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ブランド力を強化する「デジタル広告」のあり方とは? ― 現代の生活者に受け入れられるために

荻野 英希 /
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デジタル広告の大半は、オンラインの購買行動を直接的に刺激するダイレクトレスポンス広告です。リスティングやリターゲティングなど、購買ファネルの後半で、顕在化した需要を刈り取る役割をもっています。しかし、生活者のアテンションがマスメディアからスマートフォンへと移行し、デジタル広告にも間接的な店頭での販売促進や、ブランド力の強化などを目的とした、「ブランド広告」の役割が求められるようになりました。

しかし、多くのマーケターがもつブランド広告の考え方と、デジタル専業代理店が得意とするレスポンス広告のノウハウには、大きな乖離が存在します。結果、デジタルメディアはいまだブランド広告の領域では大きく活用されず、減少するマスメディアの効果を十分に補完できていません。多くのマーケターは、デジタルメディアのさらなる活用を求められており、その特性を活かした、新しいブランド広告の考え方を必要としています。

マルチセグメント・マーケティング

デジタル広告は、特定のセグメントだけにリーチすることができます。しかし、どれだけピンポイントなメッセージを届けられたとしても、狭いターゲティングは限定的なリターンを意味し、マーケターにとって必ずしも魅力的なものではありません。トップラインの成長目標を与えられたマーケターは、できるだけ多くの生活者をターゲットにしたいと思うはずです。しかし、直接的なリーチの規模や効率で、デジタル広告がテレビを上回ることはありません。リーチ以外の特性を活かさなければ、デジタルメディアがブランド広告に大きく活用されることはないのです。

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高精度なターゲティングというデジタルメディアの特性を活かせば、セグメントごとに最適な広告を配信することができます。市場全体をターゲットとするマスブランドでも、同じ広告を全員に配信することが正解であるとは限りません。効果的な広告とは、自身に向けられたと感じ、共感できるものであるはずです。デジタル広告は、複数のセグメントに、複数のメッセージを発信する「マルチセグメント・マーケティング」を可能にし、広告のスケールと、精度の両立を実現してくれるのです。

ファネル上部の質的指標とブランドリフト

ブランド広告には、オンラインのコンバージョンポイントが存在しません。そのため、主にクリック数や再生回数などの量的指標と、CPC(クリック単価)やCPV(視聴単価)などの価値指標が効果測定に用いられます。しかし、これらの指標はリーチの規模と効率だけを表しており、態度変容の有無を含んでいません。つまり、これらを基に広告を最適化しても、効果の無い広告の配信を、効率化している可能性があるのです。

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ブランド広告の効果測定には、購買ファネルの上部における、認知率や購入意向率などの質的指標が必要となります。しかし、これらの目標設定や計測は、レスポンス広告ほど簡単ではありません。ブランド広告では、マーケティングROI(マーケティング予算に対する粗利目標)から算出可能な、ファネルの購入段階の数値を基に、認知や購入意向など、より上部の数値目標を推計します。そして、その効果測定には、態度変容を示す行動データの取得か、ブランドリフト調査を用いる必要があります。成果指標とは、文字通り成果を指し示すものであり、計測のし易さは関係ありません。量・質・価値の3軸から、正しい計測を行わなければ、ブランド広告としての効果を測定し、最大化することはできません。

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ネイティブなマイクロコンテンツ

テレビ用に作られた広告を、スマートフォンに配信しても、積極的な視聴は見込めません。生活者は、スマートフォンから欲しいコンテンツをいつでも得られるようになり、数分間のスキマ時間に新たな価値を感じるようになりました。そして、そんな短い時間でさえも、あからさまな広告に奪われることを嫌うようになったのです。誰にでも、動画コンテンツを観る前に、まったく無関係なプレロール広告を強制的に視聴させられ、不快な思いをした経験があるでしょう。これは広告が私たちに、十数秒の時間を費やして良いと思えるほどの価値を提供していないことを意味するのです。

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スマートフォンは、いままで仕方なく広告を視聴してきた私たちに、膨大なコンテンツの選択肢を与えてくれました。私たちは、広告を視聴しない自由を与えられ、広告に対する寛容度が大きく低下したのです。そんなスマートフォンを媒体とするデジタル広告が、従来の広告と同じものでは、視聴されるはずがありません。デジタル広告が視聴者に受け入れられるためには、視聴するコンテンツや、プラットフォームとの親和性(ネイティブ)、広告自体のコンテンツとしての有益性、または面白さ、そして、断片化された可処分時間で消費できる短さ(マイクロコンテンツ)を兼ね備える必要があります。視聴者が支払う「時間」というコストをできる限り少なくし、それに見合った価値を、違和感なく提供しなければ、広告を視聴してもらうことはできないのです。

スマートフォンとソーシャルメディアが広く普及したいま、デジタル広告のスケールは、マスメディアに匹敵しています。さらに、精度の高いターゲティングや、視聴者の反応を得るインタラクティブ性、そして情報の拡散性など、従来の広告に比べ、さまざまな優位性が存在します。しかし、デジタルメディアの特性や、生活者の広告視聴における心理的な変化を正しく理解しなければ、広告を視聴してもらえないどころか、ブランド毀損を招く可能性すら大いにあります。変わり続けるデジタル広告の世界において、成功の方程式は存在しません。しかし、新しいことに挑戦し続けなければ、広告の効果は低下し続けるだけです。現代のマーケターは、従来のマスマーケティング中心のノウハウと、デジタルのさまざまな知識を融合させ、新しいブランド広告のあり方を模索し続けなければならないのです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

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