「イノベーション立県」を掲げ、事業立ち上げや新たな価値創造に挑む企業が増えつつある広島県。一方で、優れた技術や長年培ってきた歴史を持つ既存の地域企業も数多く存在しています。
FICCが広島と接点を持つきっかけとなったのが、広島県出身のコンテクストデザイナーである村中が、地元で活動する方々との出会いを通じて、改めて広島を再解釈し、地域の力となる場をつくりたいと感じたことでした。
2024年に、広島県が運営するイノベーション・ハブ・ひろしまCampsで開催したイベントを起点に、同施設の運営を担う株式会社エル・ティー・エス(LTS)と連携しながら、ブランドマーケティングの視点から自社の資源を再解釈し、独自価値を起点とした新たな市場創出を目指す実践型プログラム「ブランディング未来創造ラボ」を設計・実施しました。
資源を価値へ、価値を市場へ。求められていた視点

挑戦しようとする想いはある。しかし、歴史や技術を有しながらも、時代の変化の中で自社の価値を十分に発揮しきれていない。自社の資源や価値をどのように再定義し、それをどの市場に対してどのように接続していくのか。まさに「ブランドマーケティング」の考え方が求められていました。
実際に、地域で事業に向き合う企業やプレイヤーとの対話を重ねる中で、広島には多様な資源と挑戦の芽が存在している一方で、それらを横断的に捉え直し、未来へとつなげていくための視点や場には、まだ可能性があると感じました。
こうした背景を踏まえ、FICCはこれまで多様なビジネスモデルの企業支援を通じて培ってきたブランドマーケティングの知見と体験設計のノウハウをもとに、思考と対話を深めながら自社の価値を再定義し、それを戦略へとつなげていく実践型プログラムを設計しました。
本プログラムでは、ブランドマーケティングの知識を共有するだけでなく、参加者一人ひとりが自社の歴史・技術・人といった「資源」を自ら再解釈し、独自の価値として言語化しながら、事業へと接続していく。そのプロセスを通じて、構想力そのものを育んでいくことを目指しました。
また、地域企業の実情や文脈を深く理解するLTSと連携することで、現場に根ざした支援設計を実現しています。
対話と実践を積み重ねるプログラム

プログラムは、1day勉強会と全6回の実践ワークショップから構成される、約8か月間の取り組みとして実施しました。
最初の1day勉強会では、ブランドマーケティングの基礎を学びながら、自社の価値をどのように捉え直すべきかという視点を得ることからスタート。その後の実践編プログラムでは、各社が自社のテーマを持ち込みながら、段階的に思考を深めていきました。

実践編プログラムは、「ブランディング(方向性の言語化・独自性の発見)」「マーケティング(戦略策定・ターゲット理解)」「最終フェーズ(アクション設計と実装)」の3段階で構成され、対面とオンラインを組み合わせながら進行しました。
はじめのブランディングフェーズでは、企業や事業が “求められ続ける存在” となるためのブランド戦略を導き出すフレームワーク「ビジョンラダー®」を活用しながら、自社の歴史や技術、これまでの取り組みを改めて捉え直し、独自の価値や方向性を言語化していきました。
次のマーケティングフェーズでは、その価値をどの市場に対してどのように届けていくのかを整理し、戦略へと接続していきました。ブランド戦略とマーケティング戦略を分断せず、組織全体の戦略として接続・実装していくためのフレームワーク「戦略クアドラント®」に基づき、戦略の策定やターゲット理解の解像度を高めていきました。

そして最終フェーズでは、ここまでに整理してきた内容をもとに、具体的なアクションや事業構想へと落とし込み、実行可能な形へと昇華させていきました。
また、参加企業同士が互いの取り組みを共有し合うことで、思考は個社の枠を超えて広がり、学びがより実践的なものへと深まっていきました。
成果とともに生まれた変化

プログラムを通じて生まれた変化について、参加者の方々からも多くの声が寄せられました。
初回の1day勉強会では、アンケート回答者のうち94.2%が「満足した」と回答。実践編プログラムにおいても、参加者からは満足度100%という評価をいただきました。さらに、開催期間中から30%以上の方が学びを実践に移しており、他の参加者においても具体的な活用イメージが描かれつつあります。
なかでも印象的だったのは、「これまでで最も心理的安全性の高いコミュニティだった」という声です。このプログラムが単なる学習の機会にとどまらず、参加者同士が互いの挑戦を支え合う関係性を育んでいたことがうかがえます。

正解のない問いに向き合うためには、安心して自分の考えを言葉にできる環境が欠かせません。個社が孤立した状態で挑戦するのではなく、「広島」という場に集う者同士が継続的につながり、互いを鼓舞しながら前進していける関係性を、CampsとLTSとの共創によって育んできました。
また、参加者一人ひとりの中でも変化が見られました。これまで個別の部門課題として捉えられていたテーマが、企業全体の戦略として議論されるようになり、ブランドマーケティングの問いが経営の問いへと接続されていきました。さらに、「知識を得ること」にとどまらず、それを自社の文脈で応用し続けていく思考そのものが、参加者の内側に育まれていきました。
地域企業支援の新しいモデルへ

本プログラムは、自治体が地域企業の成長を「ノウハウ」で支援していく新しいアプローチの一例となりました。スタートアップ支援にとどまらず、歴史ある地域企業の挑戦や自走を後押ししていく取り組みとして、今後の地域支援のあり方にも示唆をもたらしています。
「ブランディング未来創造ラボ」は、今後も広島での継続が予定されています。本取り組みを通じて得られた設計の考え方や実践の知見も、他地域への展開を見据えながら、少しずつ深めていく予定です。
地域企業が自らの資源を捉え直し、価値として社会へと接続していく。そのプロセスを支える取り組みとして、FICCはこれからも地域の皆さまと共に、その可能性を広げていきたいと考えています。
