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【第2回】日本社会において社会問題を「顧客視点」で捉えるメリットとは

稲葉 優一郎 /

 

社会問題への取り組みを顧客との関係強化のために適切に活用できているブランドはどれほどあるのでしょうか。本連載ではFICCが独自に研究した「顧客関係強化の触媒としての社会問題」というテーマを全6回の記事にて読み解いていきます。ブランドが向き合うべき社会問題とはどういったものなのか、なぜ必要なのか、どう取り扱えばいいのか。そのような課題を解決するためのヒントが得られる内容となっております。
※2020年9月に知識向上を目的として作成した社内報を、社外の皆さまにもお役立て頂けるよう連載記事として公開しています。

第2回目となる本記事では欧米社会と日本社会における国民性や社会構造の違いに着目し、日本社会において社会問題を捉える際に考慮すべき視点や、顧客視点で社会問題を捉えるメリットを考察していきます。

<第1回>はこちら

欧米社会と日本社会の違い、欧米社会の国民/構造 

世界各国の中でも欧米社会は社会問題に関する取り組みが比較的進んでいます。それは歴史的にも、社会全体が社会課題を捉えられやすい構造を作っていることが大きな要因といえると考えられます。
その構造を左右する一番の原動力として、国民から社会運動が行われやすい事がいえます。公民権運動や反戦運動、ヒッピーの登場、労働ストライキに到るまで、様々な社会運動が歴史上で行われてきました。そういった国民の意識の高さが社会問題を捉え、メディア、企業、国を動かすキッカケになってきました。また司法でも懲罰的損害賠償によって企業、国の責任を追求できる制度があることも影響していると考えられます。

アメリカ事例:水不足問題にみる国民の意識の高さ

出典:unsplash

アメリカの干ばつが続く地域では、水不足に対する深刻な懸念が市民やメディアにあります。そのため地下水源を組み上げるボトル水メーカーに対する厳しい視線や糾弾が起こっております。2015年に深刻な水不足が起きた際には、州内の貴重な水をボトルに詰めて販売し利益を得るのは如何なものかとメディアが非難を始め、市民団体も署名を集めて州内ボトル水工場の操業停止を要請しました。市民やメディアが積極的に社会問題を捉えているため、企業活動に対しても社会問題を捉える重要性が高いといえるでしょう。

欧米社会と日本社会の違い、日本社会の国民/構造

欧米社会で際立つ国民の社会運動はメディア、国、ブランドさえも変えうる動きと構造を作り出すことがあります。この社会運動の観点から、日本における社会価値の捉え方と経済価値の両立への示唆を導きだします。

日本の社会問題の変遷(コンテキスト)から見える新たな視点

個人のエピソードが日本社会を動かしてきた
日本は欧米社会と比べ、国民から自発的に社会に対し、問題提起を行うことが少なく、社会価値を形成する動きに市場が敏感ではないという現状があります。加えて社会全体の利益よりも、自分が属する身近な共同体でのルールを重んじる文化があるため、重ねて社会運動への行動のしづらさが予測されます。しかし、このような日本社会でも変化は起きてきました。それは個人のエピソードによる連鎖的な共感によって、日本社会は変化を迎えてきていたのです。

共同体に共感されるストーリーの重要性
現在まで、日本で世論をうごかした様々な事例(御堂筋事件・木村花さんSNS誹謗中傷問題など)を見ると、さまざまなセクターを巻き込んでいく「共感」をいかにつくるかが重要であるということが見て取れます。日本社会で社会問題に取り組み、経済価値との両立を目指す際は、このような日本特有の文化を機会としてとらえ、属する共同体にとって共感性の高いストーリーをインストールすることが重要だといえます。

御堂筋事件:日本において世論を動かすには

出典:photoAC

1988年11月、大阪御堂筋線にて、痴漢行為を注意した女性が逆恨みで強姦されるという事件が発生しました。この事件を受け、「性暴力を許さない女の会」が発足。事件の翌月、市の交通局や鉄道各社に要望書を提出し、それまで常態化していたセクハラへの社会的意識が高まり、女性専用車両が導入されるきっかけとなりました。日本においては、このように長期間存在していた問題が、強烈な個人の悲惨なエピソードが、マスメディアを動かし、社会に伝わっていった事例が見られます。

日本において考慮すべき視点とは

日本における企業の社会問題の捉え方
近年の日本においては、前述のような日本と欧米諸国におけるコンテキストの違いを捉えず、CSRにとどまる、あるいはソーシャルグッドのようなトレンドとして社会問題を捉えた事例が散見されます。
また日本で企業が社会問題捉えていく際、社会問題意識が顧客のニーズになっていないため市場が成熟しておらず、顧客としても自分ごととして捉えにくいという課題が存在します。

社会問題をとらえ、ビジネスバリューに変えていくために、社会問題そのものを解決するようなソーシャルビジネス以外においては、その社会課題が「誰」にとっての問題であり、マーケティングターゲットにどのように影響していき、社会問題へのアプローチがどのような価値を提供していくかを考慮する必要があると考えます。

「顧客視点」で捉えることによるメリットとは

日本において、多くの場合、社会問題は企業の顧客の顕在ニーズと一致しません。このため、社会問題意識の投げかけの「主語」が、企業あるいは問題そのものになった発信がよく見受けられます。

よく見かける例としては、プラスチックごみ削減のためのエコバック持ち歩きの呼びかけ。この呼びかけでは「海洋プラスチックごみ問題」が主語になっています。「海洋プラスチックごみ問題」に対するニーズを持つ顧客はごくわずかなため、顧客が社会課題を自分ごと化することは難しいでしょう。

企業や社会問題そのものといった「大きな主語」で問題が投げかけられるとき、「自分だけが協力してもどうせ無駄」という意識や、「みんながやっていれば自分くらいやらなくても良いだろう」という意識が生まれます。さらに、社会運動に対して消極的であるという日本の歴史的背景と相まって、社会問題を自分ごと化、しいては社会運動化することが出来ない状況があります。

多くのブランドビジネスは、顧客のニーズを解決するものであり、個人の問題をいかに解決するかという視点が重要です。「社会問題」を起点に考えるのではなく、ブランドの顧客が抱える「負・ストレス」を起点として社会問題考えることで、企業は以下のことが可能になると考えます。

次回、「【第3回】「顧客視点」の実行にあたり必要な3つの”2″とは」では、ブランドビジネスの遂行にあたり、本連載で紹介する考え方の核となる問い「ブランドの便益を最大限享受するために顧客が抱える障害はなにか?」について考察していきます。

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