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デジタルに悩むマーケターは、なにを見落としているのか?:マーコム設計という根本問題

荻野 英希 /

デジタルマーケティングに課題を感じ、私に協力を求めるクライアントの多くは、より根本的なマーケティングの課題を抱えています。デジタルメディアがもつ、高精度なターゲティングや、インタラクティブ性などの特性は、マーケティングコミュニケーションの設計なしに活用することはできません。そのため、多くの広告主は、既存需要の刈り取りしか行っておらず、デジタルマーケティングによる収益成長の実現に至っていないのです。
マーケティングコミュニケーションの主な役割は、新しい需要を喚起し、商品の購入意向を獲得することです。その設計には、態度変容プロセスの正しい理解が欠かせません。コミュニケーションの起点となるのは、広告反応と購入見込の高いターゲットと、その支出先である「ソースオブビジネス(収益源)」です。

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ソースオブビジネス

新しい商品の購入資金は、既存の消費支出から補填されます。補填元となるソースオブビジネスは必ずしも直接的な競合商品ではなく、生活者の意識しないところから資金を奪っているかもしれません。商品がもつ機能と与えられた役割は、まったく別物であることが多いのです。

※クリステンセンが推奨するJTBD(Job to be done)は、商品の機能ではなく、その本質的な役割を問う思考法

たとえば、8割がギフトとして購入される万年筆は、ほかの筆記用具ではなく、同じ男性向けギフトのネクタイをソースオブビジネスに設定すべきでしょう。書き味の良さよりも、男性が喜ぶことをアピールすべきなのです。ほかにも、プレミアムアイスクリームは夜のお酒(役割:可処分時間の充実)に、トレーニングジムは英会話学校(役割:自分を磨く)などにソースオブビジネスに設定している事例があります。重要なのは、新しい商品と共通の役割をもち、収益源として十分な支出を伴っていることです。

根本問題

大半の購買は、何らかの問題解決のために発生しています。その問題は必ずしも意識されていたり、機能的である必要もありません。 新しい商品を購入してもらうためには、現状よりも深く、その商品にしか解決できない「根本問題」を認識してもらうことが効果的です。この記事でも、「デジタルマーケティングができていない」という課題を感じている方に、「マーケティングコミュニケーションの設計ができていない」という、より根本的な問題を認識してもらうことができたでしょう。ターゲットが、この問題の再解釈により、ソースオブビジネスに対する支出が解放され、ほかの商品に向けられるようになるのです。

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生活者が根本問題を認識する度合いにより、獲得できる市場の規模が決まります。その効果を高めるためには、根本問題を過去の体験に基づく「知覚要因」と紐づけることが効果的です。たとえば、この記事の「マーケティングコミュニケーションの設計ができていない」という、より根本問題の例では、「KPIの設定に困った」という体験に紐づけることができます。態度変容プロセスの全体像がわからなければ、何を中期指標とすべきかはわからないはずです。さらに、この知覚要因が日常的に発生するものであれば、根本問題をより頻繁に思い出してもらうことが可能になります。

差別特性

生活者が抱える問題の解決策を独占できれば、商品が自然に売れ続ける市場が生まれます。解決策の独占には、その商品やサービスがもつ差別特性から、解決する問題を逆算し、根本問題として設定します。差別特性は、必ずしも強みや、優位性である必要はありません。独自性が強く、模倣が困難であれば、あとからでも何らかの価値を描くことができるのです。

商品がもつ差別特性から、逆順的に考えれば、独占可能な問題にたどり着くことができます。私の場合は、「マーケティングコミュニケーションの設計能力」と「デジタルの専門性」という複数要素の組み合わせが差別特性となっています。そのため、「デジタルにおけるマーケティングコミュニケーション設計の重要性」を広めることが、自分が独占できる市場の形成に繋がるのです。

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ブランド

ブランドは、商品がもつ意味であり、生活者が求める本質的役割(JTBD)の識別標識であるとも言えるでしょう。広告の大半は、アソシエーションというブランドと特性を紐づける手法により、商品に「意味」を与えることにフォーカスしています。もちろん魅力的なブランドイメージを描き、知覚品質を上げることも広告の大きな役割のひとつです。しかし、紐づけられた特性にニーズがそもそもなければ、どんなに強力で、魅力的なブランドも、求められることはないのです。

商品=ブランド(意味)+製品(機能)

認知度や、ブランドイメージを高めても、売りにつながらないのはそれ以前のコミュニケーションが設計できていないからかもしれません。重要なのは、生活者が求める解決策と関連付けることで、ブランドを欲求の受け皿として機能させることなのです。

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購入意向

合理的な購買判断には、膨大な情報量が必要となるため、私たちはまず欲求などの感覚に頼ります。そして、あとから支出、時間、手間などのコストや、失敗のリスクが許容範囲内であるかを確認し、判断の正当性を確認するのです。必要な情報がなければ、正当性の確認ができないため、購買に至る確率は大きく低下します。購入意向を抱いてもらうためには、見込み客が欲求に基づく自身の判断を、客観的に正当化できる情報を提供する必要があります。

購買判断を正当化する情報は、大きく二種類あります。一つは、製品の機能や利用用途、耐久性などによる付加価値をアピールし、知覚コストを下げる情報。二つ目は第三者による推奨、効果を肯定する検証結果、市場における実績など、知覚リスクを減らす情報です。欲しいと思う商品のコストが許容でき、購入のリスクを感じなければ、購入に至る可能性は大きく向上します。

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購入意向を獲得したあとも、買い場での販促活動(リテールコミュニケーション)や、リピートや推奨を促す商品体験(プロダクトエクスペリエンス)の設計が続きます。購買行動の全体像を描くためには、さらにいくつもの段階が存在するのです。しかし、需要喚起から購入意向の獲得までを描くことができれば、ある程度の成果は出せるはずです。特に、ソースオブビジネスから資金を奪い、ブランドを唯一の選択肢とする「根本問題」の設計ができれば、大きな収益成長の可能性が生まれます。このテンプレートが万能であるとは言いませんが、広く応用可能なマーケティングコミュニケーションの基本の形であるはずです。

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※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

※「パーセプションフロー®・モデル」はCoup Marketing Company代表 音部大輔氏考案のマーケティングのマネジメントモデルです。引用の際は、上記クレジットの掲載をお願いします。

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