ブランド戦略を、組織の確信と実践へ ─ ビジネスリーダーに向けたFICCのブランドマーケティング ナレッジ共有会レポート

自社やブランドを理想の姿へと近づけるためには、組織内で理解を深め、協働し、一体感のある実行へつなげることが欠かせません。しかし、その流れを日常のオペレーションに根づかせるのは簡単ではありません。だからこそ、実践知に触れ、同じ課題に向き合う仲間と共に学び合う場が必要だと、FICCは考えています。

FICCは「LEADING BRANDS AND PEOPLE TO PURPOSE(あらゆるブランドと人がパーパスによって、未来を創り続けている世界の実現)」というビジョンを掲げ、組織変革に挑む方々と伴走してきました。その姿勢を体現する場として開催しているのが「ブランドマーケティング ナレッジ共有会」です。

この夏の共有会では、FICCが大切にするブランディングとマーケティングを分断しない「ブランドマーケティング」を軸に、第1弾で独自フレームワーク「ビジョンラダー®」を用いた組織が確信を持つブランド戦略の導き方、第2弾で「戦略クアドラント®」を用いたマーケティング戦略への接続と解像度の高め方を扱いました。

参加者は、経営・コーポレート、事業開発・横断部門、プロダクトのマーケティングや販促まで多様なレイヤーにわたり、FICCの知見と参加者同士の学びが交差することで、自社での実践につながる視点と問いが共有されました。

本記事では、2回の共有会を通して探求した、ブランドを組織の動機に重ね合わせ、戦略へと接続していくための考え方とアプローチを、FICCのフレームワークと実践知とともに振り返ります。

ブランドが抱える課題とその根本要因

第1弾の共有会は、参加者の課題から向き合いました。「ブランド戦略の必要性」という共通の関心がありながらも、それぞれの立場での課題は異なっていました。

まず経営・コーポレートの立場の方からは、経営戦略と事業戦略の接続、自社の独自性の再定義に対する課題の声がアンケートでも寄せられ、事業ポートフォリオの見直し、資源調達や市場戦略において、ブランドが定義されていない課題感が共有されました。

事業開発・横断部門では、短期の事業戦略と、経営が描く将来像のはざまでブランドの軸が揺らぎ、方向が定まりにくくなるというジレンマの声が聞かれました。既存の価値提供を守りながらも、3〜5年を見据えた新たな価値創造へ踏み出す際の独自性・強みの再定義が課題です。

マーケティングや販促の現場では、プロダクトの独自性・強みをどう再定義し、顧客に選ばれる理由として伝えるか。競合比較に終始する機能訴求から抜け出せず、ベネフィットの言語化や体験設計がブランド資産として積み上がっていかない── そんな課題感が共有されました。

こうした悩みの裏には、共通の構造があります。部門間やレイヤー間での戦略の認識にズレがあること、そして、ブランド戦略とマーケティング戦略が分断していることにあります。

理念が「自分たちだからこそ語るべきもの」になっているか。一般化した言葉のまま掲げられた理念は、経営の確信を生まず、事業開発の軸にもなりきれません。マーケティング活動ではメッセージが揺らぎ、採用やオンボーディングでは比較軸が条件面に偏り、短期離職のリスクも高まります。同じ技術やプロダクトを持っていても、組織内で意味づけが揃わなければ、総合力としての価値は内外に伝わりません。──理念が“誰にでも言える言葉”にとどまることの影響は、企業活動の隅々にまで及びます。

このように、理念が形骸化してしまう背景には「ブランドが何のために存在するのか」ということが明確になり切れていない点にあります。だからこそ問うべきは、ブランドは社会にどんな意味を生み出し、マーケティングはどんな市場を創造するのか。第1弾では、この問いに正面から向き合い、企業の各レイヤーでブランドを語る目的の違いを乗り越え、組織が確信を持つブランド戦略の導き方のアプローチとして「ビジョンラダー®」を手がかりに議論を深めました。

組織が確信を持つブランド戦略を導き出すために

第1弾では、FICCのブランドマーケティングの専門知識から生まれた独自フレームワーク「ビジョンラダー®」を軸に、理念を “自分たちの言葉” へ、そして組織横断の “動機” へと接続するアプローチに向き合いました。

出発点は、同じ「ブランド」を語っていても、経営・事業・プロダクトの現場で語る目的が根本的に異なるという前提の共有です。経営・コーポレートにとってのブランドは、中長期の経営戦略に結びつく意思であり、事業ポートフォリオの変革や資源調達、市場戦略を方向づける羅針盤です。事業開発・横断部門は、既存と新規の間で価値を再設計しながら、3〜5年のスパンでこれからの事業が担うべき意味として「ブランド」を語ります。一方、プロダクトのマーケティングや販促は、いま選ばれるための独自性や強み、ベネフィットを具体の体験として届けるために「ブランド」を語ります。

それぞれが「ブランド」を語る目的の違いは、見ている<資源><時間軸><市場>の違いとして現れます。

経営は「これから獲得する資源」や「10年先の市場」を想定し、横断部門や事業開発は「複数のプロダクトを横断した資源」や「中期の機会」を見ます。プロダクトやサービスのマーケティングにおいては、「今ある資源」やその再解釈によって、カテゴリー市場やベネフィット市場での成果が求められます。

これらの目的の違いは、本来あるべき考え方ですが、組織の中で「ブランド」がそれぞれの目的と結びつかず、言葉としてのみ語られてしまうと、レイヤー間での戦略の分断や、ブランド戦略とマーケティング戦略との分断が生じてしまいます。だからこそ、全社の “動機” として機能し、マーケティングとの接続を可能にするブランドを導き出すことが必要なのです。

「ビジョンラダー®」は、ブランディングとマーケティングを接続し、全社の動機として、各レイヤーの目的の違いまで捉え、組織が確信を持つブランドを導き出すフレームワークです。

「ビジョン(ブランドが実現したい世界)」と共に、「イデオロギー(変革したい既成概念)」、「大義に基づく独自機能・資源」、「ミッション(ビジョン実現のためのブランドが担う使命)」、「バリュー(ミッションを達成するための行動指針)」の関係性を捉えて設計していきます。ブランドの意味や独自資源が求められ、ステークホルダーから共感される市場としてビジョンを描き、過去・現在・未来へと、ブランドの意味と文脈を接続していきます。

ビジョンラダー®で導き出したブランドは、ロジックを越えて人の心に届くストーリーとしても語ることができることも特徴です。ブランド戦略をロジックとストーリーの両面から、経営戦略からマーケティング戦略まで一貫して語ることができるからこそ、組織が確信を持つことができるのです。

ブランディングとマーケティングを分断しない「ブランドマーケティング」。その考えに基づく「ビジョンラダー®」によってブランド戦略を強化していくうえで、FICCが生み出した「6つの成立要件」についても紹介しました。

経営戦略との整合性が取れているか。そのブランドだからこそ語るべき、説得力のあるストーリーであるか。そして、社内外から共感され、社会課題に対して新たな視点を提示できているか── など。これらの要件を満たすことで、ブランドははじめて“機能する戦略”として成立するとFICCは考えています。

ブランド戦略を組織の確信へと育てていくためには、理念を社会や市場、そして人の動機へと接続することが重要です。FICCでは「ビジョンラダー®」を基点に、<ブランディング><マーケティング><人的資本>の3つの領域を横断的に捉えています。

ブランディングは、社会や業界における「意味を創造すること」。ブランドがどんな理想を描き、どんな世界を実現したいのかを語るストーリーがその核にあります。このストーリーこそが、ブランドの存在意義を人々の心に根づかせる力となります。

マーケティングは、その意味をもとに「市場を創造すること」。理念を提供価値や顧客体験に変換し、ブランドの意志を成果へと導くロジックが求められます。戦略の一貫性を保ち、組織が確信を持って実行できる状態をつくります。

そして人的資本は、ブランドを支える「動機あふれる未来創造の資本」。一人ひとりがブランドの理念を自らの意志と重ね合わせ、ナラティブとして語り継ぐことで、ブランドは“自分たちの物語”として根づきます。それは組織にとっての「動機」となり、「確信」へとつながります。

この3つの領域が重なり合うことで、ブランドの理念は、社会の意味として広がり、新たな市場を創り出し、人の動機へとつながる──。FICCは、ビジョンラダー®を通じて、組織が確信を持ってブランドを語り、実践へとつなげる支援をしています。

ブランドの意味を市場へ ──マーケティング戦略への接続

第2弾のテーマは、ブランド戦略をいかにマーケティング戦略へと接続し、戦略の解像度を高めていくか──。第1弾で扱った「ビジョンラダー®」と接続し、マーケティング戦略を強化する考え方に迫りました。

ブランドは理念やイメージの領域にとどまり、マーケティングはカテゴリー内での競合比較や短期的な成果に偏りがちになる。その結果、ブランドが社会にどのような意味を生み出し、どんな市場を創造していくのかという根本的な問いが、組織全体で共有されにくくなっています。

FICCのブランドマーケティングの専門知識から生まれた独自フレームワーク「戦略クアドラント®」は、経営・事業・プロダクトといった異なるレイヤーの戦略の解像度を高め、相互に連携させながら、ブランドとマーケティングを一貫して捉えるためのフレームワークです。

戦略クアドラント®は、「独自機能・資源」「ベネフィット」「ターゲット」「競合・収益源」の4要素で構成され、その中心に「大義・ビジネス目的」を据えています。大義やビジネス目的が異なれば、同じ資源でもその意味や価値は変わります。資源の持つ文脈が変われば、顧客に提供する価値(ベネフィット)や、その価値を享受するターゲット、さらには競合や収益構造の解釈までも連動して変化します。戦略クアドラント®は、こうした関係性を構造的に整理し、ブランドがどの市場で、どのような意味をもって存在するのかを定義することを可能にします。

ブランドの“意味”を定義することは、単に言葉を作ることではありません。自社の資源や機能に眠る可能性を再解釈し、それが社会や生活者にどんな変化をもたらすのかを構造として描くことが求められます。ブランドとマーケティングの分断を乗り越えるには、この“意味の接続”が欠かせません。

第2弾では、FICCの森に加え、元資生堂で現在はMICHI inc.代表取締役CEOの北原規稚子氏をゲストに迎えました。資生堂で「エリクシール」など主要ブランドのリブランディングや市場創造を牽引され、FICCともブランドのビジネス成長を支援する取り組みをご一緒してきた経験をもとに、ブランド戦略とマーケティング戦略を分断させず連動させる実践的なアプローチについて議論が展開されました。

戦略クアドラント®の4要素はそれぞれが密接に関係していますが、特に「ベネフィット」と「ターゲット」は、事業やサービス、プロジェクト単位で戦略の解像度を高めるうえで重要な役割を担います。ブランドの独自資源を市場の意味へと変換し、顧客にとっての価値として具体化する── そのプロセスを通じて、ブランドの意味が生活者の中に根づいていきます。

北原氏は、これまで多くのブランド成長を実現してきた経験をもとに、生活者理解からベネフィットを導く過程を語りました。観察や対話を通じて、生活者が日常の中で求める「変化」や「感情」を丁寧に捉え、それをブランドが提供する体験へと結びつけていく。その積み重ねによって、ブランドは“機能の差”ではなく“意味の差”で選ばれる存在へと育っていくと指摘しました。

北原氏のブランドへの洞察と実践の話を受け、森からは北原氏とブランド成長を推進していくうえで実際に用いた、ターゲット理解のナレッジとアプローチを紹介しました。

「行動心理学では、行動を生み出す源泉は “動因”、つまり理想と現実の不一致です。私たちはそのギャップに働きかけるブランドを設計する必要があります。」

FICCでは、“ジョブ理論” や “マズローの欲求段階説”、また “自己概念・社会的自己モチベーションモデル” を用い、マーケティングを行う社会的環境と共に、顧客の “行動の裏にある動機” を体系的に捉えます。ブランドが活動する社会的環境を視野に入れ、過去・現在・未来の環境変化まで捉えて、生活者の動機を捉え直していくことの重要性も語られました。

「ブランドは、プロダクトの機能を超えて、顧客が “どうありたいか” という価値観や存在する障壁に寄り添う存在でなければなりません。私たちはその “動機” とブランドの社会的意義を接続することで、マーケティングを一過性の活動ではなく、ブランドの意味を積み上げる営みに変えていくことが大切だと考えています。そうした営みの先にこそ、社会価値と経済価値を両立し、持続して成長するブランドが生まれると信じています。」

森は、ブランド戦略とマーケティング戦略の接続とは、理念と生活者の動機をつなぐ実践であることを強調しました。

続いて北原氏からは、ブランドマネジメントとは「意味」を使ってマーケティング投資を最適化・最大効率化することであると語り、意味という資源を創造していくことを前提としないマーケティングは、投資対効果のリスクを伴うことを、具体的な数値を示しながら解説しました。

ブランドの意味としてベネフィットを再定義し、ターゲットとその先の社会的意義にもつなげていくこと。それは単に顧客像を精緻化する作業ではなく、社会の中でどんな価値を果たすブランドでありたいのかを明確にするプロセスでもあります。

ブランドの分断を越えて、社会の変化を共に創るために

ビジネスリーダー向けに開催された、2回にわたる「FICC ブランドマーケティング ナレッジ共有会」では、ブランド戦略とマーケティング戦略を分断させず、理念から実践までを一貫してつなぐための考え方と、FICCのフレームワーク「ビジョンラダー®」と「戦略クアドラント®」によるアプローチに向き合いました。

参加者からは「とても参考になった」との声が多く寄せられ、交流会では学びや気づきをもとに、各社での取り組みにつなげる意見交換が活発に行われました。FICCで実現されたこのコミュニティを通じて、ビジネスリーダー同士の新たなつながりも生まれていました。

FICCがこのナレッジ共有会で目指しているのは、ナレッジを学ぶことだけではありません。経営・事業・現場の各レイヤー、ブランディングとマーケティング、アウターとインターナル、そしてブランドの動機と共同体や一人ひとりの動機── あらゆる分断をつなぎ直していくことです。FICCはブランドマーケティングを通じて、組織が自らの存在意義を再解釈し、共に働く人々の意思を束ねていくための視座と対話の場を提供し、また、戦略からクリエイティブまで共創することができるパートナーでありたいと願っています。

私たちのブランドマーケティングの考え方に共感いただき、参加いただいた方々への感謝とともに、これからもFICCが掲げるビジョン「あらゆるブランドと人がパーパスによって未来を創り続けている世界の実現」に向けて、ブランドや社会、そして働く人々への想いを持つ方々と共に歩みながら、学びを止めることなく貢献を重ねていきます。

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好評につき再開催決定!組織が確信を持つブランド戦略の導き方「ビジョンラダー®」| FICC ブランドマーケティング ナレッジ共有会
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※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、持続的に求められるブランドの姿を導き出すフレームワークです。
※「戦略クアドラント®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、マーケティング戦略要素を導き出すフレームワークです。

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未来の社会を創造する
「ブランドマーケティング」

  • 持続するブランド
  • 市場を創るマーケティング
  • 共創がつづくクリエイティブ
  • 存在意義の共創

FICCは、人の想いの共創を通じて、企業やブランドのビジネスを成功へと導くブランドマーケティングエージェンシーです。
ブランドの社会的意義による新たな市場を創造する「ブランドマーケティング」の考えと、20年以上にわたる実績で培ったノウハウを通じて、企業のブランディングやマーケティング活動の支援、さまざまなセクターの方々と未来に向けた取り組みを行っています。