ブランドの大義とは、企業が「なぜ存在するのか」を社会に示す根幹の意志です。理念として掲げるだけでなく、経営戦略や組織行動、顧客や社会との関係性に一貫して浸透しているとき、初めてブランドは持続的な信頼を得ることができます。大義は、経営の中心で意思決定を導く「構造化された信念」であるべきです。
しかし多くの企業では、大義が言葉として掲げられているものの、理念としての言葉に留まり、経営やブランド活動と乖離し、経営の意思や社員の共感、社会への説得力といった“実践の構造”に結びついていないのが現状です。
経営とブランド、組織の内と外、理念と実行。その断絶を越えるためには、ブランドの大義を「成立させる構造」を理解することが欠かせません。本記事では、ブランドが本来持つべき意志を社会と共に進化させる上で、目指すべき「6つの成立要件」を紹介します。

1. 経営戦略とアラインしているか?
ブランドの大義は、企業の経営戦略と一体であるときに真価を発揮します。
どれほど優れた理念も、経営の意思決定や資源配分の方向性と結びついていなければ、現場での実践に力を持ちません。経営のWhyとブランドのWhyが一致しているか。その整合こそが、組織全体に統一された意思をもたらします。大義は経営の“上位概念”でもあり、“推進の核”として存在すべきです。ブランドの存在意義を経営の構造に織り込むこと、それが第一の要件です。
- ブランドの大義は、経営ビジョンや中期経営計画と同一の時間軸で描かれているか?
- ブランドの大義は、目の前の経営課題や強化機会にまで具体的に働きかけているか?
- ブランドの大義は、中長期的な市場戦略や事業ポートフォリオの進化を牽引する存在となっているか?
2. そのブランドだからこそ語るべき説得力のあるストーリーであるか?
どんなに美しい理念も、「なぜこの企業がその言葉を語るのか」が曖昧であれば、人の心には届きません。
ブランドの大義には、企業が歩んできた歴史、培ってきた強み、そして独自の文化的文脈が宿る必要があります。「なぜこの企業がその言葉を語るのか」――その答えは、その企業が歩んできた道のりの中にあり、表面的なトレンドや社会貢献の言葉ではなく、自社の根源的な経験から導かれた物語であることが、信頼と共感を生み出します。“このブランドでなければ語れない”物語があるかどうか。それが、模倣を超えた独自の説得力をつくり出すのです。
- ブランドの大義は、自社の歴史や文化、創業の思想に根ざして語られているか?
- ブランドが持つ技術・資源・人の想いが、物語の中で活かされているか?
- 他社でも語れる言葉ではなく、自社だけが語る必然性のあるストーリーになっているか?
3. 社内から共感され、意義を感じ奮い立たされるナラティブであるか?
ブランドの大義は、社内で「理解」されるものではなく、「共感」されるものでなければなりません。
社員一人ひとりがその言葉に自らの仕事の意義を重ね、行動へと昇華できるかどうかが鍵です。経営が語る理念が現場の体験と結びついたとき、ブランドは組織文化として息づきます。
「ナラティブ」とは、企業が語る物語ではなく、社員が自身の体験を通じて意味を見出し、共有し、語り継いでいく「生きた物語」のことです。外向きのスローガンではなく、内から湧き上がるエネルギー。それこそがブランドの持続力を支える動機となり、原動力となります。
意義を感じ奮い立たせる大義は、容易に達成可能なものではなく、野心的な変革目標であることが欠かせません。
野心的な変革目標――「Massive Transformative Purpose(MTP)」は、シンギュラリティ大学の創業ディレクターであるサリム・イスマイル氏が提唱した考え方です。組織の存在意義を“社会を変革する大義”として掲げ、社員一人ひとりがその意義に内発的に共鳴する状態を指します。
社員が「企業の一員」である前に「社会に生きる一人」として、自らの価値観や生き方とブランドの大義を重ね合わせることで、組織の活動に意味を見出すのです。
- ブランドの大義は、社員自身の人生観や社会観と響き合う「共通の信念」として機能しているか?
- ブランドの掲げる目標は、容易ではないが挑戦したくなる“変革目標”として共有されているか?
- 現場のストーリーや日常の体験を通じて、ナラティブとして生きた言葉になっているか?
- 社員が「企業の代表」ではなく、「社会の一員」として誇りをもって語れる大義になっているか?
4. 競合が模倣できない独自機能や資源に立脚する、そのブランド独自の市場であるか?
ブランドの大義は、理念だけで差別化を生むものではありません。その根底には、他社が模倣できない独自の資源――技術、データ、文化、顧客基盤、パートナーシップなど――が存在します。しかし真に重要なのは、これらの資源を通じて企業がどのような価値を創造し、社会とどのように関係を築いてきたかという“歴史の軌跡”です。
ブランドの独自性とは、市場で目立つことではなく、自社の資源と歴史が織りなす文脈から生まれる“意味”を創造することにあります。それは競合と戦うのではなく、自らの資源と信念によって市場そのものを再定義する力です。そして、競合にも大義があるという前提に立ち、その中で自社の大義を磨き上げ続ける姿勢こそが、持続的な競争優位の源泉となります。
- ブランドの大義は、自社の固有資源と、それを通じて生み出してきた価値の歴史に根ざしているか?
- 自社の資源や強みを、社会との関係性や共創の物語として再定義できているか?
- 競合にも大義があるという前提に立ち、自社の価値創造の文脈を自らの言葉で独自化できているか?
5. 社会の課題に対して、固定観念を覆すストーリーになっているのか?
社会が急速に変化し、あらゆる価値観が揺らぐ中で、真に共感を生むブランドは、課題をなぞるのではなく、その背景にある固定観念や前提まで問い直し、新たな視点を提示することができるブランドです。社会課題に対してどのように貢献するかだけでなく、「このブランドは社会をどう見つめ、何を変えようとしているのか」という態度そのものが、ストーリーの核心となるのです。
ブランドの大義は、単に社会の期待に応えるものではなく、社会を再定義し、次の可能性を開く挑戦の意志でなければなりません。固定観念を越えて人々の思考や行動に新しい選択肢をもたらすストーリーこそが、社会価値と経済価値をみ出す動機となるのです。
- ブランドの大義は、社会課題を「共感の対象」ではなく、新しい視点を生み出す「再定義の起点」として捉えているか?
- ブランドの大義は、業界や社会に根づいた前提や常識を、自らの視点で再構築し、語り直せているか?
- ブランドの大義は、人々の意識や行動に、新しい問いや変化のきっかけをもたらしているか?
6. そのストーリーは、これからの時代に共感され求められ、競争環境の中で優位なものであるか?
ブランドの大義は、「いま」を語るものではなく「これから」を照らすものでなければなりません。テクノロジーの進化、価値観の多様化、環境や地政学的変化など、社会構造そのものが変化する中で、ブランドが描く大義が、これらの変化を“リスク”ではなく“機会”として捉えられているかが問われます。
時代の変化に合わせるのではなく、その本質を読み取り、自社の存在意義を重ねて新しい価値を生み出す力――それが、持続するブランドの姿勢として欠かせません。そしてこの時代において、ブランドの大義は、顧客だけでなく、共に未来を築く多様なネットワーク資源――メディア的影響力、倫理的信頼、経済的・政治的影響力――を引き寄せる力としても機能します。どのような未来を描くのか、そして誰と共に実現していくのか。その構想力こそが、共感を超えて、長期的な競争優位を生む信頼の土壌となっていきます。
- ブランドの大義は、社会・技術・環境などのマクロ変化を機会として再構築できているか?
- ブランドの大義は、顧客だけでなくネットワーク資源を惹きつける力を持っているか?
- ブランドの大義は、未来における共感と信頼を育み、持続的な価値を創出する方向性を持てているか?
「6つの成立要件」を満たしブランドの大義を導き出すフレームワーク「ビジョンラダー®」

企業がこれからの時代に信頼され、選ばれ続けるためには、経営・事業・組織が一つの「大義」を共有し、その意志を実践へと変えていくことが欠かせません。FICCでは、ブランドの大義を構造的に導き出す「6つの成立要件」を軸に、ブランド戦略からストーリーまでを一貫して支援するフレームワーク「ビジョンラダー®」により、ブランドを支援しています。
経営層や事業リーダー層をはじめ、組織の壁を越えてブランドに関わる人たちと共に、インタビューやワークショップを通じて、経営戦略と接続させながらブランドの大義を導き出します。そのうえで、導き出した理念を実装へとつなげ、アウターとインターナルのブランドアクションへと展開していきます。
FICCのブランディングとマーケティングを分断させない「ブランドマーケティング」の専門性と、「あらゆるブラントと人がパーパスによって、未来を創り続けている世界の実現」というビジョンのもと、企業が社会と共に持続的な価値を生み出す力になっていきます。
※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、持続的に求められるブランドの姿を導き出すフレームワークです。

