
2026年5月、宣伝会議主催の「コーポレートブランディングカンファレンス」に、FICC取締役の戸塚省太が約1年ぶりに登壇。前回は、組織内に存在するさまざまな分断を乗り越え、経営と現場が同じ未来を描くためのブランド戦略について話し、終了後には多くの参加者との対話も生まれ、さまざまな反響が寄せられました。
そして今回のテーマとなるのは、「ブランドのパーパスが導く『価値創造の方程式』— 社会と事業をつなぐブランド戦略とは」。前回の登壇とも通じるテーマとして、ブランドのパーパスをどのように価値創造やイノベーションへとつなげていけるのかについて語りました。
本記事では、登壇で語られた「ビジョンラダー®︎」や「ブランド・イノベーションモデル(価値創造の方程式)」についてご紹介します。
ブランドのパーパスは、どう価値創造につながるのか
ブランドのパーパスやビジョンを策定する企業は増えている一方で、それらを事業成長やイノベーションへとどう結び付けていくかは、多くの企業に共通する課題となっています。
前回の登壇では、組織の中にある分断を乗り越え、経営と現場が同じ未来を描くために、ブランド戦略をどのように描いていくのかについて紹介しました。そして今回、戸塚が向き合ったのは、ブランドのパーパスを起点に、企業がどのように自社ならではの価値創造を生み出していくのかという問いです。
まず戸塚は、ブランドのパーパスを単なる理念として掲げるだけではなく、事業や組織を動かす力へとつなげていくことの重要性を語ります。
「企業の中には、それぞれ固有の価値創造の構造があります。大切なのは、画一的なフレームワークに当てはめることではなく、自分たちだからこその『価値創造の方程式』を見つけることです」
では、その「価値創造の方程式」は、どのように見出していくのでしょうか。登壇では、FICCがクライアントのブランド戦略を支援する際に重視しているアプローチや事例を通じて、その方程式を見出していく考え方を紹介しました。
「価値創造の方程式」は “フレームワーク”ではない

その出発点となるのが「ビジョンラダー®︎」です。これは、過去・現在・未来の時間軸からブランドを捉え、自社だからこそ掲げることができるパーパスを導き出していくための、FICC独自のフレームワークです。
そして、導き出したパーパスを事業やイノベーションへと展開するための考え方が、「ブランド・イノベーションモデル(価値創造の方程式)」です。これは企業やブランドの歴史の中にある判断、経験、顧客との関係性、組織文化などをひも解きながら、自社だからこそ価値を生み出せる構造を見出していく考え方です。

そのうえで、戸塚はこの「価値創造の方程式」を、あらゆる企業に同じ形で当てはめる“フレームワーク”として捉えるのではなく、それぞれのブランドに内在する価値創造の原理を発見し、言語化していくものだと説明しました。
「価値創造の方程式は、既存の型に自社を当てはめるものではありません。重要なのは、自分たちの歴史や信念、これまでの価値創造の中にある暗黙知をひも解き、自社だからこそ成立する価値創造の構造として見出していくことです」
そのためには、社会や業界を取り巻く環境変化といった“マクロな視点”と、企業が大切にしてきた信念やナラティブ(物語)という“内側の視点”の両面から、自社を見つめ直す必要があると語ります。

外部環境の変化だけを捉えても、ブランド独自の価値創造にはつながりません。一方で、自社の歴史や想いだけを見つめても、社会や市場につながる価値にはなりにくい。両者を行き来しながら、自社の独自資源が、どのように社会にとっての価値へとつながってきたのか、そしてこれから先もどのようにつなげていくのかを捉えることが重要になります。
FICCでは、時代や事業領域が変わっても一貫して存在するブランドの信念や強みに着目し、そうした信念や強みを、未来の事業や組織の意思決定に活かせる知として整理しています。
そして、属人的な経験や暗黙知に留まっていた価値創造のあり方を、その企業ならではの「価値創造の方程式」として見出し、「社会につながる再現可能な知」へと転換することで、パーパスは単なる理念ではなく、持続的な成長やイノベーションを支える経営資源となっていきます。
過去・現在・未来をつなぎ、企業らしさを見出す
その企業ならではの「価値創造の方程式」を見出すうえで重要になるのが、「マクロ環境」と「ナラティブ」の視点を、過去・現在・未来の時間軸の中で重ね合わせていくことです。社会や業界を取り巻く環境変化の中で、企業はどのような信念を持ち、どのような選択を重ね、どのように社会や顧客との関係を築いてきたのか。そうした積み重ねによって形づくられた、その企業ならではのナラティブ(物語)を読み解いていくことが重要です。
過去・現在・未来という時間軸の中で、価値創造の軌跡をたどることで、時代や事業領域が変わっても一貫して存在する “企業らしさ” が見えてくる。そこから、自社ならではの「価値創造の方程式」を見出していきます。
その考え方をもとに価値創造の方程式を導き出した事例として、FICCが支援した2社の企業事例も紹介されました。

ある国内大手食品メーカーでは、企業のルーツともいえる代表的な商品に着目。その商品が、どのような時代背景や生活者課題の中で生まれ、どのような価値創造の考え方によって社会に受け入れられていったのかをひも解いていきました。
さらに、時代を越えて生み出されてきた複数の代表商品についても、同じ観点から読み解いていきました。個別の商品を単なる成功事例として振り返るのではなく、それらに共通する価値創造の構造を捉えることで、同社が一貫して大切にしてきた開発思想や判断基準を見出していったといいます。
もう1つの国内大手ICT企業の事例では、未来の経営アジェンダを体現する新領域に着目しました。まだ事業規模としては大きくないものの、これからの社会や産業に向けた企業の意思が表れている事業領域を起点に、価値創造の方程式を見出していった事例です。
このプロジェクトでは、経営層や事業をリードしてきた方々へのヒアリングを重ねながら、新領域の事業だけを見るのではなく、長い企業の歴史の中にあるエピソードを引き出していきました。さらに、見出した価値創造の方程式を手がかりに創業期までさかのぼり、同社の歩みを再解釈しました。
こうした「価値創造の方程式」を見出すうえでは、社会や業界を見つめるブランドの “信念” に根ざし、その企業ならではのナラティブを体現していることが重要です。さらに、企業やブランドの成長につながる経営アジェンダと接続されていることに加え、組織の中からも納得感や確信を得られる「自分たちだからこそのモデル」であることも欠かせません。
また、価値創造を “その時代、その人だから生まれた属人的なもの” として終わらせるのではなく、時代を超えて受け継がれる「社会につながる再現可能な知」として捉え直していくことの重要性についても語りました。
企業の歴史の中にある暗黙知を、未来の事業や組織の意思決定に活かせる知へと転換していくこと。それこそが、FICCが提唱する「ブランド・イノベーションモデル」の本質なのです。
ブランドを切り分けず、重ね合わせて見る

さらに登壇の最後には、FICCが新たに提唱する「Societal Lens(ソシエタル・レンズ)」の考え方も紹介されました。
「『ソシエタル・レンズ』とは、ブランドのパーパスからブランドアクション、クリエイティブまでを分断せず、一貫した文脈で捉える考え方です。Social(ソーシャル)が“人と人とのつながり”を意味するのに対し、Societal(ソシエタル)は “社会全体や文化” を意味します。ブランドのパーパスが、社会の文化となる姿まで見据えることが重要になります」
これまで紹介してきた「ビジョンラダー®︎」や「ブランド・イノベーションモデル」は、ブランドの信念を見出し、自社ならではの価値創造の方程式を導き出すための考え方です。そして、それらを策定・整理するだけでなく、その信念に基づいて、社会に対してどのようなブランドアクションやクリエイティブを仕掛けていくのかまでを見据えることが重要になります。
ここで大切なのは、ブランド戦略やアクションを別々の工程として切り分けないことです。ブランドのパーパスを起点に、社会構造や文化、価値観の変化をレンズのように重ねて見つめる。その中で、ブランドの歴史や人の想い、これから社会に対して生み出していきたい価値をひとつの文脈として捉えていくことが、より本質的な価値創造につながるといいます。

戸塚は、社会の変化を外部環境として捉えるだけでなく、ブランド自身の想いや信念と重ね合わせながら向き合うことの重要性を強調しました。そのうえで、ブランドが社会に対してどのような価値や関係性を生み出していくのかを問い続け、オーナーシップとリーダーシップを持ってアクションへつなげていくことの大切さを伝え、登壇を締めくくりました。
自社らしさを未来の価値創造へつなげる
他社の成功事例やフレームワークを追い求めるのではなく、自社が積み重ねてきた歴史や信念の中に、これからの価値創造のヒントを見出していく。今回の登壇では、そんな一貫したメッセージが印象に残る内容でした。
自社ならではの価値創造の構造とは何なのか。そして、その価値をどのように社会へ届けていくのか。ブランドの過去・現在・未来をつなぎながら、自社だからこその価値創造のあり方を考える機会となりました。
執筆:吉野 舞


