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ブランドは現場でつくられる。社員の行動を「語れる価値」にする、ブランドストーリーのつくり方

水川 史也 /

ブランドの価値は、従業員の行動から生まれる

「ブランドとは、顧客の頭の中にある記憶である」と言われます。では、その印象はどこから生まれるのでしょうか。
ロゴやパッケージデザイン、広告などの視覚的な表現も、もちろんその一端を担っています。しかし、実際に人の記憶に強く残るのは、製品やサービスを利用した際の感情です。つまり、ブランドの価値は、その製品やサービスを提供する従業員一人ひとりの行動や言葉によって生み出されているのです。

組織の中で日々行われている小さな判断やふるまいの積み重ねによって、ブランドはかたちづくられている。このように捉えると、ブランディングは、社外に向けて“どう見せるか”だけでなく、社内において“どう認識されているか”を見つめ直すことも必要です。
本記事では、そうした日々のふるまいや判断の中に埋もれているエピソードを掘り起こし、ブランドストーリーとして活用していく方法を紹介します。

ブランドのコアバリューは、社内に眠るブランドストーリーにあり

ブランドのビジョン、ミッション、バリューは、企業の根幹をなす大切な指針です。しかし、それらがポスターに印刷され、社内に掲げられているだけでは、実際の行動に結びつくことはありません。指針を日々の行動につなげていくには、“具体的な実感”が必要です。
その実感を生むのが、従業員と顧客、または従業員同士の関係の中に存在する「実態のあるエピソード」です。
たとえば、あるサービス担当者が、マニュアルを超えて顧客の要望に応えたことで、長年のファンを生んだ話。ある現場スタッフの気づきから、新たな商品改善が行われた出来事。創業者がかつて語った価値観を、今のメンバーが体現していた瞬間。これらのエピソードは、「この会社は、こういう人たちが、こういう信念で動いているんだ」と感じさせてくれる、価値観の生きた証拠です。

ブランドストーリーは連鎖する

「◯◯というバリューがあります」と言われるより、「◯◯さんがこんな行動をして、あるお客様がとても喜んでいた」と聞かされたときのほうが、人の心は動きます。こうしたストーリーは、行動を促す“納得”や“共感”の起点になるのです。
ブランドの指針が現場で自然と使われるようになるには、「それがなぜ大切なのか」「どう行動に表れるのか」という理解が必要です。ストーリーは、その“行動の理由”を可視化します。
さらに、ストーリーは共有可能です。例えば、一つのエピソードが社内報に掲載され、それを読んだ別の社員が似たようなふるまいをする。それがまた別のエピソードになり、組織の中に連鎖していく。このように、ストーリーは価値観の浸透と文化形成を促す循環装置になり得るのです。

ブランドストーリーを発見し活用するプロセス

では、社内に眠るストーリーをどのように発掘し、活かしていけばいいのでしょうか。ここでは、ブランドのビジョン・ミッション・バリュー(以下VMV)に沿ったストーリーを軸にした、4つのステップをご紹介します。

1.「VMVに沿ったストーリー」を見つける視点を持つ

まず前提として、集めるべきはただの感動話や成功談ではなく、VMVを体現したエピソードです。
そのためには、「あなたが最近、“ブランドらしい”と感じた瞬間は?」「顧客とのやりとりの中で、価値観を実感した出来事は?」といった問いを用意すると、自然とVMVに根ざした行動を思い出してもらいやすくなります。
ストーリーの焦点は、「誰が、何をして、何が起きたか」だけでなく、「なぜその行動を取ったのか」「それはどんな価値観に支えられていたか」に置くと、本質に近づきます。

2. ヒアリングを通じて、日常の“らしさ”を発見する

ストーリーの発掘において、社内インタビューは非常に有効です。ただし、硬い形式で臨むのではなく、できるだけカジュアルな対話形式にすると、日常の中にある「ブランドらしさ」が浮かび上がりやすくなります。

たとえば、

  • 最近、お客様から感謝されたことは?
  • 嬉しかった仕事のエピソードは?
  • チームでうまくいった瞬間の背景には、何があった?

といったシンプルな問いを通じて、ブランドストーリーの原石が見つかります。

3. ブランドの価値観に沿って、伝わる形に編集する

集まったエピソードは、ブランドのビジョン・ミッション・バリュー(VMV)に基づいて整理・編集していくことが重要です。これは単なる記録ではなく、「ブランドの実践知のアーカイブ」をつくる作業でもあります。
たとえば、「挑戦」「共感」「誠実さ」といったバリューが掲げられている場合、それぞれの価値観を体現する実例をまとめることで、新しく加わったメンバーや社外の関係者にも、ブランドの指針を直感的に伝えることができます。
この際、エピソードは単に並べるのではなく、誰にでも伝わるような形式に「編集」することが不可欠です。感情を伴い、視覚的・物語的に伝わる工夫を凝らすことで、理解と共感が生まれます。

<ポイント>

  • 物語の構造を捉えて、受け手を引き込む構成にする
  • 実際の会話や写真を交え、リアリティを伝える
  • 再現映像やインフォグラフィックで視覚的に伝える

社員のエピソードの映像化や、1枚のスライドに「ブランドらしいふるまい集」として可視化する取り組みは、感情と意味の両方を伝える有効な手法です。

3. ストーリーを循環させ、組織の文化として定着させる

ストーリーは、集めて終わりではなく、社内外に流通させることで初めて意味を持ちます。

<例>

  • 社内報や朝会、表彰制度での共有
  • オンボーディング資料への活用
  • ブランドガイドラインにエピソードを掲載
  • 顧客向けメディアやSNSでの発信

こうした工夫を通じて、「あの人のように行動しよう」「この会社って、こういうところが好き」といった共感と行動が生まれていきます。こうしたストーリーは、行動を育て、文化を育む土壌となるのです。

ストーリーは、ブランドの一貫したふるまいを可能にする

ブランド体験において、「一貫性」は重要な要素の一つです。どのチャネル、どの接点でも同じ価値観が感じられること。それが顧客の信頼を築きます。
社内にあるストーリーを活用することで、従業員一人ひとりの判断や行動に“ブランドらしさ”が通うようになります。そして、その積み重ねが、対外的なブランディングにも効果を発揮していきます。
社会から信頼されるブランドは、まず社内で信じられ共有されている価値観から生まれるのです。

ブランドの未来は、すでに組織の中にある

企業が抱える課題や未来の展望を描くとき、外部に答えを求めることが多くあります。しかし、ブランドの“核”は、すでに社内に存在していることが少なくありません。
まだ言語化されていない、語られていない、知られていない、しかし日々の中で確かに体現されているふるまい。そこにこそ、ブランドの本質と、未来へのヒントが宿っているのだと思います。

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