顧客の変化を捉え続けるために。養うべき「雇用理由」と「社会的コンテキスト」の視点

11月11日、FICCメディア・プロモーション事業部 部長の稲葉 優一郎と、DATUM STUDIO株式会社 マーケティング戦略部 部長である市川 真樹氏が宣伝会議サミット2020に登壇。共同リリースしたデータマーケティングコンサルティングサービスに関連する「顧客理解」について、セッションを行いました。

データの価値は、ブランドやサービスの「雇用理由」を明らかにできること

生活者にとってテレビや新聞といったマス媒体が唯一の情報源だった時代が遠い昔となり、豊富なコンテンツからパーソナライズされたものだけが届き、さらに自ら取捨選択までできるようになって久しい現在。マーケティング担当者は、千差万別の人々からROIの高いターゲット層を導き出したり、無数の媒体やコンテンツをターゲットに応じて効果的に使い分けたりするなど、以前から顧客理解に頭を悩ませてきました。

この多様化社会に追い打ちをかけるように、コロナ禍という未曾有の出来事は、人々の生活様式そのものを大きく変化させてしまいました。マーケティング担当者にとって、コロナ禍にいる顧客に起きた変化は大きな関心事です。

登壇した稲葉と市川氏は、「これからのマーケティングを推進するためには、データから顧客を読み解く際の”ある視点”が重要」と言います。

市川 「DATUM STUDIOは、クライアントとエンドユーザーの一人ひとりに寄り添って最大限満足してもらうために、データを使い、マーケティングのサポートをしています。今回リリースしたサービスは、自社のデータや必要に応じて他社のデータもかけ合わせながら、ブランドやサービスを雇用(≒利用)する理由を明らかにしたり、そこからさらに仮説を立てて検証したりするなど、『雇用理由』を捉えてデータマーケティングを推進する点が特徴です。

マーケティングデータは年齢や性別などのデモグラフィックでしか分類されないケースも多いですが、FICCさんは、デモグラフィックではなく、『雇用理由のデータがマーケティングに大きく寄与する』という考え方をしていますよね」

稲葉 「デモグラフィック属性が、直接的な購買の理由にはならないと考えているからですね。

購買ターゲットを解像度高く捉えることがマーケティングでは最も重要である点は、改めて言うまでもありません。一般的に、企業が行うマーケティングであれば、予算や人材、時間などのリソースは有限です。限られたリソースで最大の効果を生み出すためには、投資対効果の高いターゲットを導き出す必要があります。

FICCでは、『十分なボリューム』と『高い購買可能性』のふたつを満たすターゲットを投資対効果の高い『良いターゲット』と考えています。これらを導き出す際に捉えるべき要素が、直接的な購入動機にもなる雇用理由、『そのサービスや商品で解決したいこと』です。

データとして大別された雇用理由からいくつかのクラスターを抽出すると、各クラスターとサービスの相性から購買可能性の高さを推察できます。そこからは、マーケットボリュームと購買可能性の高さでバランスを取りながら、目的に応じて投資領域を見極める力が重要になってくると思います」

雇用理由は「社会的コンテキスト」によって変化する

稲葉は、「雇用理由を明らかにすることが、投資対効果の高いマーケティングには不可欠」と話しながらも、「しかし、雇用理由は不変でない点に注意が必要」と続けます。

雇用理由は、社会的コンテキスト(≒文脈)が密接に関係しており、社会の状況によってサービスを雇用する理由が変化する点を強調。コロナ禍にある現在、雇用理由が変化している最中にあると呼びかけました。

稲葉 「今は、昔よりも多様化を受け入れる思想やコロナで外出を極力控える傾向など、人の価値観が変化している真っ只中だと考えています。価値観が変われば、ブランドを選ぶ基準も変わるでしょう。

たとえば、コロナによる在宅勤務で自宅のワーキングチェアを新しく買った方もいると思います。以前は自宅のワーキングチェアに座る時間がそれほど長くなかったため、座り心地よりも『インテリアとの調和』を重視した椅子を雇用していた方が多いのではないでしょうか。

しかし、在宅勤務になると椅子に座る時間が長くなるため、『長時間座っても疲れない座り心地』を重視した椅子の需要が上がりました。実際に自分の周りでも、普段ゲームをしない友人が、ゲーミングチェアを購入していたんですよ」

市川 「インテリアとの調和から座り心地に切り替えた人が、さらに時間経過によって『インテリアとの調和も座り心地も』といったニーズに変化していくことも考えられますね」

稲葉 「そうですね。『雇用』という行動は、自分が求める理想と現実に溝があり、その溝を埋めることだと考えています。コロナなどで社会が変化すれば、顧客が求める理想が変わります。理想が変われば、雇用するものも変わっていくのが自然です。

マーケティング担当者は、これまでロイヤル化していた顧客ですら、社会変化が離反のきっかけになり得ることを把握しておいたほうがよいと思います。特に大きな社会変化があった際は、ブランドの顧客ポートフォリオに影響がないか注意深く分析したほうがよいでしょう」

雇用理由がマーケティング活動を一気通貫させる指針に

雇用理由の理解によるメリットが、広告の獲得施策への活用で終わってしまいやすい点に市川氏が言及。「社会的コンテキストを捉えた雇用理由に注目すれば、状況に応じてマーケティング活動全体を最適化していける」と語ります。

市川 「サービスの雇用理由を明らかにするメリットは、『ターゲットを見定めることでCPCやCPAを抑えられる』という広告の獲得施策のコンテキストで語られやすいと感じています。

実際のプロジェクトでは、新規顧客やリードを獲得するチームはCPAやCPIを追い、CRMでナーチャリングしたり利用を継続してもらったりするチームはLTVや定着率をそれぞれ追っているなど、マーケティング活動全体が部分最適に陥っているケースも見受けられます。

私たちは、社会的コンテキストを捉えた雇用理由が獲得からロイヤル化まで一気通貫したコミュニケーションを取る指針になってはじめて、そのメリットを最大限に活用できると考えているんです」

稲葉 「仰るとおり、獲得チームはCRMチームで発見したサービス定着率が高いクラスターの雇用理由をもとに、仮説を立てて広告との相性がよいターゲットを定めたり、CRMチームは雇用理由やその変化から、次の施策やコミュニケーションを考えたりできれば理想ですよね。

このようにデータを保有していると、大きな変化があった際に『誰の、何が、どのように変わったのか』を捉えられます。雇用理由やそのターゲットを取り巻く環境の変化が明らかになれば、『次にどうするべきか』まで考えられるため、顧客ポートフォリオに変化があった時にデータに基づいて投資クラスターをリアロケーションするなど、合理的で明確な判断ができるようになると思います」

データ収集や分析の積み重ねが、顧客理解への道

セッションの最後、「今すべきことは?」という問いに対して、市川氏は次のように締めくくっています。

市川 「近頃はコロナをはじめとしたネガティブなニュースばかりに目が行ってしまいますが、このような時代でもテクノロジーは進化しています。流通現場からデータを取得できるような取り組みも進んでいるなど、5GやIoTを活用して、これまでデータ化できなかった情報を取得できる機会が増えているのです。

こうして取得できるデータが増えていくにつれて、データからサービスの雇用理由を明らかにしたり、戦略に活かせる形にまとめたりするなど、活用の仕方がますます重要になってきます。すでにデータの取得や分析を進めている企業は、雇用理由を明確したペルソナに抽出したり、変化を捉えられるようなデータとして分けたりしておくことで、先行きの見えない社会にも対応していけるでしょう。

まだデータ取得や分析ができていない企業は、顧客との接点を整理して、顧客情報や雇用理由のデータを少しずつでも収集しはじめたり、データをどのように分析するか考えたりすることからスタートしてみると良いと思います」

登壇後、一息ついてリラックスした稲葉は、印象的な言葉を漏らしていました。まるで、自分自身で再確認するかのように。

「ブランドマネジメントやマーケティング、特に自分たちの専門領域であるプロモーションにはいろいろな手法があって、それらを横断して考えるためのデータマネジメントは絶対に必須。でも……」と一拍おいた後にこう続けた。

稲葉「自分たちのコアとなる強みは、間違いなく顧客理解だし、これからもそうあるべきだよね」

「ブランドそのものが持っている”1”を正しく理解して、増幅して”100”にする。これが自分たちメディア・プロモーション事業部がずっと貫いてきた価値提供だと思うよ」

昨今、マーケティングに利用できる第三者データは徐々に規制される流れにあります。個人情報保護や独占禁止法などの観点から問題視されたIDFAやAAIDの広告識別子にまつわる世論や、3rd party cookieの廃止を発表したGoogleの方針などからも、この流れが逆行することは考えにくいでしょう。

FICCは、企業が自社で顧客データを保有することが、これからのマーケティング活動を活性化させるための「資源」になると考えています。FICC メディア・プロモーション事業部は、その資源をもとに顧客理解を深め、経済価値と社会的価値の創造をこれからもサポートしていきます。

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