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データを活用できないブランドに勝ち目はない

荻野 英希 /

デジタルマーケティングとは単に「デジタルなチャネルでマーケティングを行うこと」でしょうか?今ではDSP(デマンドサイドプラットフォーム)などのテクノロジーを通じて、個別のユーザー(クッキーID)単位に広告を配信し、その反応をデータとして収集することができます。収集されたデータは、共通する項目(主にクッキーID)を軸に、他のデータと統合され、その相関関係から、誰が、どの広告に反応した結果、購買至ったかなど、ユーザー一人ひとりの「属性」や「行動」を詳しく知ることができるようになりました。「データを通じて、マーケティング全体を最適化する」ことが可能になった今、デジタルマーケティングの定義が変わりつつあると思います。

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そんな「データを通じたマーケティング全体の改善」を可能にする「DMP」(データ・マネジメント・プラットフォーム)や「ビッグデータ」は間違いなくゲームチェンジャーです。大規模な消費者のデータを正しく組み合わせることができれば、実際の広告効果をリアルタイムに測定し、そのパフォーマンスを確実に、短期間で改善することができます。これは多くの企業にとって機会であると同時に、大きな脅威でもあります。今後、マーケティングを行う企業の優位性は、データに対するリテラシーと、データを基に業務を実行できる体制によって定義されるでしょう。

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特に消費財などのカテゴリーでは、データを基にユーザーを知ることが重要です。自己関与が低い場合、顕在化したユーザーのニーズを検索などから刈り取るような手法は通用しません。購買行動は合理的な判断ではなく、多くの場合衝動できです。そのため、実際に購買が発生した状態から逆引きし、どのような条件によって衝動が発生したかを調べることが有効となります。 例えば競合が、コンビニなどで使えるポイントカードの購買データと、複数の動画広告の試聴データを掛けあわせたとします。そこから、ブランドスイッチに最も効果的なクリエイティブを見つけ、こちら側のコアターゲットのデモグラフィックに向けて配信をし始めます。時間の経過と共に、そのターゲティングはより詳細なセグメントに分類され、最適なクリエイティブが、適切なフリーケンシーで配信されます。中でも戦略上最も重要と判断されたセグメントに対し、効果が証明されたクリエイティブは、デジタルの域を超え、TVCM、屋外、店頭でのコミュニケーションにも起用されていきます。

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これは未来の話ではなく、現在行われていることです。競合は戦略的なデータマネジメントを徹底し、確実な答えを、リアルタイムに導き出し、感覚的なマーケティングでは太刀打ちできない正確性とスピードというアドバンテージを得ています。もはや「データマネジメントに取り組まない」という選択肢はありません。どの企業も、直ちに効果的なデータの活用方法を理解し、マーケティングROIの改善に取り組むべきです。

もちろん、「ビッグデータのマーケティング活用」をスローガンとして掲げている企業は既に多く存在します。しかし、その具体的な戦略や、活用方法は明確でしょうか?どうすればデータを活用し、競合優位性を確立することができるのでしょうか?DMPはデータの収集と分析という中心的な役割を担います。正しい活用方法を知るためには、先ずはデータを収集する目的と、正しく管理する方法を理解することから始めましょう。

データマネジメントの目的

DMPは様々なデータを格納し、その相関関係を調べることができるツールです。Webサイトの閲覧データ、デジタル広告の配信データ、メール会員のデータベース、ソーシャルメディアのデータなどだけでなく、マス広告のデータ、店頭のPOSデータなど、様々なデータを格納・統合し、分析することができ、マーケティングの様々な側面での活用が期待されます。しかし、企業は先ずDMPをマーケティング予算の大半を占める「広告」の最適化に活用すべきでしょう。広告の視点からデータマネジメントを考えると、その目的は大きく2つに集約されます。先ずはターゲティングの最適化、次にクリエイティブの最適化です。

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広告のターゲティングやクリエイティブの改善のためには、主に広告配信やWebサイト訪問時のクッキーを軸に、広告の反応データ、デモグラフィックなどの「属性」(セグメント)データ、そして広告の視聴や購買などの「行動」(ビヘイビア)データを掛けあわせていきます。その結果、どのような人物が、どの広告を見て、どのような行動を行ったかを知ることができるのです。

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データには主に自社のマーケティング活動から得られるファーストパーティ・データと、第三者のデータソースから提供されるサードパーティ・データがあります。例えば、DSPが保有するデモグラフィックデータと、自社で持っているバナー広告からのサイト訪問データを組み合わせれば、広告反応率の高いデモグラフィックを見つけることができます。他にも様々な属性と行動のデータを組み合わせることで、たくさんの貴重な情報を得ることができます。

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ターゲティングの最適化

ターゲティングの最適化を目的とする場合、先ずは全セグメントへの広告配信を行います。ユーザーの年齢、性別、居住地、家族構成などのデモグラフィックに加え、Webページの閲覧履歴などから得られたインタレストから、広告に反応するユーザーがどのような人物であるかを知ることができます。想定外の反応や、ラーニングを見落とさないためにも、感覚的に対象を絞りこまないようにしましょう。データを通じて、広告への反応が期待できるユーザーだけをターゲティングできるということは、広告主にとって大変重要なポイントです。ターゲットが数百万人規模の場合、マス広告ではどうしても非効率な部分が多く発生してしまい、予算の無駄が発生するだけでなく、クリエイティブに対する誤った判断をも生み出しかねません。多くのブランドが、明確なターゲットがわからず、万人受けするタレントばかり起用してしまうのもそのようなことが原因なのかもしれません。

データマネジメントを通じたターゲティングの最適化は、単なるリターゲティングとは異なります。確かにリターゲティングだけでも、ユーザーのWebページの閲覧行動などから個別のコミュニケーションを行い、細かいターゲティングを行うことは可能です。しかし、これではどのターゲティングが効果的であったかを知ることはできず、更に、重複するセグメントに対応することができません。

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このように、「属性」の条件が複数になると単なるリターゲティングでは対応できません。また、その後の「行動」との相関関係も簡単には分析することができません。DMPを活用すれば、特定の項目に興味があるか、否か、ということだけでなく、ユーザー単位で複数の興味対象や、属性条件の関連性、行動との相関関係を分析することができます。ユーザーの特定の「行動」も、もちろんターゲティングに活かせる重要な「属性」情報になります。特定のページの閲覧履歴だけでなく、広告接触のフリーケンシーやリーセンシーも重要なデータです。ユーザーの様々な「行動」を基に「属性」データを蓄積し続ければ、ターゲティングは徐々に最適化されて行きます。そして、コミュニケーションも狭いターゲットのインサイトを突いた、鋭いものとなるでしょう。ターゲットが決まれば、次は目的の行動を起こすために最適なクリエイティブを見つけることができます。

クリエイティブの最適化

データさえあれば、もはやクリエイティブに悩む必要はありません。ユーザーの行動と、クリエイティブ毎の視聴データを掛けあわせれば、その相関関係から最も効果的なクリエイティブを見つけることができます。ポイントカードやECサイトの購買データは、ユーザーの購買行動の測定を可能にするため、大変価値のあるデータです。更に、ユーザーの属性を掛けあわせれば、特定の属性に効果的なクリエイティブを見つけることが出来ます。

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ターゲットと同様、クリエイティブも感覚的に選んではいけません。その効果が直接的に、リアルタイムに検証できるため、重要なのは量とスピードです。貴重な時間を1つのクリエイティブの作りこみに使うのではなく、より早く、より多くのテストを行うために使いましょう。例えば、バナーであれば低コストで多くのバリエーションを作ることができます。考えられる全てのコピーやイメージをセグメントごとに配信し、ECサイトの購入や訪問データと掛けあわせれば。すぐにコミュニケーションの方向性を決めることができます。クリエイティブは全てをテストし、最適なものを見つけてから作りこめばよいのです。

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プライベートDMPによるデータの一元管理

プライベートDMPは広告主が自社とサードパーティの様々なデータを格納・統合し、分析を行うものであり、単体で何らかの成果を出すことはできません。重要なのはDSPなどの外部の広告配信システムなどと連携し、広告のパフォーマンスを向上させることです。そのため、多くのシステム的な連携やアップデートが必要となり、自社で開発を行うことは現実的ではありません。目的を達成するために必要なデータソースだけでなく、広告配信システムとも連携ができるプロダクトを選びましょう。データの連携はシステム間の互換性だけでなく、データの構造にも左右されます。特定のメディアや企業だけに依存しないよう、十分に目的と、その達成を可能にするテクノロジーを理解した上で、自社でデータを一元管理できる環境を構築しましょう。

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データを管理するための環境を構築するためには、どのようなデータを、何の目的で収集するかを定義します。ブランドの方向性を見つけるフェーズと、細かいクリエイティブの軌道修正を行うフェーズでは、活用すべきデータが異なります。しっかりとマーケティングの目的を理解し、それぞれのテクノロジーが何を可能にしてくれるのかを理解する必要があります。多くの組織ではマーケティングが目的を定義するため、マーケティング実務者が活用可能なテクノロジーを理解することは必須です。データマネジメントは代理店などの第三者に丸投げをせず、社内に確実なナレッジやノウハウを貯めていきましょう。

データの活用

データマネジメントでは、先ずはその目的を定義し、必要なデータの収集方法を計画します。「データ収集方法の計画」は従来のマーケティング活動の「タッチポイント設計」にあたります。重要なのはコミュニケーションを行いつつ、データを収集するということです。例えばFacebookページに特定のURLを記載すれば、Facebookファンの属性データを得ることができます。製品パッケージだけにキャンペーン情報を掲載し、ユーザーをサイトへと誘導すれば、購買したという行動データ、又は購入者であるという属性データを得ることができます。マーケティングを行う上での消費者との様々なタッチポイントを駆使して、必要なデータを集めましょう。

もちろんDMPには様々なデータを格納し、統合、分析することができますが、目的に適していないデータを収集すると、すぐにその量は膨大になり、分析に要する貴重な資源を圧迫します。先ずは小規模で、目的に適した(価値密度の高い)データを集め、活用するための分析力と、社内のプロセスやワークフローを整備していくことが重要です。

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データの収集・統合、分析・レポーティングはエージェンシーに任せて良いでしょう。デジタルマーケティング担当者にとって、最も重要なステップはデータの活用です。データはリアルタイムに正確な答えを教えてくれますが、具体的なアクションを現場に落とし込むスピードが遅ければ、その価値は激減します。プロジェクトの目的さえ正確に定義すれば、データの収集や分析は代理店に任せても良いでしょう。担当者に求められるのは、データを得た後に、その意味を正しく理解し、何よりスピーディーに対応すること。プロジェクトの期間中に柔軟に仮説を変え、軌道修正に向けて迅速な社内調整を行うスキルが求められます。

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データをマーケティングに活用するためには、先ず広告やプロモーションから始めるべきでしょう。データによる業務へのリアルタイムなフィードバックは、多くの軌道修正や、変更を発生させます。社内調整や、協力会社との連携にも様々な「摩擦」が発生し、サイクルを重ねる毎に、より良いワークフローや、連携方法、役割と責任の所在などが見えてきます。データを活用する力をつけるためには、マーケティング活動の中でも最もサイクルの短い、広告のPDCAを通じて、成功・失敗要因のレビューとプロセス化を徹底することが最も効果的だと言えます。データ自体は購入することができますし、これからも様々なデータプロバイダや、データを管理するマーケティング・ソリューションが現れます。本当に企業の競争優位性を生み出すのは、経験に裏打ちされた、データ活用のワークフローやプロセスです。新しいテクノロジーを導入したからといって、いきなり大規模なデータの分析と活用が可能になるわけではありません。もし、現在デジタル施策のデータを積極的にマーケティングに活用していないのであれば、キャンペーンなどの、小さなプロジェクトから始めることをお勧めします。