建築設計とランドスケープデザインを手がける株式会社TORO。
FICCは現在、空き家資源の活用や移住支援、さらにはまちづくりへとつながるTOROの新規事業開発プロジェクトの立ち上げを、共創パートナーとして伴走しています。
兵庫県赤穂市の東部に位置する「坂越(さこし)」は、瀬戸内海に面し、穏やかな坂越湾が広がる港町です。石畳が続くメインストリート「坂越大道(さこしだいどう)」には、町家や酒蔵などの歴史的建造物が今も多く残り、その町並みと文化財は「日本遺産」に認定されています。
坂越大道の一角に、事務所兼カフェスペースを構えるのがTOROです。歴史ある建物が多く残る一方で、地域の高齢化や空き家の増加といった課題も見られます。TOROは「坂越の美しい町並みを守りたい」という想いからこの地に拠点を移し、地域に根ざした活動を続けてきました。
「空き家を活用した宿泊拠点をつくりたい。宿泊者だけでなく、地域の人にとっても意味のある場所にしたい」
その構想をかたちにするために、FICCとの新規事業プロジェクトが始まりました。そこでは建築デザインにとどまらず、人と地域をつなぐための“コミュニケーションデザイン”という視点が重要なテーマとなりました。
ビジョン起点から紡いだブランドマーケティング戦略と、まちの未来を描くビジョンマップ

TOROが目指すのは、単なる宿泊施設ではありません。坂越の暮らしそのものを体験できる場所であり、地域の一人ひとりにとっても関わりしろのある拠点です。その実現に向け、まず取り組んだのは「TOROがつくる宿泊拠点が坂越にもたらす未来」を描くことでした。
赤穂市役所と連携し、地域ビジョンと事業全体の方向性を整理する共創ワークショップを企画・運営。地域のキーパーソンの方も巻き込みながら、坂越が持つ魅力や独自資源を捉え直し、目指すまちづくりの方向性や、そこで生まれる顧客体験を丁寧に言語化していきました。
ワークショップでは、
・坂越の魅力(地域資源)とは何か
・TOROの事業によって、このまちはどう変わるのか
・それは住民にどのような価値や喜びをもたらすのか
といった問いを軸に、地域の未来像を参加者全員で深掘りしていきました。

さらに、市場・外部環境のリサーチを踏まえた事業戦略方針と、ビジョンを起点とするブランドマーケティング戦略の両面から方向性を整理。TOROによる新たな事業が生まれることで、坂越のまちがどのように変わっていくのか。地域の関わる人たちが共感し、共に未来を描けるよう、その絵図を「ビジョンマップ」として可視化しました。

移住に至るプロセスを可視化した、移住成功者ジャーニー分析

今回の宿泊事業で理想的な利用者として設定したのは「移住ポテンシャルのあるターゲット」です。観光の延長として泊まるだけではなく、坂越の暮らしや文化に魅力を感じ、将来的にまちの一員となる可能性を持つ方々との接点を創出することを目指しました。
その検討にあたり実施したのが、移住成功者アンケートです。実際に坂越へ移住した方々に、惹かれた理由や移住を決めた背景をヒアリングし、その価値観や移住に至るプロセスを整理。「移住成功者ジャーニー分析」として可視化しました。
「移住者を増やしたい」「関係人口を創出したい」といったテーマは、多くの自治体が掲げ、移住に関するデータ自体は数多く存在します。一方で、実際には「どのような人が、何を感じ、このまちを選ぶのか」という特定地域における “移住成功までのプロセス” を可視化した事例はほとんどないのが実情です。年齢や性別といった属性データだけではなく、一人ひとりの内発的動機や想いに目を向けること。そのプロセスと積み重ねが、持続的なまちづくりへとつながると私たちは考えています。
今回の分析については、市役所職員の方からも「地元の人(特に移住者)の声を客観的に見る機会が少なかったので貴重だった」との声をいただきました。こうしたターゲットの価値観や行動変容を軸にした分析には、FICCがこれまで培ってきた、生活者視点に立ったコミュニケーション戦略の知見が生かされています。
新規事業コンセプトを体現するブランドネームの開発

事業の方向性とビジョンを踏まえ、「これからつくる新規事業はどのような場であるべきか」をコンセプトとして言語化しました。そこから生まれたのが、宿泊事業ブランド「TOROYA」です。“忙しい日常を離れ、坂越に流れ着いた人が穏やかに滞留できる場所。TOROとまちの人々が共にもてなす家”という想いを込めています。現在も、市役所や地域の多様なステークホルダーと共創しながら、第二フェーズとして空き家改修や宿の設計デザインに向けた準備を進めています。
FICCはこれからも伴走パートナーとして、TOROの皆さまと共に、坂越の未来ビジョンの実現に向けた歩みをご一緒してまいります。

お客様の声
株式会社TOROは、全国各地で設計を行う傍ら、地域性の色濃いエリアに身を置く企業として、「大好きなまちのために、自分たちの専門性でどんなことができるのか?」と常に考えてきました。
空間づくりには専門性がありますが、それをまちの中で活かしていくためには、地域の方々や行政の皆さまとの連携が欠かせません。そこで、FICCさんに伴走をお願いしました。独自のヒアリングやワークショップ形式を通して、多くの方々の想いを受け取りながら、この地域ならではの一つの形に落とし込んでいただきました。地域と共創する宿ブランドの開業に向けて、これからも引き続き共に歩んでいただけたら嬉しいです。
ー 株式会社TORO 成富 文香様
