FICCには、ブランドが未来へ続くための姿を導く「ビジョンラダー®」※というフレームワークがあります。その勉強会を、約半年かけて社内で実施。その回数は5回にも及びました。概要や情報を伝えるだけなら1回で済むところを、なぜ5回も行ったのか……?その理由を勉強会の内容から振り返ります。
※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、持続的に求められるブランドの姿を導き出すフレームワークです
「ビジョンラダー」ってどんなフレームワーク?
FICCはブランドマーケティング(ブランディングとマーケティング)を行う会社です。ブランディングは意味を創造すること。マーケティングは市場を創造すること。この2つが融合したのが「ブランドマーケティング」です。
マーケティングは、“資源が限られている”からこそ戦略が必要。でも、“資源と出会い続ける”ことができたらどうでしょう?
10年先もその先もずっと続く未来のために。社会価値と経済価値を両立するブランドの姿を導き出していくために。ブランドが“資源”と出会い続けるように導くためのフレームワークです。
勉強会では、ブランドを誰もが知っている日本昔ばなしの「桃太郎」に例えてわかりやすく伝えます。
桃太郎(ブランド)は、鬼退治という「人々に共感されるストーリー」と、おばあさんとおじいさんが作ってくれた独自資源「きびだんご」で、犬・猿・キジ(ビジョン推進のための資源)を仲間に。そして、きびだんご(独自資源)が求められる市場 = 鬼退治で、理想の世界「ビジョン」を創造するお話です。
同じく鬼退治をする「金太郎」となにが違うのか?金太郎の物語は、特定の力がある人が鬼退治をする世界。一方で、桃太郎の理想は「仲間」と協力する世界。仲間と助け合っていくことが彼らの行動指針なのです。これが、社会の固定概念を覆す「イデオロギー(思想や信念)」になります。
企業のビジョン・ミッション・バリューを模索する時、桃太郎の物語のように、社会に対してどんな世界を描くのか、そして誰とともにその世界を実現するのか……。その一連のストーリーを見出すことが大切です。ブランディングとマーケティングが融合したストーリーこそがビジョンラダーであり、持続的なブランドへとつながります。
それをマーケティングへと接続していく時に、大切になるFICCの知識資源が「ブランドマーケティング 戦略クアドラント®」です。
そして、従来の「競合」の意味も変えていかなければなりません。カテゴリー競合は、必ずしも競合ではなく、変えていきたいイデオロギーに対して投資されているものを「ソースオブビジネス(収益源)」として捉えるべきなのです。
森のビジョンラダーと出会い救われた経験
FICC代表の森は、この勉強会の実施にあたり「フレームワークのHowから伝えないことを徹底した」と言います。使う意味や意義を考えてほしいと、自身が体験したストーリーを伝えました。
「コロナ禍の大変な時期に代表へバトンタッチし、FICCの存在意義を考えていく時に共感されるストーリーテリングの大切さに気づきました。私自身がビジョンラダーに救われたんです。
デジタルマーケティングからブランドマーケティングの時代に変わり、以前のデジタル分野のパートナーだけではなく、FICCのビジョンに共感してくれるメディアやパートナーの方々に出会うことができました。
ビジョンラダーの世界は資源に出会い共創する世界が前提。どんな時でも大義から外れることなくストーリーテリングを続けること。理想の未来を創造するために、同じ想いを持つ人が集まって世界が広がっていく。ストーリーテリングを続けることで出会った人々が資源となるのです。
ビジョンラダーを考える時、みんなが信じる体験から入ってきてほしい。それができると、誰かに伝えることができるようになる。情報ではなく、“人”に向き合います」
ブランド戦略への確信を持つために、どうやってやるのか(How)を伝える
2回目の勉強会からは、大手食品メーカーの方々への価値提供とその手順を紹介。新規事業や既存事業・組織課題などに向き合いながら、それらの解決につながる企業の大義を見出しました。
案件に入る時に、いきなり価値提供を考えるのではなく、どうやって経営戦略に紐づけていくのか。クライアントが「強化機会があるかも」と、気づきを得られるようなワークシートを使用。理想の状態(To be)に、納得感と共感を得られるようにしていきます。
そして、ブランドの大義を強化する上で目指すべき「6つの成立要件」を設計。
② ブランドだからこそ語るべき説得力のあるストーリーであるか
③ 社内から共感され、意義を感じ、奮い立たされるストーリーであるか
④ 競合ではなく自社の独自性に立脚する、ブランドだからこそ創造すべき市場であるか
⑤ 社会課題に対して固定観念を覆すストーリーになっているのか
⑥ 業界や社会の動きを踏まえた時、そのストーリーは共感され求められ、ビジョンを基に市場をつくる時に、共創資源に出会い続けることができるものであるか
これらが成立したものがビジョン・ミッションとなります。競合にも大切な大義があることを前提に、向き合うブランドの大義を強化していく。すべての中心に「大義」があるのが、FICCだからこそ。ブランドが求められ続ける姿となるためにビジョンラダーの考えがあり、ブランドの成立要件になるのです。
「情報」に向き合うのではなく「人」に向き合う
勉強会の合間には、「噛み砕き会」と称した時間を設けています。メンバーの質問を起点に、その可能性を広げたり深めたりする時間です。そこでは、メンバーコメントも紹介し、一人ひとりの視点を重ねていきます。
そして行われた3回目の勉強会では、私たちFICCのビジョンやベネフィットがあるからこそ、ブランドの姿を導くことができた、BtoB・BtoCの両事業を展開する企業のプロジェクトを紹介。
会社の強みや独自性が組織内や生活者に浸透していないことで、マーケティングの分断が起きて会社のなかで見ている方向がバラバラになっているという課題から「事業・広報・組織の問題の解決につながる、向こう10年使えるブランド観点を整理してほしい」と依頼をいただきました。
はじめからブランドを整理し定義するのではなく、まずは事業・広報・組織の「現状の課題(As is)」を把握していく必要があります。課題が解決され、そのブランドだから目指すことができる「理想の状態(To be)」を見つけること、プロジェクトの目的として再定義。
そして、ブランドが理想の状態(To be)につながるような自社の「独自性」を深堀るためには、どのような「問いかけ」が良いのでしょうか?
ここで意識したのは、「問いの設計」と「問いかけ」の違いだ、と森は言います。
「FICCのブランドマーケティングの知識があるからこそ設計できる、To beにつながる問い。そして、クライアントの意思を引き出すのが『問いの設計』です。対して『問いかけ』は、一人ひとりの想いや意思が、ブランドの姿につながるようにしていくものだ」と。
会社全体としてブランドの解像度を高めていくために、約50問ほどの問いを設計。企業全体への独自性や総合力を聞く質問、組織への質問、広報への質問、各事業への質問等々……多岐に渡ります。ビジョンラダーの「大義に基づく独自機能は?」「行動指針とは?」「顧客や社会に提供するベネフィットは?」と、直接質問するのではなく、エピソードからブランドの姿が浮かび上がってくるような問いを設計して、問いかけることが重要です。
クライアントを導くために、純粋な想いを引き出せるよう工夫もしています。人は、直接的に「独自性ってなに?」と聞かれても答えにくいものです。一方で、「他社がやっていて、自分たちがやらないこと(その逆も)」のように、“比較”をしながら問いかけられると、自然と話しやすくなります。
「やること」の背景には「大義」が見えてくる。FICCは、他社にも大義があることを前提に、クライアントと一緒にブランドの大義と向き合います。
人の想いがブランドの未来につながるように、一人ひとりの発言をすくい上げる
ビジョンラダーによりブランドの姿が見えた時、「ブランドのビジョン・ミッション・バリューを体現して、お客さまや大切な人たちに喜ばれたストーリーを集めてきてください」と宿題を出した、と言う森。
各部署から集まったストーリーから「これは!」という、ブランドの姿を体現しているものを厳選し、ブランドの定義に含めてブランドブックにまとめていきます。長期的な姿でありながら、日々の働きの中にも大義を体現するものがあることに気づき、一人ひとりが今日からでも動くことができる貴重なストーリーとなるからです。
企業のさまざまな課題を捉え、理想の姿へと導くための問いに向き合う。そこから出てくるエピソードから「光るもの」をすくい上げ、このブランドだからこそ掲げるべき、10年先まで見据えたブランドの姿へと導きました。
そして、森からクライアントの方々に、ブランドの定義をストーリーとしてお伝えしました。一緒に想いを紡ぎあげた“ブランドのストーリー”だったからこそ、クライアントからこんな声をいただくことができました。
「こんな素敵なブランドに、自分がいたんだ」と気づくことができた。ブランドのストーリーを聞いていて、感動して泣きそうになった。
日々目の前の仕事に忙殺されることが多いなか、御社とのミーティングでは、先の未来に想いを馳せることができました。お客様、取引先様、社内の仲間に、自分たちのファンにどうやってなってもらえるかを私なりに考えることができ、とても貴重な時間でした。
いつも誠実に丁寧に、私たちのブランドを形にしてくださっていることに、心から感謝しています。ブランディングを形にすることから始めるコミュニケーション設計が最も重要だと思っていますので、信頼できる御社とのご縁に感謝しています。
「情報」に向き合うのではなく「人」に向き合う。FICCのパーパスを大切にするからこそ、一人ひとりが大切にする価値。
10年先まで続くブランドの姿を確信するには「ロジック」と「ストーリー」の共存が重要です。どちらかだけでは確信を持つことはできません。ブランドが願う未来、求められ続ける未来には、ストーリーとロジックの両方が必要なのです。
最後の噛み砕き会で、さらにメンバーひとりひとりの視点や考えを重ねていきました。クライアント案件を持たない管理部門のメンバーも、日々の業務のつながりからコメントをしています。
私たちFICCは、「情報」に向き合うのではなく「人」に向き合います。大切な知識であるからこそ、一人ひとりの視点から、さらにその価値を豊かなものとして提供できるように。
執筆:深澤枝里子(FICC)