共有される物語が、ブランドと戦略を動かす ─ FICC ブランドマーケティング ナレッジ共有会 レポート

理念がなぜ動機になりきらないのか。ビジョンはどうすれば推進力になるのか。そして戦略はどうすれば迷いの中で立ち戻れる拠り所になるのか。

ブランディングとマーケティングを分断しない「ブランドマーケティング」の考え方を軸に、ナレッジや実践に向き合う「FICC ブランドマーケティング ナレッジ共有会」。好評を博した第1弾・第2弾に続き、第3弾ではFICCの独自フレームワーク「ビジョンラダー®」を用いて、組織が確信を持てるブランド戦略の導き方に向き合いました。第4弾では「戦略クアドラント®」を取り上げ、ゲストにライオンペット株式会社を迎え、ブランド戦略をマーケティング戦略へとどのように接続していくのかを、具体的な事例をもとに議論しました。

本レポートでは、第3弾・第4弾の共有会を通じて探求してきた、ブランドを組織の動機に重ね合わせ、日々の意思決定や戦略へと接続していくための考え方とアプローチを、FICCのフレームワークとともに振り返ります。

なぜ「同じ知識」から毎回違う発見が生まれるのか

共有会で向き合う知識資源はいずれも、FICCが長年にわたりブランドと向き合い、実践を重ねてきたブランドマーケティングの専門知識と、既成概念にとらわれず社会に問いを立てていくリベラルアーツの哲学によって生まれたものです。

この共有会の目的は、ノウハウやフレームワークを一方的に共有し、知識量を増やすことではありません。参加者一人ひとりが知識資源に触れながら、自身の想いや、組織が置かれている状況、直面している課題を重ね合わせることで、新たな問いが立ち上がっていく。そのプロセスを大切にしています。さらに、同じように組織変革に向き合う参加者同士の対話を通じて、共通点や違いに気づき、それぞれの立場から問いを深めていく。そうして生まれた問いが持ち帰られ、組織の中で実践され、ブランドとしてのアクションやストーリーへとつながっていく。共有会は、こうした循環が生まれること自体を価値として設計されています。

社会や業界の当たり前を問い直し、どんな想いを持ってリーダーシップを発揮していくのか。リベラルアーツの哲学に基づいて設計されたブランドマーケティングのナレッジ共有会では、同じ知識資源であっても、参加者や組織の状況によって立ち上がる問いや気づきは毎回異なっていきます。

今回の共有会でも、既存の観念を問い直しながら、ブランドとマーケティング、アウターとインターナル、そして経営と現場といった分断を、どのようにつなぎ直していくのかに向き合いました。

ビジョンは「共有される物語」になって初めて推進力になる

理念が語られているのに、組織が動かない。言葉は整っているにもかかわらず、「自分たちならでは」が見えにくい。抽象化された理念が、どの企業でも語れてしまう言葉になったとき、組織は少しずつ確信を失っていきます。

第3弾で参加者に投げかけられた問いは、「ブランドは、全社の動機になっているか」というものでした。社会や業界の何を、なぜ自分たちが変えようとしているのか。その問いに答えきれないままでは、どれだけ戦略を積み上げても、言葉は組織の中で「自分の言葉」になりきれません。理念が“語らされる言葉”になるほど、推進力は弱まっていきます。共有会では、参加者それぞれが抱えている想いや、現在向き合っている組織の状況などが率直に共有され、対話が生まれていきました。

※「ビジョンラダー®」、「「6つの成立要件」は、ブランドマーケティングの専門知識とリベラルアーツの哲学により、FICCが開発したフレームワークです。

理念を動機へと変えるために、何が必要なのか。その手がかりとして共有されたのが、全社の動機となり、組織が確信を持つブランド戦略を導くフレームワーク「ビジョンラダー®」です。「ビジョンラダー®」は、「ビジョン(ブランドが実現したい世界)」、「イデオロギー(変革したい既成概念)」、「大義に基づく独自機能・資源」、「ミッション(ビジョン実現のためのブランドが担う使命)」、「バリュー(ミッションを達成するための行動指針)」を要素として並べるのではなく、因果関係としてつなぎ直していくためのフレームワークです。

重要なのは、そのブランドが描く理想の世界そのものが、市場として成立し、その中で自分たちの意味や独自資源が求められ続ける構造になっているかどうか。社会価値と経済価値を両立させるためには、理想の世界が実現した結果、自分たちが不要になるのではなく、むしろ必要とされ続ける状態を描かなければなりません。その前提に立って、ブランドの意味と資源を再解釈していきます。

その中でも核になるのが「イデオロギー」です。多くの社会課題や業界課題は、私たち自身が無意識のうちに受け入れてきた既成概念や固定観念によって形づくられています。リベラルアーツが「人を自由にする学問」とされてきたように、当たり前を問い直し、新しい問いを立て直すことが変革の起点になります。何を変えたいのか。どんな既成概念を問い直すのか。その意志こそがブランドの動機であり、ビジョンと資源をつなぐ要となります。

イデオロギーを起点に変革すべき既成概念と新たな概念と向き合ったとき、はじめて「自分たちが持っている独自の資源とは何か」を再解釈することができます。しかし実際には、この資源の再解釈まで行いきれていない企業も少なくありません。資源だけでは組織は動かず、そこに組織の行動指針が掛け合わさることで、ミッションは実行されていきます。ビジョン、イデオロギー、独自機能・資源、行動指針が因果としてつながることで、言葉は単なるステートメントではなく、組織の中で語り継がれるストーリーの骨格として機能し始めます。

その構造を体現する例として紹介されたのが、パタゴニアです。パタゴニアは「ビジネスそのものが自然環境を守る仕組みとして機能する社会」をビジョンに掲げ、「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションを明確にしています。

象徴的なのは、創業者イヴォン・シュイナード氏が、全株式を環境保全のために譲渡したという決断でした。「地球が私たちの唯一の株主である」という言葉や、「株式公開に進む(Going Public)」のではなく「目的に進む(Going Purpose)」という姿勢は、富を否定するものではありません。むしろ、富が生まれる源泉である自然環境を守るために、事業をどう使うのかという、資本主義そのものの再定義でした。

環境保全を前提とした経営構造、社員が環境問題に取り組むアクティビスト(活動家)として行動する文化、“使い捨てる” を前提としないプロダクト設計、環境団体との社会連携など、これらはすべて、ビジョンとイデオロギーから一貫して導かれています。そして何よりの独自資源であり経営資源は「パタゴニアといえば」というブランドエクイティ、すなわちブランドの「意味」そのものです。大義に基づいた意味が確立されているからこそ、結果として社会価値と経済価値が両立する持続的な事業活動を実現することができるのです。

パタゴニアの事例でもわかるように、ブランド戦略を「機能や性能を中心に語る状態(As is)」から、「そもそも何を変革したかったのか」を起点に再定義していくことが重要です。一社では達成できないビジョンに向かって、誰と、どのように共創していくのか。最終的にはビジョンが社会の文化となっていく。イデオロギーを、As isに対するTo beとして掲げることで、お金の流れや意思決定の基準が変わり、社員を含むステークホルダーに新しい選択肢や価値を提示していく。その過程で、自分たちの行動指針と大義に基づく独自資源や機能によってミッションを実行し、ブランドの意味と資源が求められる市場をいかにしてつくっていくのか。これが、ブランドマーケティングが本来持つ力です。

そして、組織が確信を持つブランド戦略のために有効な、FICCが生み出したナレッジ「6つの成立要件」にも向き合いました。ブランドの大義を強化するために目指すべき成立要件 ー 経営戦略との整合性、なぜ自分たちがその大義を語るのかという根拠、社内が奮い立たされるナラティブ、独自資源に立脚した市場の捉え方、既成概念を覆すイデオロギー、そして社外との共創を可能にするネットワーク資源。これら要件が満たされていくことで、ブランド戦略は言葉や理念にとどまらず、実際に “機能する戦略”となり、組織の確信へとつながっていきます。FICCでは、この「6つの成立要件」を用いて、ブランドの現状や強化機会を整理しています。

ナレッジ紹介
ブランドの大義を強化する上で目指すべき「6つの成立要件」
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さらに、組織が確信を持つブランド戦略のもとで、組織が共創し、自走していくために欠かせない「インターナル」の視点についても共有されました。ブランドを実際に動かしているのは、組織の中にいる一人ひとりです。誰かから借りた言葉や資料ではなく、自分の言葉として語れたときに、ブランドははじめて自走し始めます。「成功循環モデル」で定義されているように、結果を求める前に向き合うべきなのは、組織内外の「関係の質」であり、そこから思考、行動、結果へと循環が生まれていきます。イデオロギーや動機を起点に「関係の質」からインターナルに向き合うことで、ブランドは内側から価値を生み出し、「成功の循環」へとつながっていきます。

そのためFICCでは、「ビジョンラダー®」に加え、内発的動機に向き合うワークショップやブランドの組織浸透と動機形成、ブランドコミュニケーションガイドライン、ブランド体験設計、クリエイティブまで一貫した支援を行っています。戦略が物語として共有され、体験として積み重なっていくことで、ブランドは組織の内側から外へと広がっていきます。

※「成功循環モデル」は、MIT組織学習センター共同創始者のダニエル・キム氏により提唱された、組織が継続的に成長し、結果を出し続けるためのモデルです。

戦略は「共有される判断基準」になって初めて機能する

ライオンペット株式会社 事業推進部 浅沼 威行氏

第4弾では、ライオンペット株式会社 事業推進部の浅沼 威行氏を迎え、FICCがご支援をしている同社との取り組みを起点に、ブランドマーケティングの実践を紐解いていきました。浅沼氏は、商品開発とコミュニケーションの両方に携わってきた立場から、猫砂ブランド「ニオイをとる砂」を取り巻く市場環境について紹介しました。システムトイレタイプの競合ブランドが「1週間、臭いがこもらない」「お手入れが簡単」といった利便性を前面に打ち出す中で、ライオンペットが展開しているのは、尿を吸収して固まった塊を捨てる「固まる砂」タイプの猫砂です。

FICCとの議論の中で改めて焦点となったのが、「トイレの選択基準」にどう向き合うかという点でした。調査から見えてきたのは、「飼い主にとっての快適さ」だけでなく、「猫にとって清潔で快適かどうか」も同じように重視されているという事実でした。しかし、競合ブランドもまた、その点を利便性とあわせて語ることはできるかもしれません。そうしたコミュニケーションが展開される競争環境の中で、生活者は何を信じ、ブランドは何を本質的に届ける存在であり続けるのか。その問いが、議論の中で浮かび上がってきました。

さらに浅沼氏は、社内での議論を振り返りながら、ライオンペットのパーパスである「ペット第一主義」に立ち戻った経緯を語ります。
「“売れるから作る”という発想から、システムトイレを開発する選択肢もありました。しかし、ライオンペットのパーパスは『ペット第一主義』です。猫の祖先は砂漠生まれ。猫にとって理想的なトイレ環境は “トイレ容器の大きさ” と “砂の材質” が大切である。そこに立ち戻りました」

市場のトレンドやニーズを追えば、別の選択肢も考えられます。しかし、自分たちのパーパスに立ち戻ったとき、何を優先し、何を守るのかが明確になる。競合との比較ではなく、自分たちのあるべき姿と語るべき価値は何か。ライオン商事からライオンペットへと社名変更を行った際にも改めて掲げた「ペット第一主義」の精神を、言葉にとどめず、商品開発や戦略の判断の場面でどう向き合ってきたのかを示すエピソードでした。

その姿勢から生まれたのが、「猫ちゃんにバカ真面目」というコミュニケーションです。FICCとの打ち合わせを重ねる中で、ライオンペットの中では当たり前だった日々の研究や検証、猫に向き合い続けてきた開発の姿勢そのものが、実は他にはないブランドの資源であることが明らかになっていきました。

動画にはモデルではなく実際の開発担当者が登場し、猫耳をつけて語るという演出も含めて、ブランドが大切にしてきた姿勢そのものを、“自分たちの言葉”として可視化していくクリエイティブへとつながっていきました。

事例紹介
“猫想い”なブランドの思想にフォーカス。『ニオイをとる砂』ブランドムービー制作
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浅沼氏は、朝礼で動画を共有した際の反応について、「自分たちがやってきたことは間違いじゃなかった」という声が上がり、営業の話し方だけでなく、店頭の棚づくりや売り場での伝え方にも変化が生まれていったと語ります。ブランドとして何を大切にしているのかが言語化されたことで、現場での判断や表現の軸が揃っていきました。

その結果、生活者にもライオンペットの姿勢が伝わるようになり、広告のパフォーマンスやブランド想起に関する調査結果にも、その成果が表れていきました。ナレッジ共有会の場では、こうした具体的な数値や変化についても浅沼氏から紹介され、ブランドの大義や戦略が、組織の内側だけでなく市場での成果へとつながっていることが共有されました。

第4弾で共有されたのは、こうした一連の変化が、戦略を「共有される判断基準」へと変えていく過程でした。森は、ブランドマーケティングにおいては、ブランディングとマーケティングを分断しないことに加え、アウターとインターナルを分断しないことが重要だと語りました。ブランドを動かすのは組織の中にいる一人ひとりであり、ブランドが目指す姿と組織の動機が重なっているとき、その姿勢は市場で語られる言葉や振る舞いとして現れていきます。そして、アウターでの成功体験がインターナルに還元され、組織の中に成功循環が生まれていきます。

ライオンペットの取り組みを通じて浮かび上がってきたのは、ブランドの大義が起点にあるからこそ、自分たちの独自資源に気づき、何を価値として生活者に届けていく存在なのかが明確になっていく、という過程でした。その背景にある考え方として共有されたのが、FICCのブランドマーケティングのナレッジである「戦略クアドラント®」です。

「ビジョンラダー®」で定義した大義や独自機能・資源を、マーケティングを実装していく場面で、市場としてどのように捉え直すのか。「戦略クアドラント®」は、「大義」と「ビジネス目的」を中心に据え、大義に基づく「独自機能・資源」「ベネフィット」「ターゲット」「競合・市場(収益源)」の4つの要素を通じて、提供価値と市場の関係性を整理し、社会価値と経済価値を切り離すことのない戦略へと導いていきます。

ナレッジ共有会では、「戦略クアドラント®」を用いて、ブランドの大義がある場合とそうでない場合とで、「ニオイをとる砂」の独自資源や提供価値、ターゲットや収益源の捉え方がどのように変わっていくのかを検討しました。実際にそれぞれの場合の「戦略クアドラント®」を比較しながら、参加企業の方々とともに、その違いに向き合っていきました。

最後に浅沼氏は、「戦略クアドラント®」の役割をこう表現しました。
「『戦略クアドラント』があることで、何のために事業をしているのか、誰に向けて価値を届けているのかを、改めて確認することができます。迷ったときに立ち戻れる、共通の拠り所になっています」

戦略が資料として整理されているだけでなく、日々の判断や議論の中で立ち戻れる基準として共有され、会話に挙がっているかどうか。その基準の中心にブランドの大義があることで、組織の中での判断は、個別最適ではなく、共通の価値観に基づいて行われるようになります。

「ビジョンラダー®」を通じて、何のために存在するブランドなのかを整理し、「戦略クアドラント®」で、提供価値やターゲット、市場を具体的に捉え直していく。その過程を経ることで、そのブランドだからこそ成り立つ、組織が確信を持って意思決定できるブランドマーケティング戦略を導いていくことができます。

ビジョンと戦略は、問い続けることで組織に根づいていく

ナレッジ共有会を通じてFICCが向き合ってきたのは、完成された正解を提示することではありません。ブランドや組織が直面している状況に対して、どのような問いを立て、どこに立ち戻りながら考え続けていくのか。そのための視点や枠組みを一方的に伝えるのではなく、参加者同士のつながりや対話を通じて共有し、互いの立場や経験を重ね合わせながら問いを深めていくことを大切にしています。同じ知識やフレームワークに触れていても、立場や背景が異なれば、立ち上がる問いや意味づけは変わります。その違いを持ち寄り、気づきを得合い、次のアクションへとつなげていく。共有会は、その循環を目指しています。

FICCのナレッジは、ブランドマーケティングの専門知識と、既成概念にとらわれず社会に問いを立て続けるリベラルアーツの哲学から生まれています。価値観やマクロ環境が変化する中で、ブランドやマーケティングに求められる役割も、固定されたものではありません。だからこそFICCは、ブランドマーケティングに必要な視点や視座を探求し続けることを大切にし、問いを持ち、考え続ける姿勢そのものが、新たな知識資源の源泉となっていきます。今後もFICCは、そうした探究と実践を通じて、新たな知識資源のリリースとナレッジ共有会の開催を続けていきます。

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未来の社会を創造する
「ブランドマーケティング」

  • 持続するブランド
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  • 存在意義の共創

FICCは、人の想いの共創を通じて、企業やブランドのビジネスを成功へと導くブランドマーケティングエージェンシーです。
ブランドの社会的意義による新たな市場を創造する「ブランドマーケティング」の考えと、20年以上にわたる実績で培ったノウハウを通じて、企業のブランディングやマーケティング活動の支援、さまざまなセクターの方々と未来に向けた取り組みを行っています。