
いま、ネガティブに捉えられる「雨」に正面から挑む斬新なアイデアが動き出しています。『雨の日にも行きたくなる公園™︎』です。それを手掛けるのは、企業や自治体のブランドマーケティングを支援するFICCと、廃棄される化粧品から独自の技術で新たな価値を創出するモーンガータ。今回、都市から建築まで幅広く手掛ける日建設計が専門家として参画し、本構想の実現に向けて全面協力しました。なぜ彼らがタッグを組んだのでしょうか。日建設計が運営する共創プラットフォーム「PYNT(ピント)」で語ったその経緯を前編・後編に分けてお送りします。
※「雨の日にも行きたくなる公園™」はFICCと株式会社モーンガータの商標です。
小川 貴裕 / 日本都市計画学会
日本都市計画学会 編集委員。本籍は日建設計総合研究所 執行役員。専門領域は公園やパブリックスペースの利活用、官民連携事業他。近年では地方共創にも力を入れている。
土肥 真梨子 / 日本日建設計総合研究所
日建設計総合研究所 主任研究員。日建設計の共創プラットフォーム「PYNT」の運営に携わる。都市・環境分野において、市民や関係者を巻き込む合意形成プロセスにおけるワークショップの企画・運営から、まちでの実証実験の効果計測やビジュアライゼーションまで各地での実践に取り組む。
藤原 芳博 / 日建設計
日建設計 ランドスケープデザイナー。最近は開発における人工地盤上のランドスケープデザインや、50年前にできた緑地に人と緑の関わりを取り戻すプロジェクトに取り組む。
伊藤 真愛美 / FICC
FICC プロデューサー 兼 COLOR Again 責任者。クライアントの課題に対してプランニングや進行を行い、資源の再解釈による新規価値提案につなげることを強みとする。2020年にモーンガータの田中氏とCOLOR Againプロジェクトを立ち上げ、2024年『雨の日にも行きたくなる公園™︎』を発案。
天沼 竜矢 / FICC
FICC クリエイティブディレクター。建築設計・インテリアデザインを経て、広告制作会社にてディレクター兼プロデューサーとして様々な業界を対象にクリエイティブ業務全般を担う。FICCではブランドのWHYを起点に、生活者視点での戦略立案・クリエイティブディレクションを担当。
田中 寿典 / モーンガータ
モーンガータ 代表者。過去には化粧品の開発に従事。独立後は、化粧品の中身の再生利用に着目。コスメを多用途色材へと変える『SminkArt』を開発し、FICCとの共創プロジェクトであるCOLOR Againのワークショップでも活用している。
日本都市計画学会の学会誌「都市計画」で雨をテーマとした特集を刊行
──日本都市計画学会より2026年2月に「雨は都市の味方にできるか?」という特集の学会誌が刊行されましたね。さまざまな立場の方が「雨」というテーマについて寄稿されていますが、このテーマはどのような背景で選ばれたのでしょうか。
小川:私は2025年の4月に都市計画学会の編集委員に任命されたのですが、ちょうどその頃にPYNTの2周年記念の会で伊藤さんと出会い、そこで『雨の日にも行きたくなる公園™︎』について熱く語っていただきました。今までにないテーマで面白いと思い、編集委員の方々に「雨」をテーマにすることを提案しました。

都市計画学会誌の特集テーマは都市計画分野に従事する関係者の共通課題や世の中のトレンドなどを踏まえ編集委員会で決めていきますが、今回のテーマは、都市計画分野で重点的に議論がされてきたというものではありませんでした。なんとなく皆が避けて通ってきた、ネガティブなテーマをあえて取り上げるという発想は、いままでなかったと思います。
そのため、都市計画の専門家で雨をテーマにしている人はほとんどいない状況下で、そもそも特集が組めるのかという不安もありました。しかし、伊藤さんの力もお借りしてさまざまなジャンルの第一人者を集めていただき、本当に面白い特集ができたと思っています。
「社会環境デザイン」を推進する場、PYNTでの出会い
──なるほど。PYNTはどんな場所なのでしょうか?
土肥:日建設計は、建築の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を行うプロフェッショナル・サービス・ファームです。我々は、単に建物を設計するだけでなく、そこにいる人、サービス、あるいは金融システム、政策なども含めて全体を「社会環境」と捉え、すべての人と共に考え、デザインしていくことを「社会環境デザイン」と呼んでいます。
そうした社会環境デザインを実装し、「まちの未来に新しい選択肢をつくる」共創プラットフォームとして、2023年にPYNTが立ち上がりました。ここで私たちが大切にしているのが「共創」による社会課題解決です。複雑化する現代の社会課題は、一社だけでは成し遂げられないことがたくさんあり、多様な組織との共創が不可欠なのです。
2024年の3月頃、私がPYNTのプロジェクト推進をリードする立場になり、まず初めに企画したのが、特定のテーマに想いを持った人同士がPYNTで出会える「ミーツ・コレクティブ」というイベントでした。その第一回目の会に来てくれていたのが、伊藤さんだったのです。
FICC 伊藤: この日、ミーツ・コレクティブの中で自分が興味・関心のあるテーマを書いてくださいという時間があり、「雨の日にも行きたくなるような公園を作りたい」と思っていたのでそれを書いたら、土肥さんが「すごく面白い」と興味を持ってくれました。

──伊藤さんはなぜPYNTにいらっしゃったのでしょうか。また、『雨の日にも行きたくなる公園™』を作りたいと思ったのはどういった理由からでしょうか?
FICC 伊藤:私は学生の頃から、社会課題と経済活動をどう両立できるかをずっと考えていました。そんななか、友人である日建設計の吉備 友理恵さんから「PYNT案内するよ」と声をかけてもらったことがきっかけです。
『雨の日にも行きたくなる公園™』をつくりたいと思った背景には、地元 新潟での原体験があります。新潟は雨の日が多く、天候の影響を受けやすい地域です。そのため、日常の過ごし方が屋内に偏りやすく、商業施設が生活や娯楽の中心になりがちです。地元のニュースを見ていると、私が学生時代を過ごしていた10年前と比べても、地域での過ごし方の選択肢が大きく変わっていないと感じました。そこに課題を感じたことが、この構想の出発点になっています。
私もよく知る都市公園が『雨の日にも行きたくなる公園™』になったら素敵だなと考えていた頃、ちょうど新潟県初のPark-PFIの取り組みが始まると聞き、さまざまな方にアプローチしました。デスクリサーチやフィールドワークを行う中で、雨の日は来園者が減ることは認識されているものの、具体的な対策はなく、公園の構想も晴天時の利用を前提としていることが分かりました。これは新潟だけでなく、全国的な課題でもあります。だからこそ、雨という自然現象を体験として活かすことで、公園の新しい過ごし方を作れるのではないかと考えました。

土肥:私は以前より、公園の再整備や管理運営のための調査検討、構想検討などに携わっていますが、どうすれば公園をより利活用してもらえるかを考えてきました。市民参加型のイベント企画・実施や、あるいは施策の効果を来園者数や属性などにより定量的に測ることもあります。公園でイベントを行う際に「雨」は脅威と捉えられがちです。しかし、伊藤さんのアイデアは雨を排除するのではなくむしろ「感性が冴える日」としてポジティブに捉え直すというものでした。
藤原:公園を設計する上では浸水のリスクがあるため、基本的には敷地の外、下水へといち早く排水していくのが基本の考え方です。 ただ最近では「グリーンインフラ」という考え方もあります。雨庭を作ったり、透水性舗装を積極的に採用したりして、敷地全体で雨水を受け止める。それを自然のサイクルに戻すことで、生物多様性に寄与したり、都市を冷やしたりといった方向に活用する考え方ですね。
──都市計画の分野で皆が雨について考え始めてはいるものの、資源や体験として昇華されている公園はまだなかなかないということですね。
FICC 伊藤:私が都市計画に携わる方々にお話しを伺った際も、インフラとしての取り組みはありますが、純粋に公園としての体験を楽しめるような場所は、世界的にも稀ではないかということでした。また、日本では年間の約3割が雨と言われており、ビジネスの視点で見るとそれだけの機会損失が生まれていることになります。雨の日にやることがない状態ではなく、雨の日にも自然と触れ合える機会をつくり、人々の感性を育める時間を作れたらと考えています。
固定概念がもたらす、ルール・領域・資源の3つの視点を掛け合わせる
──素敵な考え方ですね。伊藤さんがPYNTを訪れた後に、2025年1月にはFICCの主催でPYNTでワークショップを行ったそうですね。このワークショップはどのように設計されたのでしょうか。
FICC 天沼:FICCでは、より良い社会の実現に向けて、人の想いから新たな市場を創る「ブランドマーケティング」の力と、思考を自由にし新たな問いを立てる「リベラルアーツ」によるアプローチを通じて、価値創造を行っています。今回のワークショップでは、まず、FICCが以前から取り組んでいるプロジェクト「COLOR Again」の視点を取り入れるのがいいのではと考えました。

学校や組織などでは固定観念によって生まれたルールがたくさんあり、それがあることによって、人が本来もっている取り戻すべき主体性を阻害しているのではないかという問いがあります。一方で、資源といえば一般的には「ヒト・モノ・カネ」ですが、それ以上に有形無形を問わず、さまざまな資源が存在しています。見方を変えれば、普段は資源と思われていなかったものを新しい資源として捉え直すことができる。各解釈を行うための入り口として、創造性を引き出すアプローチを冒頭に行いました。
今回考案した『3S Co-imagination™︎ モデル』は、「固定概念がもたらすルール(Structure)」「領域(Stage)」「資源(Stock)」という3つの視点を掛け合わせることで、新たなイノベーションの視点を導き出すフレームワークです。

今回のワークショップでは、「雨(Structure)」「公園(Stage)」「新潟(Stock)」という3つの要素を、それぞれ改めて解釈するというステップを踏みました。 例えば「雨」をテーマにする場合、個々の実体験を手がかりに「居心地の悪さ」と向き合う時、そこに雨という文脈が重なると、それは自分にとってどのような意味を持つのか、といった問いをさらに重ねていきます。何もないところから、単に「雨の新しさ」を発掘するのではなく、参加者一人ひとりのナラティブを通して意味に出会うプロセスを大切にしています。
土肥:通常、まちづくり関連のワークショップだと、ポストイットに意見を書いて構造化するようなやり方も多いですが、ここでは最初に自身の固定概念からの解放を目指すプロセスがあり驚きました。 私は普段からワークショップのファシリテーターをすることが多いのですが、堅苦しい理屈から入るのではなく、まずは自分の感性を引き出すというやり方は非常に面白かったです。参加者の皆さんの目がキラキラしていて、とても楽しそうだったのが印象的でした。
──それは興味深いですね。そもそも「COLOR Again」はどのようなプロジェクトなのでしょうか。
FICC 伊藤:FICCでは、個人の想いや意思、ブランドが社会に対してどのような価値を届けていくかという「パーパス」をとても大切にしています。COLOR Againは、コロナ禍の2020年にモーンガータ社と一緒に立ち上げたプロジェクトです。当初から人の感性に向き合い、これまで学校や民間企業、コミュニティなどさまざまな場において、個々の感性と向き合う時間を提供してきました。そして、さまざまな過程を経て、2024年より「人とモノとの新たな関係性を見出し、心が豊かになる持続的な価値を創造する」ことを目的とした活動へと発展しています。
感性を刺激する独自のワークショップ
──これまで「COLOR Again」ではどのようなワークショップを行ってきたのでしょうか?
FICC 伊藤:立ち上げ当初から、人々が日常の中で感じる「これって自分だけかな?」というモヤモヤに向き合い、自身の感性に気づくためのワークショップを行ってきました。五感を使いながら、自分でも気づかないうちに蓋をしてしまっている素直な感性を知ることは、新たな思考や選択肢を生み出す原動力になっていくと考えています。
田中:伊藤さんにお声がけいただき、現在一緒に活動していますが、私の本業もまた固定観念を外すことから始まりました。「化粧品=役目を終えたら捨てるもの」という枠組みを取り払い、特有の発色や光輝性、安全性の高さといった「素材本来の魅力」に着目し、新たな価値を見出したのです。
実際にワークショップでは、問いに対する自身の感性を可視化する際に、弊社の商品『SminkArt』を活用いただいています。私も伊藤さんも、物事の背景にある人の課題や、その課題の裏側にある感情、すなわち「感性」に寄り添う体験を届けることで、人々はモヤモヤから解放され、それを「自分ごと」として捉えるようになると考えています。
FICC 伊藤:そういった意味でも、ワークショップでなぜ『SminkArt』を使うのか?という点では、混沌としている世の中だからこそ、自身が持っている感性に気づき、活かすことを大切にして欲しいという気持ちが込められています。誰かの感性が、誰かにとっては新しい気づきを与えてくれるかもしれない存在だからこそ、毎回ワークショップの最初に感性の表出を取り入れ、感性との出会いを作っています。

──なるほど。「COLOR Again」の知見を生かして行われたPYNTでのワークショップについて、感想をお聞かせいただけますか?
土肥:独創的なワークショップで、刺激をもらいました。ワークショップ中はおりんの音を鳴らし、目を閉じて、音の「消失点」を探すというワークもやりましたよね。
FICC 天沼:普段の生活では、見えていないもの、聞こえていないものがたくさんあります。 そこに「固定観念」があることに気づくための導入として行いました。
藤原:私は最初「一体何をやっているんだろうな」と思いました(笑)。 ですが途中から「これは漠然とネガティブに感じているものを、ポジティブに捉え直す練習をしているのかな」と気づき始めました。普段の仕事では、雨は「グリーンインフラ」に直結するものという思考になりがちです。しかしそうではなく、雨を美的な対象として見たり、体験としてどう活用できるかを自然に考えるようになっていたので、自分でも驚きました。
FICC 天沼:普段とは違うアプローチに、参加者の皆さんは戸惑いがありつつも、時間が経つほどに、少しずつ理解や楽しみ方を理解していきました。 形を考える前に、概念的な部分にかなりの時間を使い、「小さい時はああいうことがあったよね」といった、一見関係なさそうなプロセスを通る。その上で最後にプロトタイプ的に体験を作るという流れで、面白い体験のアイデアが数多く生まれました。
FICC 伊藤:ワークショップでは、景観工学の専門家である小林 享先生にもご協力をいただき「雨と景観の関係性」について学ぶ時間を設けました。雨にまつわる景観の読み解き方や、都市における雨の文化性について理解を深め、それらもアイデアに反映されたと感じます。

──具体的に特に印象に残っているアイデアはありますか。
FICC 伊藤:印象に残っているのは、濡れたままバスに乗るといった、公園という枠組みに留まらないアイデアが出てきたことです。もし雨をポジティブに捉えられるのであれば、「びしょびしょな格好でバスに乗っても、それでも良いとされる状態」を目指す。公園という場所を超えた、社会的なルールにまで踏み込むような体験のアイデアまで広がっていきました。例えば、スポーツ観戦で雨に降られ濡れてしまった場合は、ある程度は許容され、交通機関を利用するかと思います。一方で、公園で遊ぶ際は、帰りを気にして濡れた状態での利用を避けることが多い。公園で濡れること自体は禁止されていないにも関わらず周囲への配慮から思いきり遊びきれない。そうした見えない制約が残っている環境だと感じています。
土肥:このようなアウトプットこそPYNTが大切にしている視点です。公園を対象とするにしても、公園のことだけを考えていてはまち全体の持続可能な解決策にならないと思っています。公園を核にしながらも、その周辺にある地域のシステムとどう繋がることができるか。ワークショップを通して、私たちは公園という空間だけでなく、交通システムや防災といった仕組みにまで思いを馳せることができました。

(後編へ続く)
【後編タイトル】公園の常識を塗り替える「雨の日」の価値とは
近年、Park-PFIという手法に注目が集まっています。公共の公園の中に民間による収益施設を作る代わりに、その収益の一部を公園の整備に還元する仕組みです。このPark-PFIが前提にあるのであれば、人が訪れず収益が下がる雨の日を味方にできるコンセプトは、大きな注目を集めるでしょう。後編では、『雨の日にも行きたくなる公園™︎』の可能性について議論します。
取材:藤本 美紗子(inu) 執筆:井上 倫子 撮影:後藤 真一郎

