FICC ナレッジブログ

消費者が意義と共感を感じる、ブランドパーパスの作り方

荻野 英希 /

私は学生の頃に「広告は社会変革の道具である」と教えられました。社会に大きな影響を及ぼす広告は、モノを売り、収益を得るだけでなく、社会を豊かにする役割を持つべきだというのです。当時の私は、先生の言葉を十分に理解することができませんでした。しかし、20年経ったいまは、その言葉が私に働く意義を与え続けてくれています。

人は自身の存在に意義を求めます。意義は私たちの行動を正当化し、後押しとなるモチベーションを与えてくれるのです。だからこそ、私たちは意義のあるブランドを好むのです。
消費者が意義と共感を感じるブランドパーパス(ブランドの存在目的)は、ブランドの成長を加速させることがわかっています。P&GのCMOを務めたジム・ステンゲル氏は、著書の『GROW:本当のブランド理念について語ろう』のなかで、パーパスを持つブランドは、他社よりも3倍の成長を実現すると述べています。ハバス(HAVAS)のミーニングフル・ブランド(Meaningful Brands)調査からは、ブランドパーパスが、購入意向や価格プレミアムウォレットシェアなどを高めることがわかります。もはやブランドの成長と、パーパスを切り離して考えることができません。成長に貢献するブランドパーパスは、一体どのようにして作られるのでしょうか?

社会規範と他者貢献

人は社会に属し、他者とともに生活をする社会的動物です。私たちは社会の一員として認められるために、周りからの期待に応えようとします。社会全体に共通する「社会規範」は、個人が自己利益よりも「他者貢献」を優先することを求めます。自分自身よりも、属する社会を優先することは、私たちの帰属欲求、承認欲求、そして自己実現欲求をも満たしてくれます。この社会規範に基づく他者貢献こそが、私たちに存在意義を実感させる、ブランドパーパスの本質なのです。


社会と個人をつなぐ社会規範

共同体感覚

他者貢献という軸だけでは、必ずしも消費者の共感を得ることはできません。人は社会のなかでも、家族や組織、国家など、さまざまな共同体に属し、それぞれへの貢献を求められます。「共同体感覚」と呼ばれる、特定の共同体への貢献意志は、人によって大きく異なるものです。そしてこの共同体感覚は、外的な影響や、状況にも大きく左右されます。
私は以前、売上の一部を途上国に寄付する、コーズマーケティング施策に参加しました。開始から数年間は社会全体に広く共感され、大きな売上の増加を実現しました。しかし、東北地方の震災を機に「被災地を優先すべき」という意見が増え、社会の共感を失ってしまったのです。消費者が参加でき、寄付に加えた10年間の自立支援を含む、正当性の高いプログラムであったにも関わらず、共同体感覚の急激な変化には対応することができなかったのです。


支援を歓迎するマリ共和国、チャアラ村の子供たち

ブランドパーパスは、必ずしも社会全体や人類に貢献するようなものである必要はありません。むしろ、家族のような小さな共同体への貢献が、はるかに効果的であることも多いでしょう。共同体感覚に基づくブランドパーパスは、ブランドと消費者を強い共感で結びます。消費者が大切に想い、強い帰属意識を感じる共同体を把握することは、ブランドパーパスの作成に欠かせないのです。


異なる共同体感覚の範囲

ブランドパーパスは、消費者と同じ共同体への参加を示すものです。社会的パーパスを掲げるブランドは、消費者と共通の共同体への貢献意識を持たなければなりません。そして、そのすべての行動に一貫性を持たせる必要があるのです。

嘘偽りのなさ

消費者は、ブランドの偽善を簡単に見抜きます。ブランドの外的なメッセージや体験が、企業組織としての内的な文化や行動と異なれば、ブランドパーパスは崩壊します。ブランドパーパスは、ブランドという無形な存在ではなく、その運営を行う人々の理念を表すものです。消費者との共同体には、ブランドが守るべき社会規範が存在し、規範に反するブランドは共同体から除外されます。ブランドパーパスは、決してマーケティングメッセージではなく、組織全体の行動指針となるものです。正しく定義することができれば、組織のなかにもたくさんのメリットが生まれます。

  • 組織の意思決定の指針となる
  • 共感する従業員を引き寄せる
  • 方向性を定め、協働を促す
  • 競合に真似できない文化を生む
  • 組織やブランドの強い推奨を生む

ブランドパーパスを掲げる組織は、その判断や行動のすべてを一貫性が求められます。今後ブランドには、ますます透明性が求められ、その存続には誰もが信じて疑わない、嘘偽りのないブランドパーパスが必要となるはずです。これは決して簡単なことではありません。しかし、広告やマーケティングに従事する私たちがブランドパーパスを本質的に理解し、自ら体現できれば、ブランドの持続性と、より豊かな社会の発展を実現することができるはずです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

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