
データやAIが導き出す「解」だけでは、人の心は動かない──。20年以上にわたり数々の大手企業のブランディングを手がけてきたFICCが辿り着いたのは、そんなシンプルな真実でした。
資生堂、パナソニック、明治、バンダイなど、日本を代表する企業のブランド戦略を支援してきたFICC。その裏には、徹底的にデータを分析し、ロジカルに戦略を組み立てるだけでなく、ブランドに関わる一人ひとりの「想い」を引き出し、それを戦略に接続していくという独自のアプローチがあります。
「どんなに精緻な戦略も、それを実行する人たちが心から信じられなければ機能しない」
そう語るのは、ブランドマーケティングコンサルタントの土屋 有未。金融機関から転職し、現在はFICCでクライアントの内発的動機を引き出すワークショップの設計・実施を担当しています。今回は、FICCが実践する “本当に機能する” ブランド戦略の作り方と、そこで働く魅力について話を聞きました。
FICC ブランドマーケティングコンサルタント・土屋 有未
新卒で金融機関に入社し、融資業務等に従事。事業成長のためには融資と同じぐらいブランディングマーケティングが必要との想いから、2020年FICCへ入社。FICCではストラテジックプランナーとしてマーケティング戦略策定や、内発的動機からブランド戦略を導くためのブランディングワークショップの設計・実施を担当。一人ひとりの想いが尊重される社会の実現を目指す。
「社会的価値と経済的価値の両立を支援」というミッションに共感
──これまでの経歴について教えてください。
私は新卒で金融機関に入社し、3年半ほど個人・法人営業を行っていました。就職先に金融機関を選んだのは、人とモノ、あるいは人と人をつなげる仕事がしたかったからです。いろいろな業界を見るなかで、金融機関がお金の貸し借りだけでなくビジネスマッチングも担っていることを知り、強く興味を惹かれました。
入社後は多くの企業の経営者や役員の方々と出会い、会社の未来や経営について深く語り合う機会に恵まれました。そのなかで気づいたのが、経営者の皆さんはとても熱い想いをもってビジネスを展開しているものの、それをうまく伝える知識やスキルを持っていないばかりに、世の中に十分に届いていないという事実でした。
「いいものを作っていれば自ずと売れるはず」と考えている方が多く、効果的な伝え方や売り方を知らない方が多かったんですね。そこから「もし自分にマーケティング知識があれば、社長さんの熱意を多くの人に届けられるし、確かな成果につなげられるのではないか」と、もどかしい気持ちを抱くようになったんです。
そこで転職を決意し、マーケティングやブランディングを学ぶスクールに通った後、FICCに入社しました。
──転職先にFICCを選んだ理由は何でしたか?
FICCが掲げる「社会的価値と経済的価値の両立を支援する」というミッションに共感したからです。
金融機関にいると、企業が「こんな商品があれば世の中はさらによくなるのでは」と、社会的意義を真剣に考えて事業を行っていても、私自身は経済的価値があるかどうかだけでお客様を判断しなければなりません。
また、融資が可能なのは今後の成長が見込める企業ばかりで、本当に資金を必要としている人には手を差し伸べられないというシビアな現実もあります。多くの経営者の方々と話を重ねるなかでずっとそこにモヤモヤを感じていました。
だからこそ、「社会的価値と経済的価値の両立を支援する」というミッションを掲げるFICCをWantedlyで見つけたときは、すぐにピンときましたね。当時の求人は経験者募集しかなかったのですが、熱意を示して何とか採用していただきました。
本質的に機能する戦略は、データだけでは導けない

──土屋さんの現在の仕事内容について教えてください。
入社時は、FICCの創業者である荻野、そして当時の事業部長に次ぐ3人目のメンバーとして「マーケティングナレッジ開発事業部」に配属されました。荻野はブランドやマーケティングの知識を磨き続け発信し続けていた人物で、マーケティングナレッジ開発事業部では、荻野が培った知見を企業やブランドに伝え、実務で活用できるよう支援する活動を行っていました。
現在、荻野は代表から会長となり、組織の改編もありましたが、私は新しい部署においても従来と同様の役割を担っています。具体的には、組織が独自のブランド戦略を導き出せるよう支援するワークショップの設計・実施に加え、私自身が戦略を提案・策定することもあります。
──なぜワークショップという手法を取っているのですか?
ワークショップは、ブランドに関わる方々働く方々がが信じられる戦略を生み出すための手法のひとつだと考えています。
FICCがワークショップを始めたきっかけは、荻野が長いキャリアの後半で辿り着いた一つの「解」にありました。荻野は膨大なブランド支援の経験から、ある程度の情報があれば、そのブランドがビジネスを成長させるためにどんな戦略を立てるべきか、すぐに分かってしまうんですね。
もちろん、戦略立案においてデータは大事ですし、私たちはブランドマーケティングの専門知識をもとにデータを分析し、戦略を導き出します。しかし、いくら客観的なデータを揃えて建設的に戦略を組み立てたとしても、ブランドに関わる方々が心から信じられるものになっていなければ、その戦略は機能しないのです。
そうした考えを聞くなかで、「ブランド戦略は、自分たちが作った確度の高いプランに、関わる人々の想いが掛け合わさってこそ機能するものだ」と思うようになりました。そのため、ブランドに関わる人の想いを戦略に反映させ、関係者すべてが腹落ちするものを導くために、ワークショップを実施しています。
──これまで開催してきたなかで、特に印象的だったワークショップはありますか?
どのワークショップにも思い入れがありますが、特に印象に残っているのは、株式会社明治さんと行った「明治ブルガリアヨーグルト」のワークショップです。
明治ブルガリアヨーグルトは約50年続くロングセラーブランドで、“ヨーグルトの王道”とと呼ぶにふさわしい存在です。しかし、市場には次々と新商品が登場し、生活者のニーズも変化しています。そうしたなかで「ブランドはどこを目指すべきなのか?」「ブルガリアのブランド価値はどこにあるのか?」という問いが、明治さんの社内でも生まれていました。そこで、改めて共通認識を確認し、ブランドに関わる方々が信じられる未来の指針を描くために、ワークショップを実施することになりました。
一見バラバラに見えた皆さんの意見も、ブランドマーケティングの観点から整理すると、実は同じ方向を向いていることが明らかになりました。また、参加者の皆さんがブランドを深く愛していることも伝わってきて、単なる認識合わせにとどまらず、ブランドへの誇りや愛着を再確認する機会にもなったと感じています。

特に心に残っているのが、ワークショップ後にいただいた「ブランドの魅力を再認識できたことで、仕事がとても楽しくなった」という感想です。ブランドの指針を定められただけでなく、参加者一人ひとりのエンゲージメント向上につながる支援ができたのかと思うと、嬉しさで胸がいっぱいになりました。
──ワークショップを設計・実施する上で、特に意識していることはありますか?
先ほどお話したとおり、私たちはブランド戦略やマーケティング戦略を描く上で、外部要因を捉えた課題解決型のアプローチだけでなく、関わる人たちの想い(内発的動機)を起点に、自分たちの価値を再解釈することが大切だと考えています。この内発的動機を引き出すために意識していることは、主に2つあります。
1つ目は「楽しい場づくり」です。普段仕事をするなかで、自分の想いを人に話したり発散する機会ってそんなにないと思うんです。でも私達が引き出したいのは、一人ひとりの「想い」。だからこそ、参加者が想いを発散しやすい場をつくることは意識していますね。
例えば、ワークショップでは参加者同士を“あだ名”で呼び合ったり、ストーリー性のあるお菓子を用意したり、明るいBGMをかけたりして自然に柔らかい雰囲気になるよう意識しています。お客様から「FICCさんのワークショップが楽しすぎて…!毎回参加するのが待ち遠しいんです」と言ってもらえることも多いです(笑)
そして2つ目は「考えたくなる問いの設計」です。参加者にとってワークショップは仕事の一環だとは思いますが、やはり難しいことはあまり考えたくないものですよね。そのため、皆さんに問いかけるお題はできるだけ堅苦しくならないよう、つい考えたくなるような問いを設定するよう工夫しています。
たとえばあるワークショップでは「自社のブランドを“推しキャラ”に例えるとしたら?」というお題を設定して、身近なアイドルと重ね合わせながらブランドイメージを自然に見出していきました。
キャリアやプライベートの相談も。お客様と築く信頼関係

──土屋さんの現在の目標を教えてください。
「余白のある戦略を導き、ブランドのビジネス成長に貢献できるコンサルタントになること」を長期目標として掲げています。
基本的に戦略というものは「余白がない方がよい」とされています。各々が余計な解釈をする余地がなければ、目標達成に向けて動きやすいためです。しかし、多種多様な商品が世の中に溢れる今の時代は、データから導き出した戦略だけではブランドは勝ち抜くことができなくなってきています。
例えば「10〜20代で流行っているから、このニーズを満たす商品を出す」といった一本槍の戦略は、他社でも簡単に真似ができてしまい、自社が選ばれる理由にはなりません。
一方で、ブランドには成り立った背景や歩んできた歴史、そこに関わる人々の想いも全く異なっていて、個性に溢れています。データでは拾いきれないその個性こそが、ブランドの独自資源だと私は考えています。
これからの時代は、「関わる人の想い」が反映された戦略がさらに求められると思います。そうした余白のある戦略を自らの手で導き、生活者の心を動かすブランドを育てていきたいのです。
──目標達成に向けて、何か取り組んでいることはありますか?
はい。やっぱり、関わる人たちの想いや考えを引き出すうえで、ワークショップはすごく効果的だなと感じています。とはいえ、場づくりの部分ではまだまだ課題もあると思っているのでこの秋から、ワークショップを体系的に学べる大学に通うことにしました。
もちろん学んだことは仕事にも活かしていきたいし、社内にも還元していけると思ってます。でも正直なところ、ワークショップという「場」をつくること自体がすごく楽しくて、趣味みたいな感覚なんですよね。
これまでもワークショップを活用した取り組みで一定の成果は出せてきたと思いますが、どうしてもノウハウが実務経験者に偏ってしまいがちです。だからこそ私が学び直して整理し、それをチームに共有・仕組み化していくことで、再現性のある“型”をつくっていきたいです。最終的にはその型をベースに、さらにたくさんのブランドをサポートできる体制を社内に整えていけたらいいなと思っています。
──土屋さんはビジネスプロデューサーとして、FICCの収益にも貢献しなければならない立場かと思います。ビジネス拡大に向けて、何か意識していることはありますか?
もちろん会社としての目標はありますが、正直なところ、私はお客様とお話するときにFICCの利益のことはあまり考えていないかもしれません。「昨年対比〇〇%アップを目指したい」や「FICCのビジネスを拡大させたい」といったことは積極的に考えていないんです。
その代わりに「担当者の方と、人として1対1でどこまで深く関われるか」といったことは日々意識しています。ときには今後のキャリアを相談しあったり、“恋バナ” をしたりすることもあります。ビジネスパーソンとしてだけではなく、一人の人間としてお客様と向き合うようにしているんです。
そうすると自然とお客様との距離がグッと近くなり、お困りごとやブランドの将来について相談いただけるようになります。結果的にそれがFICCのビジネス成長につながっていくんですよね。実際、私が担当しているブランドさんが別のブランドさんを紹介してくださったり、同じ会社の別ブランドも担当させていただけるようになったりと、目に見える成果も生まれています。
FICCで求められる「人を信じる力」と「変化を楽しむ心」

──FICCに向いているのはどんな人だと思いますか?
私たちの仕事は、人の想いに向き合い、AIやデータだけでは導き出せない答えを探すことです。だからこそ「人と向き合うことが好きな方」や「不確かであっても、相手が感じている可能性や感情を信じられる方」はとても向いていると思います。
また、ワークショップは“生き物”だと思っています。アジェンダ通りに進めるのではなく、その場で出た意見や参加者の反応を見ながら、内容を柔軟に変えていきます。そのため「変化を恐れない方」や「予定調和ではないことを楽しめる方」にもピッタリの環境だと思います。
──土屋さんはプロジェクトリーダーとしてチームをまとめることも多いとお聞きしました。社内メンバーと接する上で、意識していることはありますか?
意識しているというほどではありませんが、アサインしたメンバーに「今社内で走っているプロジェクトのなかで一番楽しい!」と思ってもらえるプロジェクトをつくりたいと、日頃から思っています。楽しい仕事をしているときが一番パフォーマンスを発揮できますし、自分たちが楽しんでいる様子はそのままお客様に伝わるんですよね。なので、メンバーの特性を踏まえつつ「楽しくするためには何ができるだろう?」とよく考えています。メンバーがやりたくない仕事を無理にやらされる、という状況は避けたいんです。
また、プロジェクトのキックオフでは必ず、アサインしたメンバー全員に「このプロジェクトにどんな想いを持っているか」を確認するようにしています。その人の成長目標やキャリアビジョンとも照らし合わせながら、最大限の力を発揮できるチーム編成や、ステップアップにつながる仕事の割り振りを心がけています。そうして一緒に取り組むなかで、強い信頼関係が築けたときはとても嬉しくなりますね。
──最後に、応募を検討している方へメッセージをお願いします。
私はFICCで働くなかで、「嫌なことを我慢してお金を稼ぐのではなく、楽しく働くことで世の中をより良くする支援ができる」と実感しています。自分が楽しんで取り組んだ仕事の成果が、そのままお客様の価値となり、最終的に社会につながっていく───そのようなやりがいを日々感じています。とてもポジティブに働ける環境ですので、仕事を通じて人生を豊かにしたいと考えている方は、ぜひFICCで一緒に働きましょう!

※本記事はWantedlyに掲載したインタビュー記事を転載しています。