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FICCのデジタルマーケティングブログ

説得する力 : ワンページメモライティング

荻野 英希 /
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わたしたちの仕事は何か?

どんな職業にも共通する、欠かせない仕事があります。NYタイムズ・ベストセラー作家のダニエル・ピンクは、著書の『人を動かす、新たな3原則』の中で、私たち誰もが日常的にセールスを行っていると述べています。販売や営業職のように、直接顧客を説得する職業以外でも、誰もが上司や同僚、友人や家族など、様々な協力者に自身の考えを売り込みながら、物事を進めているのです。

わたしたちの仕事は「説得」

私たちの仕事は、相手を「説得」することです。客観的な事実を述べ、相手に自らの意思でその行動を変えてもらいます。そのためには、たくさんの情報を集め、簡潔に、順序立ててその情報をまとめ上げ、相手の心が動くように伝えます。この中で最も重要なのは、情報を正しく「順序立てる」ことです。情報を正しく整理することができるようになれば、どんな相手でも説得できるでしょう。

態度変容のプロセス

正しい情報の順番は、説得する相手の態度変容の流れに沿っています。新しい提案を受ける相手が、その承認に至るまでには、少なくとも5回の態度変容が起きます。説得のために、どの段階の情報が重要であるかは、相手によって異なります。それぞれの段階と、その段階における情報の役割を理解することで、説得力のある提案を作ることができるのです。

提案相手の理解

提案を考える上で、何よりも重要なもは提案相手の理解です。誰にでも成功するテンプレートは存在しないため、プレゼンテーションの内容や口調、強調するポイントなどを相手の特性に応じて変え、決裁者が最も受け入れ易いものへと仕上げていきます。

提案に対する意思決定には、論理的な側面と、感覚的な側面があります。提案の内容が如何に素晴らしくても、相手の理解を怠り、不愉快にしてしまえば、承認されることはないでしょう。また、どれだけ相手に気に入られようが、筋の通っていない提案も、決して通ることはありません。

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論理的にも、感覚的にも受け入れられる提案を作るためには、相手が解決したいと思っている課題、専門用語や専門知識に対するリテラシー、そして、意思決定を行う際に重視する点などをあらかじめ理解しておく必要があります。

相手が求めている提案は、新しさや革新性に富んでいるでしょうか。又は、全ての問題点やリスクがカバーされているでしょうか?相手が信頼する人物や組織に推奨されているでしょうか?セオリーではなく、実証済みでしょうか?失敗の確率は可能な限り低いでしょうか?重視する点は人それぞれで、事前に相手をしっかりと理解することで、提案で強調すべきポイントを知ることができます。

提案のタイトル

提案のタイトルにも、相手の重視点を含めるようにしましょう。タイトルは提案の内容を伝え、期待値を設定するだけでなく、相手の好奇心を刺激する役割も持っています。あえて情報を欠落させることで、プレゼンテーションを開始する前から、相手の強い興味を獲得することも可能です。できるだけ簡潔に、相手の強い興味を獲得するタイトルを作成しましょう。

提案の目的

次に明確にすべき点は、提案の目的です。ここでは施策の目的ではなく、提案自体の目的を定義します。例えば、新商品のプロモーション施策を提案する場合、目的は「売り上げ目標の達成」などではなく、「プロジェクト予算の承認」などになります。相手に何をして欲しいかを定義し、提案の目的とします。目的が予算承認であった場合、提案にはROIのシミュレーションが必要であり、販促物のビジュアルなどは不要であることがわかります。目的を正しく定義することで、提案に含める内容を決めることができるのです。

問題の提起

人は何かを得るよりも、抱える問題を解決するために動きます。これから受ける提案を、自身が抱える問題のソリューションとして認識してもらうために、問題を以下のように描きます。

相手に強い印象を与えるためには、自ら問題に気付かせるべきです。そのためにはWOWファクト(直訳すると「驚きの事実」)を使います。WOWファクトは、「情報の新規性」と「気付きを与える文脈」を含んだ客観的情報です。例えば「2020年の国内新車販売台数は400万台を下回る見込みです」は単なるファクトであり、新しさや、気付きを感じることはありません。これを「1990年に800万台を記録した国内新車販売台数は、2020年に400万台を下回る見込みであり、可処分所得の減少推移と相関しています」とするとどうでしょう。新車に対する需要が経済的な理由で半減していることがわかります。このような客観的な事実に基づく「気付き」を与えることで、相手に問題を認識してもらうことができるのです。

次に、問題解決に取り組まなければ、どのような結果が待ち受けているかを、客観的事実として伝え、問題に「煽り」をかけます。新車販売台数の例であれば、需要の減少に伴う収益減は目に見えており、今後の更なる競争の激化、EVやロボットカー市場の拡大、GoogleやAppleなど異業種の参入、新たな環境基準への対応なども考慮すると、従来のビジネスのままでは、成長が不可能であると言えます。ここで、提案の相手が抱えている目標(ビジネス成長)が、達成不可能(又は困難)になると理解してもらえれば、問題の重要性を認識し、解決法に対する欲求が生まれます。

最後に、問題解決の糸口となる機会について説明します。新しい技術の登場や、市況の変化、競合の活動、法律の変化など、外的要因によって齎される機会は、再現不可能なものばかりです。その時にアクションを取らなければ、機会を失うことになるため、提案は潜在的な損失を回避するものと認識されます。例えば、カーシェアリングの利用者が毎年25%増えており、5年以内にはサステナブルなビジネスとなるが、未だ車メーカーの積極的参入はない、などと言えるかもしれません。

解決法の定義

相手が解決すべき問題を認識すれば、商品やサービスをソリューションとして提案することができるようになります。ソリューションに対するニーズが顕在化された相手に、強い印象を与えるため、提案はシンプルなワンフレーズにまとめます。行うことと、得られる結果の順で表記することで、相手を安心させることができます。逆の順番で伝えてしまうと、結果を聞いた際に、異なる手法を思い浮かべてしまう可能性があり、違和感が残ってしまいます。必ず「◯◯を行い、◯◯を達成する」という流れで提案をしましょう。

不安要素の払拭

最近amazonで購入したものを思い浮かべてください。できれば少し高額で、比較検討をしたものを。その商品を検討する際に、あなたはネガティブなレビューも読んだはずです。しかし、そのネガティブなレビューを読んだにも関わらず、購入に至った理由は何でしょうか?ネガティブなレビューを信じなかったから?ポジティブなレビューの方が多かったから?いいえ、ネガティブなレビューに書かれていたことが「許容範囲内」であり、買わない理由がなかったからでしょう。

提案には、意思決定に必要な情報を全て含め、拒否する理由を1つずつ潰していきます。一般的な提案書の場合、スキーム、概算コスト、スケジュール、体制図などが含まれます。これらの情報をただそのまま記載するのではなく、相手がコスト、デメリット、リスクなどの不安要素が許容範囲内であると認識できるよう、表現を工夫します。コストの場合は、支出予定の金額だけでなく、得られるリターン、又は期待できるコスト削減について伝えましょう。スケジュールも期間だけでなく、十分な時間をとることで回避できるリスクなどを記載し、許容範囲内に収めて行きます。デメリットがあっても、メリットの方が多く、提案は複数の選択肢の中でも最善のものであることを伝えましょう。提案書を書く前に、相手が抱える可能性のある不安要素をリストアップし、払拭に必要な情報を洗い出しましょう。

拒否の不合理化

多くの人は、自分が合理的でありたいと思っています。提案を拒否することが、不合理なものだと思うと、断ることがとても難しくなってしまいます。例えば、オリエン資料や、インタビュー記事などから、提案内容に沿った相手のの発言や指示をピックアップし、提案内容の根拠とすることができます。同様スキームの成功事例や、経済的利益を描くシミュレーションなども含まれていれば、提案の拒否は更に難しくなるでしょう。ここにもテンプレートは無く、相手が重視する点などに合わせ強調するポイントを選びましょう。

同意の獲得

提案を断ることができなくても、回答を先延ばしにすることはできます。提案に対する同意を、その場で得ることができれば、実施の確率は大きく高まります。同意を得る方法にも幾つかの種類があります。一つは、相手に「担当者のアサイン」など、その場で対応できる、簡単なタスクを期限付きでお願いすることです。対応をしてもらうことで、相手からボールを取り戻し、プロジェクトの実施に向けて勢いをつけることができます。また、全て同意につながる選択肢を提示し、目的の行動を獲得することができます。例えば、提案中のプロジェクトを進めるために、担当者レベルのミーティングを実施したければ、相手に①打ち合わせに同席する、②ビデオチャットなどで参加する、③同席せず、後ほど議事録の共有を受ける、というような選択肢を与えます。実施しない場合は、相手が自ら4つ目のオプションを考えなければならなくなるため、どれかが通ります。

提案内容自体にバリエーションを持たせ、相手に論理的な選択をしてもらうこともできます。複数案の提出は一般的なものですが、良い提案が相手に主観的な判断を求めることはありません。A案とB案のどちらが好きか、ということではなく、どちらが目的の達成に最適か、という客観的な判断を求めるべきです。こちらで判断が付かないということは、相手の好みがわからないということではなく、判断するための情報が足りていないということになります。こちら側が持ちあわせていない情報を分岐点に、アイディアやクリエイティブを分けることができれば、相手に客観的な判断を求めることができます。最後に、規模の大きい提案の場合、なかなか同意が得られないまま、時間ばかりが経過してしまうことが往々にしてあります。この場合、小さな規模で試験的な実施を行い、ある条件を満たした場合に全体を実施するという提案をします。相手が小規模な実施と、条件に同意すれば、全体の実施に同意したことと同じです。

提案資料を作る前に、テキストで上記の内容を1ページにまとめ、説得に適した情報の流れを作りましょう。テキストで情報を簡潔に、順序立ててまとめることで、相手の説得に適した提案書を作ることができるのです。スライド毎に、伝えたい情報、感じて欲しいイメージを定義して、初めて、パワーポイントでの作業へと移ることができます。

スライド

提案書テンプレート