響やプロモーションへの活用方法、社内外でのクリエイティブ活動について聞いてみました。

映像という一コンテンツから企画という根幹へ

FICCとの出会いは2016年。当時は動画広告の需要が増えていたこともあり、僕が前職で映像制作に関わっていた経験とマッチしたんです。マーケティングの「マ」の字もわからないまま、面白そうな会社だなと思い入社しました(笑)。

前職では、空間演出を手掛ける株式会社ネイキッドに所属していました。当時は様々な映像を手がけるプロダクションで、僕はディレクターとして、ドラマのタイトルCG、ミュージックビデオ、プロジェクションマッピング、イベントや広告の映像などに携わっていました。時には長編映画の助監督・編集もしていました。

コンテンツの企画から携わる機会はあったのですが、大枠が決まっているなかで細かい演出の仕事がメインだったんです。「人に何を伝えるのか」の、ストーリーを自分でつくり出すというより風上の部分に面白さを感じて、ずっとどこかで企画そのものをやりたいと考えていました。

そんな時ある水族館のプロジェクションマッピングイベントで、先輩のプロデューサーと一緒に企画を考え演出をしたことがあって。その時に、プロモーションという大きな枠組みのなかのひとつの「点」だった映像が、「仕掛け」という「線」に繋がるようなイメージが持てたんです。それで、映像は自分の武器にするんだけど映像だけに囚われたくないと。そう思ってFICCに辿り着いたんです。

ストーリーのあるものに惹かれ続けた

昔から映画が大好きだったんです。今思うと、そこでストーリーに没入できた原体験があったからなんでしょうね。

僕が10代の頃、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーといったのちに映画監督になるような人たちが、ミュージックビデオで面白いことをしていて、映像表現が花開いていた時代だったんです。彼らに憧れて、映像を学びたいという漠然とした思いで芸術大学に進学しました。

ネイキッドでも、小洒落た映像を作る人のように思われていたんです(笑)。でも、やっぱりストーリーのある映像を作りたいと思っていて。当時、ドラマのタイトルバックを作る仕事をよくやっていたんです。タイトルバックは、数秒のなかでドラマのテーマをギュッとまとめて、いかに視聴者にストーリーを伝えるかが重要です。そこにやりがいを感じていました。

映画の脚本・演出に関わった経験もあって。目が見えなくなったボクサーが、ある人と出会ったことで葛藤を乗り越えて再起を果たす、というような6分くらいの短いストーリーを書きました。俳優事務所のプロモーション用だったのですが、完成試写会で自身の境遇と重ね合わせて泣いてしまった方がいた、という話を後から聞いたんです。ストーリーで心を動かすことができたと実感した瞬間でした。

これらの「ストーリーを描く」経験が、今に活かされている部分はあります。以前、自主練としてつくった広告ストーリーを見た代表の森から「ビジュアル的なイメージが湧く」と言われたんです。脚本には、台詞と動きしか書かれていないんですよ。面白くないと感じるドラマは、情報が全て台詞で説明されがちじゃないですか(笑)。仕事柄、感情や情景のビジュアルをイメージさせるようなストーリーの書き方が身についてきたんでしょう。それを映像以外のコンテンツにどう転用させていくのか。「仕掛け」部分は意識しながら向き合っています。

見る人を自分ごと化させる「ストーリー」

僕らがやっている仕事って、何もないものに対して決断をすることなんです。最初はプロモーションの形が全くできていないなかで、「あなたたちが伝えるべきことや商品の価値はこれです」と言っていくこと。プロモーションの場合はまだ事前に与えられる材料や情報があるからいいけど、例えば新規事業の場合は、みんなで材料を持ち寄って「信じる未来ってなんとなくこういうことだろう」という状態で作っていくんです。みんなの頭の中の漠然とした絵を模索して、決断をしていかなければいけないんですね。ここにお金をかけようと決断する時って、相手が想像できる絵を見せることが共感と納得に繋がります。その手段として「ストーリー」は強いんです。

会長の荻野が『ストーリーテリングの魔術』で言っていたことですが、人は物事の因果関係から直感的にストーリーを感じて、さらにそのストーリーからテーマを発見した時に「面白い」と興奮を覚えるんです。ストーリーとして体験すると、確かなものとして信じることができてしまうんですよね。もちろん、データというロジックで示すこともすごく大事で納得のいくことなんだけど、示してもなお「それって本当?」と、その人たちの納得を得られないことも。理由は、自分たちで体験や発見ができていないからなんです。プレゼンの時には、ビジュアル面でのクリエイティブ体験も含めて、ストーリーを意識したスライドをつくっています。相手の予想を覆したいと思って提案をする時ほど、データだけのロジックでは通用しないからです。

テクニック的な話になってしまうのですが、ストーリーに「感情」を描くことで、さらに相手が自分ごと化して受け入れやすくなるんです。誰しも「感情を揺さぶられたい」という欲求を持っています。それは「キュン」とか「心温まる」というような「感動」とは限りません。「スカッとする」や「悲しくて泣ける」という感情も含まれます。「この動画面白いよ」と言われてるものって、そんな気持ちにさせるストーリーが多いですよね。

このコロナ禍において、世の中がどうなっていくか誰もがわからない状況ですよね。僕自身、ものを手に取るときや、それを選ぶ理由というような手触り感がどんどん大切になってきているように感じていて。だからこそ、ストーリーから自分でテーマを発見し体験していく「自分ごと化」のプロセスが、今この時代において必要だと思っています。2022年の年始挨拶で、代表の森が言った「未来を伝えるストーリーが、今の時代には不足している」という言葉にも共通することです※。生活者が自分に重ね合わせやすい感情的な仕掛けをいかにつくるか、同じ方向を見せてあげられるか。ストーリーが伝わってこそ「自分ごと化」ができます。特に、ビジネスにおいて新しいことをはじめる時こそ、「ストーリーを伝えること(ストーリーテリング)」が大事になってきます。※森の年始挨拶はこちら

僕たちの仕事は「伝えること」

クリエイティブに関わる僕たちの仕事は、生活者に伝えるべきことを設計するところから始まります。ストーリーを描く、映像をつくる、デザインをする、写真を撮る。手法の違いはあれど、「ものづくり」の根本で大事なことは全て一緒だと思っています。もちろん細かな制作の手順は違いますが、それらを通して「伝えること」をしっかりと定義していくことは全て同じです。そして、伝えなければいけない題材のなかで「どうやって伝えるのか?」の緻密な設計ができるのがFICCの強みでもあります。

最近では、株式会社オグラ「こどもメガネ アンファン」の吊り広告のクリエイティブに携わりました。「メガネの位置付けを変える」という戦略と「子どもの視力は成長とともに変わっていくから、眼鏡は安くてもいいでしょ?」という親に対しての啓蒙になるようストーリーを考え、コピーに落とし込みました。ついスルーされてしまいがちな電車広告。だからこそ、印象に残るようなものに落とし込みたいとチームメンバーで話し合い、写真と目が合う感覚になるよう「目」を前面に押し出すアイディアを採用しました。レイアウト・デザインはアートディレクター・デザイナーの河田が担当しています。

また、2021年から社内のメンバーと一緒に『コミュニケーションラボ』というメディアを運用しています。「伝えること」そのものを研究して、その価値をきちんと社内外に知らしめていきたいというのがこのメディアの目的。ビジネスに還元をしていくけれど、ビジネスに縛られない、自由な研究の場なのです。今後は、伝えることに携わる僕自身の想いや、面白さや価値を深めるような研究過程を伝えていきたいですし、共感してくれるメンバーも増やしていきたいです。

心を動かすストーリーを突き詰める

今後は、ストーリーの知識を体系化して、プロモーション全体設計だけじゃなく、コンテンツの企画立案でも活用したいと思っています。今はまだ、ストーリーで的確に心を動かす型に落とし込みができていない部分もあって。わかりやすく言うと、今はこうすればいいパンチが出ると身体がわかっていない状態(笑)。 この筋肉をこの角度で身体を使えば、クリティカルヒットできるとわかれば精度は上がりますよね。

今もストーリーへの想いや考えは変わりませんし、もっと「心を動かす」ストーリーを描きたいと思っています。生活者に憑依して「こんな価値を伝えれば心が動く」という核の部分を設計するのがクリエイティブディレクションの醍醐味です。そして、その価値を伝えることもすごく短いストーリーで、それを突き詰めたのが「コピーライティング」だと個人的には思っているんです。そこには言葉のテクニックも必要ですが、より人の心を動かすストーリーを描きたいから突き詰めていきたい。なんでも興味のあることはストーリーに結び付けてしまうんです(笑)。それだけ今もこれからもストーリーに興味があるんでしょうね。

執筆:深澤枝里子(FICC) / 撮影:後藤真一郎