事業の転機をブランドの成長に変えていく。組織の動機を力に変えるFICCのブランドマーケティング【宣伝会議 登壇レポート】

宣伝会議 コーポレートブランディング・カンファレンス

2025年7月、宣伝会議が主催する事業会社の広報部門などを対象としたセミナー「コーポレートブランディング・カンファレンス」に、FICC取締役の戸塚省太が登壇しました。

当日は数多くのコーポレートコミュニケーション担当や経営企画の方々が参加し、熱心に耳を傾ける中、「事業の転機をブランドの転機に ─ 経営と現場をつなぐブランド戦略の考え方と実践」というテーマで講演。周年や経営計画の見直し、組織再編といった企業の節目を、ブランド再設計の好機に変えるFICCのアプローチについて語りました。今回はその登壇内容についてご紹介します。

変化の時代に求められるブランドの役割とは

当日は数多くのコーポレートコミュニケーション担当や経営企画の方々がご参加

約20年にわたりFICCでブランドづくりに携わってきた戸塚。そのキャリアの出発点は、デザイナーではなく、イギリスで学んだジャーナリズムにありました。大学卒業後に渡英し、国際関係や社会格差に関心を寄せながら「ヨーロッパとアフリカの砂糖貿易」をテーマに卒論を執筆。ヨーロッパのフェアトレード姿勢と、実際の貿易現場との落差を取り上げました。

「当時の経験から学んだのは、社会の矛盾や不均衡に目を向け、背景に潜む構造や歴史を掘り下げて、そこにある『声』や『価値』をすくい上げること」その視点は、現在のブランド戦略にも通じていると戸塚は言います。

「変化のスピードが速い今の時代、ただ利益を追いかけるだけではなく、企業としてどのような姿勢で社会と向き合うのか、その存在意義が問われています。そのために必要なのは、役職や部署の垣根を越えて社員が想いをひとつにし、未来像を共有することです」

周年や中期経営計画の刷新、組織再編といった節目は、まさに未来像を共有し、“これからどんなブランドでありたいか”を考え直す絶好の機会だと戸塚は指摘します。

しかし現実には、「経営戦略と事業戦略がつながっていない」「ブランド戦略とマーケティング施策が別々に動いている」「短期と中長期の戦略が接続されていない」「部門やレイヤー間で戦略理解に差がある」といった“分断”が存在しています。こうした分断を越えられなければ、せっかくのチャンスを活かすことはできません。

マッキンゼーの調査による調査データとMarketing WeekがカンターとGoogleと連携して行った調査データ
左:マッキンゼーの調査による、経営と社員の認識ギャップを示すデータ。(McKinsey)。右:Marketing Weekが、カンターとGoogleと連携して行った、長期的なブランド投資に関する調査データ(Marketing Week)。

戸塚は、その根本要因についてこう指摘します。
分断の根本には、ブランディングとマーケティングが接続されていないこと、インナーとアウターが接続されていないこと、そしてブランドの動機と組織の動機が接続されていないことがあります。このような状況下では、たとえ新たなブランドの未来を打ち出しても、発表だけで終わってしまいます」

その上で、分断を解決するアプローチとして「ブランディング」「マーケティング」「人的資本」の3つをつなぐ重要性を強調しました。

「ブランディングは『ブランドの意味を創造すること』、マーケティングは『その意味に基づいて新しい市場を創造すること』、そして人的資本は『組織の動機を捉え、未来をつくり出す力に変えていくこと』。これら三つをバラバラではなく、接続された形で扱うことがブランド戦略において不可欠です」

「ブランディング」「マーケティング」「人的資本」の3つをつなぐ重要性

ブランドが実現したい世界をどう描くか

その上で戸塚は、こうした考えを整理するためには、まず「VMV(ビジョン・ミッション・バリュー)」の定義を確認しておく必要があると説きました。

「FICCでは、ビジョンを『ブランドが実現したい世界』、ミッションを『その世界を実現するための自分たちの使命』、バリューを『使命を果たすための行動指針』と定義し、これらを企業のパーパス(大義)と呼んでいます。

中でも特に重要なのが『ビジョン』です。これは自分たちが描く理想の世界であり、同時にビジネスにとって理想的な市場でもあります。ここが曖昧だと、ブランドの方向性とマーケティング活動が結びつかなくなってしまいます」

「ビジョンラダー®」

ブランド戦略の実践においてFICCが活用しているのが「ビジョンラダー®」というフレームワークです。過去・現在・未来の時間軸で「これまで何を変えてきたか」「これから何を変えたいか」、そして「そのために活かせる独自資源は何か」を整理していきます。

「イデオロギー」

戸塚はその中でも「イデオロギー」という要素の重要性を指摘しました。
「イデオロギーとは、理想の世界を実現するうえで立ちはだかる障壁や、業界・社会に根付いた常識などを変えていくための新しい考え方を意味します。ブランドが過去に打ち破ってきた固定観念や枠組み、そして未来において挑戦しようとしている変革を整理することで、ブランドのストーリーが見えてきます」

「独自機能・資源」の重要性

さらに「独自機能・資源」の重要性についても強調しました。
「各企業のみなさまには、自社の商品やサービス、技術などさまざまな強みがあると思います。ただ、多くの場合それらに目が向きがちですが、本当に重要なのは“自分たちが実現したい世界にどのように貢献できるか”という視点です。

その観点で考えると、商品や技術だけでなく、自社の歴史やこれまで積み重ねてきたブランドアクションもまた、ビジョン実現に貢献する大切な『独自機能・資源』と捉えることができます。こうした資源を改めて再解釈し直すことが、ブランドの未来を描くうえで欠かせません」

FICC ナレッジブログ
ビジョンラダー:ブランドパーパスとプロフィットを両立し、理想を現実に変えるためのフレームワーク
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ブランドとマーケティングを“分断”から“連携”へ

続いて戸塚は、ブランド戦略に基づいた独自のマーケティング戦略の考え方について解説しました。

「導き出したブランド戦略は、事業やマーケティング活動としっかり結びついていなければいけません。ビジョンが『理想の市場』であるなら、その市場でブランドの価値が求められるようにしていく必要があります。その考え方を整理するために、FICCでは『戦略クアドラント®』というフレームワークを活用しています」

このフレームワークでは、ブランド戦略とマーケティング戦略を切り離さず、「大義とビジネス目的」を中心に据えながら、「独自機能・資源」「ベネフィット」「ターゲット」「競合・収益源」といった要素を定義していきます。

「戦略クアドラント®」

戦略クアドラント®の中でも特に重要なのは、中心にある「大義」と「ビジネス目的」です。ここが異なるだけで、同じ資源を持っていても市場での見え方や競合の捉え方、提供する価値、ターゲットが抱える課題までも変わってきます。戸塚は「ブランドや事業が『何のために存在し、何を変え、どんな社会価値と経済価値を生み出すのか』を明確にすることが不可欠です」と強調しました。

実例として、FICCが支援した医療・ヘルスケア関連の企業のコーポレートブランディング事例が紹介されました。事業拡大を見据える中で、事業ごとに伝え方がばらつき、広告投資の非効率さや「会社としての強み」が社内外で共有されないといった課題を抱えていました。

そこでFICCはまず「ビジョンラダー®」で全社共通の大義と資源を再定義し、その上で「戦略クアドラント®」を用いてカテゴリーに縛られない新たな市場解釈を行いました。その結果、ブランドの独自性に基づく事業戦略の明確化、組織全体でのブランド・マーケティング基盤の再構築、中長期のガイドライン策定へとつながりました。

なぜ「大義」と「ビジネス目的」が重要なのか。戸塚はこう語ります。
「同じ資源を持っていても、大義が違えば社会や業界での解釈が変わり、市場の見方や競合、収益源までも変わってきます。つまり、自社の存在意義や社会に対して何を変えたいのかを明確にしない限り、マーケティングもブランドも本来の力を発揮できないのです」

だからこそ、まずは全社で「何のために存在するのか」という意識を共有し、その軸を基点に事業やマーケティングの意思決定を行うことが欠かせません。ここが定まれば、ブランドは単なるスローガンにとどまらず、組織全体を動かすエンジンとなるのです。

FICC ナレッジブログ
「戦略クアドラント®」とは? 組織の戦略への協働を可能にし、持続的な成長につなげるフレームワーク
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ブランドを“自分たちの言葉”に変えるには

組織や社員の動機を捉え、それを未来を創る力へと変えていく「人的資本」。最後のチャプターでは、今後のブランドづくりとその実行において、どのように組織や社員の動機を捉え、推進していくべきか。そのために必要なブランドストーリーの考え方について紹介しました。

まず強調されたのは「ロジック」と「ストーリー」の両輪です。ロジックとは、ビジョンラダー®や戦略クアドラント®で導き出された戦略の拠り所。一方でストーリーは、「なぜそれをやるのか」を人々の心に届け、共感を生み出す物語です。

「ロジック」と「ストーリー」

「ストーリーづくりで重要なのは、過去・現在・未来を一貫してつなぐことです。まさにビジョンラダー®でも捉えているように、過去にどんな固定観念や業界の常識を変えてきたのか、現在どんな事業を行っているのか、そして未来にどんな世界を目指すのか―。強い想いを込めたビジョンを掲げても、過去からの文脈につながっていなければ他社でも言えてしまう内容になり、組織が腹落ちしない原因となってしまいます」

さらに、ナラティブの重要性にも触れました。
「ナラティブとは自分たちが紡ぎ、語る物語のことです。自分たちだからこそ語るべき物語を見出すことで、それが動機となり、確信に変わり、関わる人々の物語として広がっていきます。

起点は『I(自分たち)』ですが、それを社会課題という『We(社会)』へと広げる視点も欠かせません。業界にとどまらず、社会にとってどのような意義があるのかを示すことで、共感するステークホルダーの輪が広がり、新たな資源や機会との出会い続けることができます」

「I(自分たち)」から「We(社会)」へ昇華

こうした視点は、FICCが大切にしているブランド構築のアプローチにも通じます。組織の内発的な動機を起点とした「インサイドアウト」の考え方です。「『こうありたい』という想いこそがブランドの源泉であり、『I(自分たち)』から出発するブランドづくりにつながるのです」と戸塚は語ります。

そのためFICCでは、ブランドの強みや価値観を単に言語化するだけでなく、ワークショップを通じて他部門や異なるレイヤーのメンバーを巻き込み、それぞれの内側にあるブランドへの想いを引き出す方法を取っています。こうして生まれた言葉や物語が、社員一人ひとりの動機となり、ブランドを“自分たちの言葉”として息づかせていくのです。

実際のワークショップの様子
左上から時計回りに、明治ブルガリアヨーグルト様マリオンクレープ様ゴディバジャパン様バンダイ様

事業の転機をブランドの転機へと変えるために

登壇の最後に、戸塚はこう締めくくりました。

「ブランドというものは、関わる一人ひとりの意識や行動が結果としてそのブランドを形づくるものです。FICCはこれまで、本日ご紹介したように、組織の中の“分断”を接続し、組織の方々がブランド戦略に確信を持ち、自らの動機を重ねていけるアプローチを大切にしてきました。

その結果、一人ひとりがブランドの意義を自分ごととして理解し、日々の行動や意思決定に反映させられるようになります。ブランド、マーケティング、人的資本を分断させず一貫させることで、企業は自らのビジョンを“生きた言葉”として世の中に届けられるはずだと考えています」

この言葉の背景には、戸塚が学生時代に体験した「物事の裏側に目を向け、価値をすくい上げる視点」があり、それは今も変わらずブランドづくりの根底に息づいています。

戸塚の言葉が示すのは、ブランドを動かすのは経営層の意志だけではなく、現場で働く一人ひとりの意識と行動であるということです。社会や組織の中で積み重ねられるその実践を通じて、企業は「事業の転機」を「ブランドの転機」へと変えることができます。経営と現場をつなぎ、未来への確信を共有していくこと ― それこそが、これからのブランド戦略を行う企業にとって、大きな力になるはずです。

執筆:吉野 舞

※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、持続的に求められるブランドの姿を導き出すフレームワークです。
※「戦略クアドラント®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、マーケティング戦略要素を導き出すフレームワークです。

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