「多様性との向き合い方」を考える — 組織の対話力向上を目指す取り組み

近年、「多様性」や「包摂」といった言葉が、社会のテーマとして活発に語られるようになりました。
しかし、そもそも私たちは「多様性」についてどれだけのことを知っていて、どのように向き合っていくべきなのでしょうか。実際のところ、その認識は人によってかなり異なってくるのではないかと思われます。

FICCのバリュー(行動指針)には「互いの存在に感謝し、関わる全ての人の想いや学びをクロスさせ 、未来に繋げるイノベ ーションを起こす」という言葉があります。一人ひとりが見る世界が異なるからこそ価値が生まれる、という考え方を実際の行動につなげるには、「多様性」について全員が共に考えを深めることが不可欠です。

自らの中にあるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を認識し、対話力を高めるための取り組みとして始まった「マイノリティ・マジョリティ研修」。その第二回目は、まさに「多様性との向き合い方」をテーマに行われました。

この記事では、前回ご紹介したMM研修の第二回目について内容や学びを振り返り、FICCの今後にどのような可能性をもたらしたかを報告します。

※マイノリティ・マジョリティ研修の実施背景と、第一回目のレポートについてはこちらの記事をご覧ください。

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「多様性との向き合い方」第二回目の研修まとめ

第二回のテーマとして「多様性との向き合い方」を扱うにあたり、社会背景を含めた専門的な見地からの知見を取り入れるため、社会学・文化研究者の岩渕功一氏を講師としてお招きしての実施となりました。

岩渕 功一氏について

関西学院大学社会学部 教授。
<多様性との共生>研究所 代表。日本テレビ勤務の後、オーストラリアへ移り住み、西シドニー大学でPh.D取得。国際基督教大学、早稲田大学国際教養学部を経て2012年にメルボルンのモナシュ大学アジア研究所長に就任。2020年4月より現職。日本語の主な著書としては『多様性との対話:ダイバーシティ推進が見えなくするもの』(編著、青弓社)、『トランスナショナル・ジャパン』(岩波現代文庫)、『文化の対話力』(日本経済新聞社)など。多様な差異を平等に包含し誰もが生きやすい社会の構築に向けた学びと対話の実践的な取り組み方を模索している。

多様性との対話。変革に向けた「批判的な学び」とは

「社会におけるダイバーシティ&インクルージョンの奨励が加速しており、それ自体は悪いことではないように思える。しかし、そうした多様性に対する肯定的な言説には、差別・不平等に関する重要な課題を見えなくしている側面があるのではないか」

ダイバーシティ&インクルージョンの推進は「良いこと」。そのような安易な前提へ投げかけられる問いに、思わずドキリとしてしまうところから岩渕氏による講義はスタートしました。

岩渕氏による講義スライド

さまざまな差異を持つ人たちを平等に包含することが重要なのはなぜでしょうか。
この問いに対し、社会が豊かになるとか、生産性の向上といったワードが頭に浮かぶ人もいるかもしれません。
しかし、そもそも多様な差異の包含は、欧米での公民権運動や差別解消の文脈において社会的公正を目指す意味で語られてきたのであり、それが豊かさや生産性をもたらすから推進すべきという考え方ではないはずです。

にもかかわらず、ここ数十年の多様性奨励の流れでは、マジョリティを主体にした社会にとって豊かさをもたらすような「役に立つ差異」であることが多様性を寛容し奨励する条件になっており、そうでない集団的な差異(とくにマジョリティ社会に対して挑戦的な差異)は、これまでと変わらず、あるいはこれまで以上に排除されている現実があるのではないか。また、企業や行政などの組織としても「多様性の奨励」を掲げるが、耳触りの良いスローガンにとどまり、場合によっては抑圧・排除・差別といった解決すべき課題を覆い隠す作用すらあるのではないか、という指摘がなされました。

また、多様性についての批判的な議論の多くは欧米で見出された問題を土台としているものの、日本においてもその議論は有効である。さらに、差別解消に向けた政策や法整備が欠如しており、それがもたらす差別の深刻さの認識が共有されていないことなど、日本特有に存在する根源的な問題があることも紹介されました。
そして、その中で個人の意識変革を社会構造の変革と結び付けてどのように進めていくのか、その考え方として「自らの特権を解体し、分断の壁を超えて他者とつながるための”学び捨て”」「社会的想像力としての”共感”」「内なる他者に向き合い、自らも解放する”連帯”」といった批判的な学びのあり方が、重要なヒントとして示されました。

「変革に向けた批判的な学び」の在り方として示された内容(一部)

多様性に対する企業の向き合い方としては、単に生産性の向上やイノベーションを目的とするのではなく、差異の平等な包含に向けたより根本的な問題解決をはかるためのチャンスとして捉える——そういった発想が持てるかどうかが大切であり、日々の取り組みとしてどういったことができるかを考え続けることが重要であることに気づかせられる講義となりました。

※ 今回ご紹介いただいた内容について、詳しく知りたい方は岩渕功一氏の著書『多様性との対話:ダイバーシティ推進が見えなくするもの』(青弓社)をお読みください。

自己、そして他者との対話を実践するワークショップ

この研修を通じて最終的に目指すのは「組織の対話力向上」です。多様性に関する議論について、社会背景や問題点を捉えた上で、個々の考え方の違いを認め、複数の視点から考えられるようになることで、組織として対話力を向上させていきます。
そのために、講義でのインプットに加えて、今回は対話によるワークショップを行いました。

形式としては、岩渕氏による講義の内容を踏まえながら、あらかじめ運営側が用意した3つの問いに二人一組で取り組みます。
「多様性について考えることは、なぜ重要なのか?」という問いを皮切りに、自分自身のこれまでの考え方や、講義を聞いて変化した部分について認識していきます。そして、ペアになった相手と問いに取り組む過程で、個々の考え方の違いを認識し、複数の視点から考え、理解を深める形をとりました。

対話を通して自身の変化や他者との視点の違いを認識し、その要因にあるものについて理解を深めます

一人ひとりの熱量を感じた座談会

対話によるワークショップ終了後、岩渕氏を囲んで有志による座談会が行われました。
座学や対話を通じて感じた、多様性へ向き合うことにまつわるさまざまな想いや気付き、以前から頭にあったモヤモヤの正体やそれを安易な答えを求めることなくどう考え続けていくのかなどについて、参加者が熱量をもって発言する様子が印象的でした。

有志による座談会の様子

専門的な知見を得た上で、身近な視点からのアウトプットも行ったことで、より気付きを得ることができたという参加者の声も多く集まりました。
今回の研修に関する参加者の反応をいくつかご紹介します。

「大事なのは、問題を解決するものとして多様性を語るのではなく、多様性にどう向き合い対処しているかを問い続けること」という本質的な気づきをいただきました。問題解決の手段ではなく、多様性について考えることは、そもそも人はどうあるべきか という問題を考えることに近いと感じました。

専門家の意見・考えとして岩渕先生の話しはとても気付きが多かったですが、それ以上にやはりその後の対話をする時間の重要性を感じました。
専門家の意見を正解として鵜呑みにするわけでもなく、自身の意見や考え、価値観を無批判に信じ込むのではなく、もらったインプットを基に内省し、他者との会話の中からお互いに気付きを得ようとする双方の姿勢があった上での対話こそが真の多様性の理解に繋がり、岩渕先生の仰っていた”内なる他者と出会う学び”に繋がるのかなと感じました。

新たな視点への気づき、そして新たな問い

今回の研修をきっかけとして、自分自身の持つ固定観念や社会への目線に関して、参加者がそれぞれに変化や気付きを感じることができたようです。
FICCの目指す「多様性」のあり方は「一人ひとりの存在が貴重であると認識し、さまざまな視点を掛け合わせて新たな価値を生み出すこと」。
しかし今回の研修を通じて、より本質的な多様性のあり方とは、社会課題の根本である社会の構造まで捉え働きかけることを見据えて、一人ひとりの想いを起点に、新たな価値を創造することであるという気づきを得ることができました。

また、社員一人ひとりのの意識の変化にとどまることなく、FICCが企業として、いかに社会へのアクションを起こしていくのか。そうした問いも新たに生まれました。

今回得られた気づきは、今後のFICCが社会に対して本質的な価値提供を行い続けるための、非常に貴重なものとなりました。この先の研修においても、構造化・制度化された差別・不平等の解消という視点を活かしながら、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に向き合い、多様性の本質について問い、学び、対話する取り組みを続けていきます。

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