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「消費者ベネフィット」の定義に役立つ、6つの質問:ベネフィットセリング習得の第一歩

荻野 英希 /

80年代以降、製品機能を中心としたマーケティングコミュニケーションは、効果的ではないとされてきました。「フィーチャーセリング」呼ばれるこの手法は、市場規模や顧客関係に制約をもたらし、ブランドの脆弱性をも生み出します。しかし、日本ではいまだ多くのブランドが、フィーチャーセリングの枠から抜け出せていないように思えます。

フィーチャーセリングが効果的でない理由は3つあります。まず、消費者が自身の機能的ニーズを自覚していないことが往々にしてあります。製品機能だけでは、享受できるベネフィットを理解することが難しいため、フィーチャーセリングは市場のごく一部に対する訴求力しか持ちません。次に、製品機能は一時的な機能的ニーズは満たしますが、消費者に強い印象与え、長期的な情緒的関係性を築くことには適していません。情緒的関係性がなければ、持続的成長をもたらすブランドロイヤルティを育むことが難しくなります。最後に、製品機能は競合に真似られ、同質化をされてしまう恐れがあります。機能を強みとして訴求する事は、同時に弱点を露呈してしまうことでもあるのです。
消費者の購買意欲を掻き立てるためには、マーケターが売りたいと思う製品の機能ではなく、消費者が求めるベネフィットを伝えなければなりません。ベネフィットは、消費者の視点から得られる状況改善を意味し、製品機能と表裏一体です。製品機能に立脚するベネフィットは、ブランドの定義には欠かせません。
 
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ベネフィットの特定には、活用できる分類法がいくつかあります。フィリップ・コトラーのブランドベネフィットラダーでは、情緒的ベネフィットと社会的ベネフィットが機能のうえに位置しています。デイヴィット・アーカーは情緒と社会に加え、自己表現ベネフィットに言及しています。

情緒的ベネフィット

このブランドを購入 / 使用すると、○○を感じる

製品の購入や使用の際に、ブランドが消費者の気持ちに与える変化が情緒的ベネフィットです。情緒的ベネフィットはより豊かなブランド体験を通じて、消費者に強い印象を残し、ブランドとの長期的な関係構築を可能にします。

社会的ベネフィット

このブランドを購入 / 使用すると、○○とのつながりを感じる

人間は社会的動物として、他人に認められ、集団に帰属することを切望します。ブランドがどのようにして消費者と他者の関係性を改善するのかが社会的ベネフィットです。

自己表現ベネフィット

このブランドを購入 / 使用する私は、○○である

自己表現ベネフィットは消費者の自己概念を強化するものです。ブランドは消費者が自己表現を行う媒介物として、消費者の自己イメージの確認と強化を支援することができるのです。

さらに、スタンフォード大学の心理学教授、B.J. フォッグによる「コアモチベーター」と呼ばれる興味深いモデルがあります。このモデルでは、人間の行動原理を、感覚、帰属、期待という3つの普遍的区分に分類し、各区分には、ポジティブとネガティブな側面が設けてあります。消費者行動の背景にある理由がベネフィットであるため、フォッグの理論もベネフィットの定義に活用できるはずです。

感覚的モチベーター (快楽 / 苦痛)

このブランドを購入 / 使用すると、<快楽>が得られる / <苦痛>が軽減できる

情緒的ベネフィットは認知に基づくものですが、感覚的モチベーターには生理的な欲求に基づきます。衝動的な購買の多くは、実際に一時的快楽を得たり、苦痛を軽減 / 解消するために行われています。

期待的モチベーター (希望 / 不安)

このブランドを購入 / 使用すると、<希望>が持てる / <恐怖>を払拭できる

消費者が購入する商品やサービスのなかには、購買時にその機能を発揮しないものがあり、将来的に何らかの改善につながる期待から購入されています。消費者は、将来への希望や、恐怖や不安の払拭というベネフィットを購入しているのです。

帰属モチベーター (承認 / 疎外)

このブランドを購入 / 使用すると、周りに<承認>される / <疎外>されない

帰属モチベーターは社会的ベネフィットとほぼ同義です。承認欲求と疎外感の回避は、消費者行動のもっとも強力な動機になり得ます。ベネフィットを定義する際には、このような社会的、帰属的側面を考慮するべきでしょう。
 
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上記の分類法を活用し、ベネフィットの定義に役立つ、6つの質問を用意しました:

  1. 消費者はどんな気持ちになりたいのか? どんな気持ちになりたくないのか?
  2. 消費者は誰に認められたいのか? どう見られたいのか? どう見られたくないのか?
  3. 消費者はどんな人物でありたいのか? どんな人物でありたくないのか?
  4. 消費者何に楽しみを感じるのか? 何に不安を感じるのか?
  5. 消費者はどんな快楽を得たいのか? どんな苦痛を解消したいのか?
  6. 製品機能はどのように競合との差別化を実現し、ベネフィットの提供を可能にするのか?

購入時にベネフィットを認識してもらえれば、購入率は上がります。ベネフィットを軸としたコミュニケーションは、「買うときの気持ち」からはじめ、現状へとさかのぼるよう設計しましょう。パーセプションフロー®・モデルに当てはめると、以下のように形になります。最新のテンプレートがCoup Marketingのサイトからダウンロードできるので、ぜひ活用してみてください。
 
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ベネフィットは本質的にフィーチャーを消費者視点の価値に言い換えたものです。しかし、機能的ニーズに限定されず、人の普遍的な欲求を満たすものであるため、市場創造やカテゴリー成長に貢献します。何十年もその効果に疑問持ちながら、フィーチャーセリングの思考に捕らわれている場合ではありません。マーケティングが社会の発展に貢献するためには、私たち一人ひとりが1日も早くベネフィットセリングを習得する必要があるのです。

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※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

※「パーセプションフロー®・モデル」はCoup Marketing Company代表 音部大輔氏考案のマーケティングのマネジメントモデルです。引用の際は、上記クレジットの掲載をお願いします。

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