組織の「対話力向上」とは?FICCが全社でジェンダーを学び、アンコンシャス・バイアスに向き合う理由

昨今、「多様性」という言葉をよく耳にするようになりました。とりわけビジネスの世界では、企業経営のキーワードとして「多様性」が用いられています。しかし、現状では女性の活躍推進や外国人雇用などの制度の仕組みや数字の達成が注目されているだけで多様性の表面理解のみに留まってしまっているように感じます。

こんな言葉や考え方に心当たりはありませんか?「女性だから〜、男性だから〜」や「あの人は文系だから〜、理系だから〜」等……。これらは、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」と呼ばれ、日常にあふれているバイアス(偏見)のごく一例です。これらは育つ環境や所属する集団のなかで知らず知らずのうちに私たちのなかに刻みこまれ、当たり前や常識として刷り込まれていきます。バイアスの対象は、男女、人種などと様々ですが、自覚できないために自分の言動を振り返ることが難しいのです。

多様性は「一人ひとりの存在が“貴重”であること」と私たちFICCは考えています。一人ひとりが自己のバイアスに気づき、誰しもがバイアスを持っているということを前提に「対話」をすることで、はじめて相手に対しての理解や敬意を持つことができます。一人ひとりの存在が貴重であると認識し、様々な視点を掛け合わせて新たな価値を生み出すことが「真の多様性」と言えるのではないでしょうか。そんな考えのもとFICCでは、2021年7月からジェンダーを題材としたアンコンシャス・バイアスについて学ぶ研修が実施されました。この記事では、研修が行われた背景と、第一回目の研修レポート、研修を支えた運営メンバーについてもご紹介します。

FICCがマイノリティ・マジョリティ研修を行うのはなぜか

FICCのバリュー(行動指針)には「互いの存在に感謝し、関わる全ての人の想いや学びをクロスさせ 、未来に繋げるイノベ ーションを起こす」という言葉があります。目指すのは一人ひとりの存在意義や想いをクロスさせて価値を生み出す組織。そのためには、一人ひとりの多様性への理解とそれが貴重であるという視点が大切です。多様性のひとつのテーマであるジェンダーに関する知識を身に付け、様々な視点から気づきに繋げていきます。今回、なぜこの研修がFICCメンバー全員参加必須となったのか、その背景をFICCの役員である代表の森と取締役の戸塚に聞きました。

FICCのバリュー

戸塚:
あるとき研修の運営メンバーでもある、ジェンダー・フェミニズムを学ぶ研究会から「会社全体でジェンダー(やフェミニズム)の知識について学んでいきませんか?」と提案があったことがきっかけでした。​​昨今、急速に進むジェンダーに関する価値観の変化に、組織内でもアンテナを張れていないメンバーもいる状況でした。前提の知識差があることで、発言者の意図がなくとも相手に不快な気持ちを与えてしまう場合ってありますよね。それは社内の話だけでなく、FICCが扱う広告コミュニケーションにも同様のリスクが潜んでいます。広告が社会に影響を与えるものであるからこそ、差別的な表現に気づかないことが炎上やクライアントからの信頼低下にも繋がってしまいます。このままだとアンコンシャス・バイアスを放置してしまうことになるという危機感から、全メンバー参加必須の研修というかたちを提案をしてくれました。

運営メンバーと会話を積み重ねていくなかで、研修の形態をジェンダーやフェミニズムに絞らず、マイノリティ・マジョリティという広いテーマで実施していくことになりました。そして全メンバーにとって、研修がアンコンシャス・バイアスに気づく体験の場であってほしいという想いから、最終的には対話の発生しやすい環境をつくり、FICCが掲げるビジョンを実現するために「組織の対話力向上」を目指すこととなったんです。今回は、組織の対話力向上のための題材として「ジェンダー」のテーマにフォーカスし、ただ知識を付けるだけでなく対話ワークショップで他者の視点にも気づいてほしいと思っています。

森:
先ほど戸塚が言っていたように、運営メンバーとは共創するプロセスで、対話の中で意味を一緒に紡いでいきました。FICCでは「相手をギブアップしない」という考えを大切にしています。相手に見切りをつけた途端にその人への理解はそこで終わってしまうんですね。相手の視点を自分のなかに内在することができれば、対話によって少しずつでも相手と向き合うことができます。運営メンバーと対話を重ねていくなかで、FICCが大切にしているリベラルアーツの哲学「多様であることが目的でなく多様なことが貴重なことであるという考え方」に、今回の研修の目的(組織の対話力向上)が重なっていくと思いました。

事前に運営メンバーから提案があり、私たち役員と事業部長とで、日常のなかのジェンダーに関することで加害者・被害者となった経験を伝え合うワークショップを開催しました。ある幼い娘を持つメンバーは、「娘が思春期に入ったら父親のこと嫌いになるよ」と言われたことが辛いと語っていました。その話を聞いたとき、よく聞くこのような発言についてワークショップのテーマで出てくるほど辛く感じるものだ、ということに気づくことができた瞬間でした。これは私自身の体験で、ある商談会で、「女性が代表であることが普通ではなく特別である」というような発言をされたことがありました。そのとき、自分はなにも言うことができなかったんです。プライベートでは、物件の契約時に「なぜ契約者は奥さんなのか?」と言われたことがあって。そのときは自分が契約する立場だからこそ、自分が感じた違和感を相手に伝えて、相互理解に繋がる対話をすることができたんです。私たちは様々な立場や制約によって、気づかないうちに発言できる場が少なくなっていることがあるのかもしれません。このワークショップがなければ、話せなかった話だったと思います。

私のルーツには「人は完璧じゃない」と言う考えが大前提にあります。世の中が自分と全く同じ人々だけの共同体だったら、互いのバイアスなんて存在しませんよね。互いに完璧でなく、そして互いにバイアスがあって当たり前の世界であるからこそ、「いかに相手の視点をイメージできるか」という想像力が大切だと思います。相手に憑依できる視点が多ければ多いほど、互いの多様性に気づき多様性を貴重にすることができるのではないでしょうか。

左:代表取締役 森啓子/右:取締役 戸塚省太

「平等ってなんだろう?」第一回目の研修まとめ

メンバー全員参加の研修第一回目では、「平等」というテーマにおいて、FICCで働く皆に関わりのある就業規則であり、特定の人だけに提供される権利の例としての「生理休暇」を題材にジェンダーと平等について考える会が催されました。研修は、座学と対話ワークショップ2本1セットで計6回行われます。

研修の最終目的は「組織の対話力向上」です。対話力とは、批判を役に立つものにする力。つまり対話力がある組織とは、批判を役に立つものにする力がある組織のこと。ジェンダーに関する題材は視点が偏りやすいからこそ、様々な意見や批判が出やすくなり、複数の視点から考えることができるようになるのがこの研修が目指すところです。

マイノリティ・マジョリティ研修の目的

運営メンバーによる、昨今の生理休暇の現状説明から研修はスタートしました。「生理が仕事に影響を及ぼしている」と答える人は近年増加傾向にありますが、対して生理休暇の取得率は減少しています。FICCにも、メンバーが働き続けられる組織の実現のための制度として生理休暇があり、現状は無給休暇となっています。「もしも生理休暇が有給化されたら」という仮定のもとに「どんなメリット・デメリットがあるか?」という問いが参加者に与えられ、全員でmiroを使用して意見を書き出しました。ここで運営側から、物事を平等不平等で考えるのではなくどんな物差しを持って判断すれば良いのか、その「視点」についてのヒントが与えられました。

研修の最後に、生理休暇から「平等」の視点で話を戻し締めくくります。生理休暇の例と同様に、会社の求める人間像が明確であることで(少なくともその会社においての)平等は定義されるといいます。メンバーがその人間像を目指す上で、能力を発揮するために障壁になっていることは何かを考え、その障壁を取り除くためにはどのようなルールが必要か、順を追って考えていくことが必要となるでしょう。

有給生理休暇のメリット・デメリットをmiroに書き込んでいく

この研修の感想をいくつかご紹介します。今後より良い講義となるよう社内メンバーの意見の吸い上げは必須です。

    「会社のメリット・デメリットなど、普段気づかないうちにバイアスがかかって、一側面のみでしか見ることができていない可能性があることに気づきました」

    「人間像を明確にしなければ平等も定義できないという話がとても興味深かったです。メリットとデメリットを整理して議論するだけではうまく話がまとまらない原因の多くは、各自が持っている人物像の違いがあることが多いのではないかと思いました」

    「“個人に差がある”ということを全員が認識することが、平等を考える上で不可欠な第一歩だと感じました。また、絶対的に差が発生する状況で、組織はどのようにあるべきか を、考え続けていく必要性も感じました」

一人ひとりの興味や関心から参加、研修を支える運営メンバーたち

研修の運営メンバーは、個々の興味や関心から参加した有志の研究メンバーたちでした。このメンバーだからこそ実現した深い知見の場。彼らが普段からマイノリティ・マジョリティの分野のなかでどんなことに関心を持っているのか、研修の担当領域とともに紹介します。

運営メンバーたち(五十音順)

伊藤:
準備期間は、役員と運営の繋ぎ役としてリハーサルや準備サポートなどを担当しました。当日は参加者からの質問を拾う役回りでした。就職・結婚・家事・育児妊娠・再就職・介護などのライフステージに関するものと、女性蔑視による被害とその対策について関心があります。

河田:
当日はスピーカーとして登壇しました。ジェンダーとフェミニズムに関心があります。

原:
資料策定とそのためのリサーチを担当しました。「主体性」というテーマから、マイノリティとマジョリティに関わる事柄について広く関心があります。

水嶋:
登壇資料の構成などを担当しました。ジェンダーとフェミニズムに関心があります。

山内:
プロジェクト内ではアンケート作成と分析、研修のタイムキーパー、年間スケジュール管理、広報連携をメインに担当しました。大きな枠で言えばジェンダーで、身近な例で言うと女性専用車両の在り方に関心があります。

今と未来、どんなFICCでありたいか

今回の研修を皮切りに、これから継続的にマイノリティ・マジョリティ研修は続いていきます。FICCが掲げるビジョンは、自らの想いを起点に一人ひとりが主体的にアクションを行うことにより実現されるものです。そして、自分たちが“今”対外的に掲げているビジョンに対して、自分たちが行っていることが一貫していること、つまり「言動一致ができている」ということが大事です。まずはその第一歩として、この研修のように自社で推進し体現していくことが何よりも重要です。FICCが“未来”を作るために、“今”の私たちのストーリーをしっかりと紡ぎ続けていきたいと思います。

執筆:深澤枝里子(FICC)