ブランドにはストーリーが必要。カルチャーから学んだブランドの存在意義と愛着心

左:稲葉 優一郎/右:林 信輔

FICCのメディア・プロモーション事業部は、社会的意義(パーパス)を持つブランドの生活者に対する活動の支援をする部署です。ブランドマーケティングを通じてどのような未来を描いてるのか。関東を拠点にした、メディア・プロモーション事業部 東京の事業部長である稲葉 優一郎と林 信輔に語ってもらいました。

クリエイティブをルーツに持つ二人が語る、ブランドマーケティングの役割とは

FICCが制作会社としてクリエイティブ業務に取り組んでいた頃、二人はデザイナーとして入社し、化粧品・飲料・食品などさまざま案件に携わってきました。現在ではメディア・プロモーション事業部 東京の事業部長としてプロモーションの多岐に渡る業務を行う二人は、ブランドマーケティングの「今」をどう捉えているのでしょうか。

稲葉:シンプルに言うと、ブランドマーケティングとは『良いブランドを生活者に届けること』だと思ってます。ものづくりへのこだわりや、社会にどう還元したいのか、という答えをブランド側は必ず持っているにもかかわらず、生活者にうまく届けられていないケースも多いんじゃないでしょうか。その結果ブランドや作り手がなかなか日の目を見ず、良いものが世の中に浸透しないという課題があります。そこで、ブランドの情熱に負けないくらいの想いを持って、生活者に届けていくことがミッションだと僕は思っています。

そのなかで特に意識しているのが、生活者とブランドの出会いを大切にすることです。どんなに良いブランドでも出会い方ひとつで全然違う印象を受けたりする。ブランドもパーソナリティと言われるくらい人に近いものだと思うので、生活者が叶えて欲しいことを読み取り、出会うタイミングや出会い方が両者にとってより良い機会になるようにこだわって取り組んでいます。

林:ブランドの商品を購入したからといって、その延長線上に必ず共感したりファンになるわけではなく、そこに『ブランドパーパス』が活用できるんじゃないかなと思っています。ブランドがなぜ存在するのかが生活者に伝わり、ブランドと一緒にアクションを起こす意思があるなら主体的に応援してくれたり自分のためのブランドだと感じると思うんですよね。その部分をブランドマーケティングの力でサポートしたいです。

『なぜ』の部分はプロモーション単位で作るものではなく、ブランドが本気で取り組んでいないと意味がないので、商品購入前の橋渡しとして体験や仕掛けと一緒に届けていけると考えています。FICCはブランドと共に走る伴走者だと思います。

時代に合わせて幅を広げながら深く掘り続けること

それぞれ「届ける」という共通言語で同じ想いを再確認した二人。ブランドマーケティングを通じてブランドが持つ想いを生活者に届けるために、どのような未来を描いているのでしょうか。

稲葉:僕はコンビニをよく利用するのですが、便利な反面、もやもやすることもあるんです。それは、機能だけを安く売るという世界になっているのが理由です。なぜ作っているのかという意味は最大限排除して、栄養素・味だけに振り切って安く提供するものが増えていますよね。安くて良いものという実用性重視の選択肢だけで構成された世界って、僕は幸せじゃないと思うんです。多様性と言われる世の中で自己表現できるものに愛着が湧くし、自分の生活を豊かにしたり未来を変える力をブランドは持っている。だからこそ、生活者がこだわりを持って選択できるブランドを増やして独自の価値を作り続けていきたいと思っています。

林:ブランドがマーケティング活動をせず、店頭に並ぶ商品を買ってもらうには限界があると思うんですよね。店頭でパッケージを見て試して感じることがあるだろうけど、『なぜ存在するのか』というブランドの背景は店頭だけでは伝えきれません。そこで、広告・サイト・SNSなどいろんな体験の設計に、FICCのような外部の専門エージェンシーが参加することで、ブランドの考える『なぜ』がより伝わるようになります。ブランドの中の人ではない私たちがお手伝いをすることに意義があると考えています。

さらに体験を繋ぐためには生活者が触れている、さまざまなチャネル・タッチポイントを扱えなければなりません。デバイスの増加やテクノロジーの向上といった外部的要因による変化が進むなかで、生活者とブランドの接点に制限を設けると可能性が減ってしまうので、さまざまなタッチポイントを扱えるようにクリエイティブ力を広げてきました。そこは今後も変わらない部分だと思っています。

クリエイティブやプロモーションの領域でメディア・プロモーション事業部はずっと深く掘り続ける。一方で会社が事業の幅を広げる動きをサポートしている、それがFICCのユニークな点だと思っています。

ストリートやカルチャーから紐解くブランドへの愛着心

ブランドマーケティングの可能性に林が触れる一方、ブランドの課題を語る稲葉。そんな二人がブランドマーケティングに取り組む背景には、過去のとある経験が影響していました。

林:FICCのフレームワークであるパーセプションフロー®・モデルは、ブランド認知のない人に対して、購入に至るまでだけでなくブランド推奨までの行動変容を促すことを考えて作られています。しかしブランドマーケティングでは、購入を経由せずとも共感してファンになるパターンもあると思っています。例えば、『某アウトドアブランドのことが好きだけど持っているものは小さいポーチだけ。でもいつか時が来たらダウンも買おうと思っている』、こういうことって誰しも経験があると思うんです。商品購入前でもブランドのあり方に共感しファンになっている、そのアプローチ方法について、SNS専門の広告代理店である株式会社For youさんと協業で現在取り組んでいます。

この取り組みは、老舗ブランドによく見られる信念や創業の想いは強かったはずなのに風化し、ファン離れが進み、短期的な売上にとらわれてビジネスの機会が減ってしまっている、そんなブランドに有効だと考えています。

稲葉:良いものを作り続けてきた職人気質のブランドって伝えるべきストーリーをたくさん持っているのに、作り続けていればファンは付いてくるという精神論でやってきた人たちが多い。でも、時代の流れで自己アピールの得意なブランドにシェアを奪われるような、もったいないケースってあると思うんです。真摯にものづくりをしているにもかかわらず、ブランドの選択肢の舞台に上がれていない現状もあったりします。

林:今までブランドが歩んできた歴史って絶対に模倣できない優位性なはずなのに、うまく使えられていないことは本当にもったいないんですよね。

稲葉:世代的に言えることなんですが、僕たち二人のブランドに対するこだわりの根底にあるのが、1990年代から2000年代のストリートカルチャーなんだと思います。良いものだけではなく、裏側のカルチャーを作っている人自体にカリスマがあって、そこも含めてブランドとして認知していました。実際、作り手の言葉に痺れて共感したことからブランドへの愛着が上がった経験もあります。

特にアパレルブランドは作り手がすごく重要だと思うんですよ。創業者の謎めいた部分やものに対するこだわりは、映画化されたブランドもあるくらい、そのブランドへの愛着を高めるための要素としてすごく重要なんです。もちろん、別の商材でも同じことが言えると思います。

林:僕は昔カルチャーと密接に関わるストリートブランドでDTPデザイナーとして働いていました。周りのみんなは坊主頭にキャップを被りダボダボの服にピカピカの靴を履いていて、横浜を代表するブランドであることにプライドを持っていました。

そこで、ストリートカルチャーにどっぷり染まってみると見えてくることがあったんですよね。その時に自分の価値観が広がったという成功体験が、今取り組んでいるブランドマーケティングに繋がっているんだと思います。

稲葉「表層的な部分ではなく深堀りしたルーツの部分にみんなが共感し合うことで、カルチャーを軸に生活態度や環境が変わって仲間が増えていくことも当時のブランドの嗜み方だった気がします。そのようなブランドは今でも好きだったりするし、愛着を持ち続けるものになるんですよね。僕たちはその体験があるから、ブランドマーケティングが大事と感じているんだと思います。

クライアントの先にいる人たちを幸せにすることを目指して

二人は今後目指す未来とチャレンジしたいことについてを、このように語ります。

林:これまで話してきたブランドマーケティングが絵空事で終わらないように、先に共感を獲得するアプローチでも実績を作りたいですね。ブランドの中の人じゃない私たちが実行することに意味があるんです。まだ取り組んでいる企業は少ないと思うので、FICCの独自性としてチャレンジしていきたいと思います。

稲葉:​​過去に『今までやってきたことは間違っていない』と再認識したエピソードがありました。マーケティングに携わる仕事って良くも悪くも相手の行動を変えて習慣化させる力があるから、結構危ういものだなと悩んだ時期があったんです。ちょうどその時、案件で新商品発売に合わせてハワイ旅行が当たるというキャンペーンをやっていたんですよ。クライアントや旅行代理店との連携は大変だったけど、キャンペーンの当選者からクライアント宛に一通の手紙が届いたんですよ。その手紙に書かれていたのは、結婚してすぐに子供を授かり、なかなか旅行にも行けなかったこと、経済的余裕もなくハワイ旅行は夢のまた夢だったこと、そしてキャンペーン当選によって海外旅行という家族の夢が叶うことなど、個人的な想いと感謝の気持ちが述べられた内容だったんですよ。僕はすごく感動して、クライアントのアイデアを実現するお手伝いをしただけかもしれないけど、プレゼント一つで人の人生を変えられるやりがいのある仕事だと思ったし、自分たちの力を正しく使えば多くの人をハッピーにできるんだと実感したんですよ。

僕らが向き合っているのはクライアントですが、最終的にその先の生活者や商品に関わる多くのステークホルダーを幸せにできるのかということは、今後の価値提供でも追求したい。世の中が変わり続けているので同じことをやり続けるのではなくて、これからもチャレンジをし続けていきたいと思います。

ストリートカルチャーに影響を受けた時代を振り返り、「ブランドを深求した先に共感がある」という学びは、二人がブランドマーケティングに取り組む際の原動力となっていることでしょう。

原点に立ち返り、ブランドが大切にしてきたことや作り手の想いを見つめ直すことで、ブランド独自の価値を最大限に高めること。存在する意義を持つブランドが世の中に溢れ、ブランドが紡いできたストーリーが生活者に届くことを目指して、二人はこれからも挑戦し続けます。

執筆:黒田洋味(FICC) / 撮影:後藤真一郎

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