FICC ナレッジブログ

「ターゲット定義」の正しいプロセス:ROIの最大化を目的とする

荻野 英希 /

ターゲットを「20〜50代の男女」というように、漠然と定義するブリーフを見たことはありますか? 機会損失を恐れるあまり、マーケターが市場全体をターゲットと定義してしまうことは往々にしてあります。しかし、すべての潜在顧客から同等の収益が見込めるわけはありません。ターゲット定義の目的は、市場の限定ではなく、マーケティングROIの最大化です。ターゲットは「商品を購入してもらいたい人」ではなく、「もっとも高いROIが見込める潜在層」と定義されるべきなのです。

✔︎ ソースオブビジネス(収益源)
✔︎ ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)
✔︎ レスポンシブネス(反応性)

ターゲットのROIは、ソースオブビジネス(収益源)、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)、そしてレスポンシブネス(反応性)に左右されます。これらの影響要因を無視したターゲットの定義はROIを大きく制限し、ブランドの成長を妨げてしまいます。ブランドの継続的な成長のためには、ROIを左右する要因を理解し、ターゲット定義の正しいプロセスを身につけなければなりません。

①ソースオブビジネス(収益源)

消費者の支出は有限であり、ブランドの収益は何らかの競合からしか得られません。競合との競争環境である「市場」を定義する前に、デモグラフィック属性などでターゲットを定義することは無意味です。ターゲットは必ず、直接的なカテゴリー競合や、間接的なベネフィット競合から獲得可能な潜在顧客であるはずです。

KANTAR TNSのコンバージョンモデルは、競合が収益源となる度合いを可視化します。現在はより洗練されたものにアップデートされていますが、旧モデルの方が理解しやすいのでそちらを紹介します。コンバージョンモデルは、ブランドごとのユーザーと非ユーザーを愛着の度合いによって分類し、離反しやすく獲得可能な潜在顧客層のボリュームを明らかにするものです。獲得可能なユーザーを多く保有する競合を特定し、その特性や潜在的な不満などから、ターゲットの属性を導き出すことができます。

②ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)

ターゲットは「もっとも購入が見込める人」と定義されることもあります。しかし、必ずしも初回のトライアル購入だけでマーケティング投資が回収できるわけではありません。継続的なリピートや、クロスセル、アップセルなどが見込める「ライフタイムバリューの高い人」が、より適切なターゲットの定義であると言えるでしょう。

たとえば、「40代男性」を高級車のターゲットとする場合、その人物がなぜ高級車を求めるのかを理解しなければなりません。他者にステータスを誇示するためか、自己イメージを高めるためか。これは、その人物の社会的な役割や、状況によって変化します。ライフタイムバリューの高いターゲットを定義するためには、これらの要因がどのように継続的、または高額な支出につながるかを明らかにする必要があります。
ライフタイムバリューに加えて考慮してもよい点がネットワークバリューです。多くの潜在顧客への影響力を持ち、商品を紹介しやすい人は、ブランドに間接的な収益をもたらします。ネットワークバリューを左右する属性も、同様の考え方で特定することが可能なはずです。

③レスポンシブネス(反応性)

もうひとつ、ターゲットのROIを大きく左右するのは、広告やマーケティング施策に対する反応性です。イノベーションの普及理論(下図はWikiから流用)が示すように、新しいアイデアや技術の採用は、年齢、社会階級、収入、社交性、知性、リスク許容度などの影響を受けます。イノベーターや、アーリーアダプターは比較的新しいバリュープロポジションを受け入れ易く、広告やマーケティング施策に対する反応性が高いのです。

アーリーマジョリティ、そしてレイトマジョリティに分類される人は反応性が低く、新しい考えが一般に浸透しはじめたあとから採用を行います。新しいバリュープロポジションには適していませんが、すでにトレンドとなっているものを訴求する場合には、ターゲットとなるかもしれません。

ROIの高いターゲットの属性を特定する質問

– 現在何を購入(または使用)していて、なぜ獲得が見込めるのか?
– なぜ商品を購入することができるのか?
– このような社会的役割や状況によって、継続的(または高額な)支出が見込めるのか?
– なぜ新しい考えを採用しやすいのか?

私たちがターゲットを定義するうえで問うべき質問は、「誰に商品を買ってもらいたいか」ではありません。ソースオブビジネス、ライフタイムバリュー、レスポンシブネスの観点から「なぜ高いROIが見込めるのか」ということを問うべきです。ターゲットの定義は、マーケティングプランのなかでもっとも重要かつ難しい部分であり、曖昧な表現は許されません。限られた資源でブランドの継続的な成長を実現するためには、ROIに対する影響要因を正しく理解し、適切なターゲットの属性を問い続ける必要があります。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

FICCについて

LEADING BRANDS AND PEOPLE TO PURPOSE

  • 持続するブランド
  • 市場を創るマーケティング
  • 共創がつづくクリエイティブ
  • 存在意義の共創

ブランドマーケティングの実績と哲学

ブランドの社会的意義による新たな市場を創造する「ブランドマーケティング」の考えと、10年以上にわたる戦略とクリエイティブの実績、人の存在意義による共創を通じて、企業のブランディングやマーケティング活動の支援や、さまざまな企業やセクターの方々と未来のビジョンの実現に向けた取り組みを行っています。