FICC ナレッジブログ

【第4回】「2つの障害の特性」と「2つの価値のシナリオ」とは

稲葉 優一郎 /

社会問題への取り組みを顧客との関係強化のために適切に活用できているブランドはどれほどあるのでしょうか。本連載ではFICCが独自に研究した「顧客関係強化の触媒としての社会問題」というテーマを全6回の記事にて読み解いていきます。ブランドが向き合うべき社会問題とはどういったものなのか、なぜ必要なのか、どう取り扱えばいいのか。そのような課題を解決するためのヒントが得られる内容となっております。
※2020年9月に知識向上を目的として作成した社内報を、社外の皆さまにもお役立て頂けるよう連載記事として公開しています。

第4回目となる本記事では前回の記事で登場した2種類のターゲット、”PT(Philanthoropy Target)”から”MT(Marketing Target)”への波及効果を最大化させることに必要な視点を、事例を確認しながら考察していきます。

<第3回>はこちら

共感を高めるには、集合的アイデンティティの活用が有効

fig.1の構図において重要となるのが、「PTからMTへの波及効果をどれだけ最大化させることが出来るか」です。では、直接の受益者であるPTだけでなく、MTも共感できる内容であるために、何が必要でしょうか。

集合的アイデンティティという視点から考えてみましょう。集合的アイデンティティとは、共通のエピソードや感情をもつと想像されるコミュニティやカテゴリに対する概念です。遠い国の子供の飢餓問題よりも、身近な人ひとりの死が重く感じられるように、集合的アイデンティティから発見される個人的なエピソードや体験と紐づけて社会問題を想起させることで、共感性が高まります。

例として、パンパースが2014年に行った「ママも一歳、おめでとう」。このドキュメンタリー動画では、一歳児検診という顧客が共通して体験する個人的なライフイベントが、「不安」や「喜び」を表す共通言語となり、PTである「過小評価されているママ」以外にも共感を呼び、その波及効果を最大化させていきました。この集合的アイデンティティの発見のためには、どのような個人的な背景や経験を持って今に至るのかという、顧客のコンテキストの理解が非常に重要となります。

出典:パンパース | MOM’S 1ST BIRTHDAY ママも1歳、おめでとう。

顧客が一人の力では解決できない問題にこそ、ブランドが取り組む価値がある

これまでの視点から、ブランドが解決に取り組める可能性のある問題は複数浮かび上がってくるでしょう。PTが抱える課題も、ブランドの提供する価値も、一つではありません。では、顧客との関係の強化のためには、どの問題に取り組むことが最も効果的なのでしょうか。

社会問題が孕む構造には、個人の意思と努力で解決できる範囲と、出来ない範囲があり、これを分けて考えることが必要です。例えば、肥満という社会問題においては、個人の運動努力によって解決できる範囲と、若年期の健康な食事に対する知識教育機会や、低価格のジャンクフードの問題など、個人だけでは解決出来ない影響の範囲があります。

スポーツ用品メーカーの「アンダーアーマー」が提供している「MyFitnessPal(マイフィットネスパル)」というアプリでは、フードダイアリーによるカロリー計算や、エクササイズ等のアクティビティを記録することによるモチベーション維持と健康管理を行うことが出来ます。この事例は個人の意思と努力で解決できる範囲の問題の解決に貢献しており、日々の記録行為によるブランドへの愛着向上が期待できますが、一方で、本資料の考える「社会問題を捉える」取り組みには当たりません。顧客が個人の力だけでは解決ができない構造的な複雑さを持つ問題にこそ、企業と顧客の双方にとって、ブランドの取り組むべき価値があると考えます。

出典:「MyFitnessPal(マイフィットネスパル)」MyFitnessPal, Inc (2014〜)

社会価値と経済価値を両立するためのシナリオを描こう

前述までの視点によって、「社会問題に共感する顧客の態度」は形成できるでしょう。
しかし、これだけでは十分にブランドと顧客の関係を強化出来るとは言えません。理由としては主に以下の2つがあります。

  1.  「共感する態度」だけでは社会価値は生み出せず、顧客が主体となった「行動」こそが社会価値創造の鍵であること。
  2. 社会問題の解決を行った先に、ブランドへの経済的価値としてのリターンがあるとは限らないということ。

1つ目に関しては、共感から行動までの顧客のシナリオを前もって明確に描いておくことが大切です。このシナリオに至るまでの金銭的・時間的・社会規範的なハードルが低く、また明確であるほど、実際の行動につながる確度が上がると言えます。企業に共感・賛同した顧客がどのような方法で行動を起すことが出来るかは、事前に設計されるべきでしょう。

2つ目に関して、PTへの社会価値提供を行った先に、どのような影響の連鎖が起きることで、ブランドの抱える課題への経済的なリターンが見込めるのかというシナリオを描く必要があります。

社会価値・経済価値実現までのシナリオが、それぞれ明確に描かれているか?という点を考慮した設設計が、2つの価値の両立の達成には不可欠です。

次回、「【第5回】日本国内におけるケーススタディ」では、それぞれ異なる実行手段を取っている3つの事例を紐解き、どのように自分たちの顧客が抱える問題を解決し、何が重要なのかを考察していきます。

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