パーセプションフロー・モデルとは

マーケティングは複雑なチームプレーを要する企業活動であり、個人の能力によって成り立つものではありません。成功のためにはチームの全員が戦略と実行計画を正しく理解し、それぞれの担当領域の効果を改善し続ける必要があります。しかし、多くのマーケティング組織には建設的な連携と軌道修正を可能にする共通言語や活動の全体図が存在しないため、チームとしての能力を発揮できずにいるのです。

パーセプションフロー・モデルとは

パーセプションフロー・モデルは、Coup Marketing Companyの音部大輔氏によって考案されたマーケティング・マネジメントのモデルです。一連の購買行動プロセスを「自然な認識変化の流れ(パーセプションフロー)」として描き、組織的な協働を可能にするマーケティング活動全体の設計図です。その習得と活用により、チームの連携だけでなく、マーケティング計画の早期立案や、規則的な活動の実行管理が可能になります。全体設計に基づいて、個々の活動を規則的に改善できるため、確実にマーケティング効果を向上することができるのです。

右上には合意すべき戦略が明記され、横軸は目的の消費者行動を起点に、パーセプション→知覚刺激→KPI→メディアの順に並んでいます。縦軸となる8つの状態は購買行動に現れない細かいパーセプションの変化を段階的に表しています。段階毎に設定されたKPIはマーケティングROIに基づく施策毎の評価を可能にし、マーケティング全体を通じた仮説検証を実現するのです。

カスタマージャーニーマップとの違い

カスタマージャーニーマップは消費者の過去の行動を示すものであり、ブランドの選定に伴う複雑なパーセプションの変化を捉えることはできません。多くの企業がカスタマージャーニーマップを導入した後に「打ち手がわからない」状況に陥るのはこのためです。現状の消費者行動を描くカスタマージャーニーマップとは対照的に、パーセプションフロー・モデルは、ブランド選定に至るまでの理想的なパーセプションの変化を描きます。未来を描くものであるからこそ、具体的なマーケティングの実行計画を示すことができるのです。

パーセプションフロー・モデルを活用したデータマネジメント

パーセプションフロー・モデルは消費者の行動に伴うパーセプションの変化を計測可能にします。マーケティング活動の効果をクラスターごとに測定し、比較することで、効果の改善に向けた仮説を立案することができます。また、購買行動の段階に適した広告のパーソナライゼーションや、粒度の細かい仮説検証も可能になるため、計画的なトライアル購入やライフタイムバリューの向上を実現することができます。

パーセプションフロー・モデル・テンプレート


FICCはパーセプションフロー・モデルの設計と活用に10年以上の経験を有する日本で唯一のマーケティングエージェンシーです。現在ではCoup Marketing Companyの音部大輔氏とのパートナーシップを通じて、化粧品、飲料、食品、車、日用品、IT、BtoB、金融、保険など様々な業界で活用されてい汎用的なテンプレートの開発を進めています。

パーセプションフロー・モデルを導入する理由

マーケティング組織が機能するためには、一人ひとりが個別の専門家ではなく、チームとして協働するための基盤が必要です。マーケティングに関わる様々な分野において、パーセプションフロー・モデルの導入は専門性の壁を超えた共通言語を確立し、チーム全員の能力を最大限に引き出します。

※ パーセプションフロー・モデルはCoup Marketing Company音部大輔氏考案のマーケティング・マネジメント・モデルです。
※ パーセプションフローモデリングの引用には上記クレジットの掲載をお願いします。

「ブランドパーパス」を本当に機能させるには?

娘がまだ幼いころ、私は彼女の自発的な学びを促すために、絵本を読む代わりに毎晩彼女の質問にひとつ答えることを日課にしていました。「捨てられたゴミはどうなるの?」とか「世界一深い海はどこ?」といったことを娘は尋ねてきて、一緒にWikipediaやYouTubeで答えを探していたのです。7歳になったときに娘は、「生きていることに意味はあるの?」と聞いてきました。その頃、彼女は宇宙に関する本を読んでいて、宇宙全体から見る人間の存在はとても小さく、意味を持てるようなものではない、と主張しました。正直、この質問にはどう答えてよいかわかりませんでした。かといって、質問自体に意味がないとはねつけることもできません。その晩、私たちは満足する答えを見つけるまで検索を続け、ヴィクトール・フランクルの「人生の意味とは、人生に意味を与えることだ」という名言にたどり着いたのです。

幼い子供と同じように、私たちは誰もが生きることに意味を求め、自身が存在する目的を理解しようとします。存在目的(パーパス)があれば目標があり、目標を実現することで、私たちは存在意義を感じることができるからです。「ブランドパーパス」とうコンセプトが急速に世界的なマーケティングのトレンドになっているのも、これが理由かもしれません。消費者が意義を感じるブランドの活動を通じて、ビジネスの成長を約束するブランドパーパスは、実際に効果があるか否かにかかわらず、マーケティングという私たちの仕事に意義を感じさせてくれるものなのです。

このトレンドは、企業の責任と社会貢献の意識を高めました。しかし、同時に社会問題の解決を訴えて製品の販売を試みる、多くの無計画なパーパスキャンペーンも生み出しました。このような一時的なキャンペーンはビジネスにも、社会の役にも立たず、ブランドやマーケティング業界への不信を煽るだけです。ブランドパーパスは必ずしも社会問題の解決に関わるものではありません。啓発された自己利益という考えに基づき、すべてのブランドが持てる、ビジネスを通じて人の生活をより良いものにするという目的なのです。

ブランドパーパスはポジティブなトレンドであるはずです。しかし、このままではむしろ有害無益なものとなる可能性もあり、ほとんどのブランドはそのビジネスと社会的な意義の関係性を見い出せないままになるでしょう。これは、非常に残念なことだと思います。では、どうすればブランドパーパスを本当に機能させることができるでしょうか?

行動の変化

あらゆるマーケティング活動は、消費者の行動を変えることを目的とします。しかし、他者の行動をコントロールすることは不可能であり、影響を及ぼすことしかできません。そのため、マーケティングでは行動の自主的な変化を促すためにコミュニケーションを利用するのです。


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人の行動はすべて、なんらかの刺激への反応です。ただし、人間である以上、私たちは反応の仕方を選択することができます。人にはものごとがどうあるべきかという信念、すなわち自分の「価値観」に基づいて行動する能力が備わっています。そのため、行動の変化を促すマーケティングコミュニケーションにはふたつの役割が考えられます。ひとつは消費者の価値観に沿う行動の後押しをすること。もうひとつは消費者の価値観に反する行動を誘引することです。

パーセプションの変化

私たちが自分の価値観に従って行動するか否かは、自分自身と周囲の世界をどう見るかというパーセプション(認識)によって決定されます。たとえば、ひとりの行動では環境に大きな影響を及ぼさないと考えている人が、環境保護のために積極的な行動を取る可能性はほとんどありません。それどころか、環境保護のために自分の時間や利便性を犠牲にする人々の行動を愚かだと思うかもしれません。しかし、もちろん自分の行動に影響力があると考えるなら、違う思考と行動を取るはずです。

いかなる状況においても、人には自分の行動を選択する能力があります。その選択は周囲の人々に大きな影響を及ぼし、自身の幸せを左右します。能力と影響に対するパーセプションを変えることで、人の生活をより良くする、価値観に沿った行動に後押しすることができるはずです。では、どうすればこのようなパーセプションを変えることができるでしょうか?


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※パーセプションフロー・モデルの構成要素の一部

パーセプションフロー・モデルでは、「知覚刺激」がパーセプションを変える原因とされます。耳慣れない用語で、多くの人には理解しにくい概念かもしれませんが、効果的なマーケティングコミュニケーションの重要な要素です。知覚刺激の概念を理解するにはまず、記憶のメカニズムについて考える必要があります。

記憶とストーリー

人類は歴史を通じて、思想や価値観を他者の心に植え付けるためにストーリーを利用してきました。マーケティングの分野では、ストーリーは製品の特製、消費者にもたらされるベネフィットや、ブランドパーパスの説明にも使われます。しかし、最近の研究では、ストーリーは効果的な人間のコミュニケーションのための手段であるだけでなく、脳が経験を認識し、記憶を形成するための手段であるともいわれ、この考え方は「ナラティブ仮説」と呼ばれ、自動翻訳やバーチャルアシスタントの開発を可能にする計算言語学の研究にも採用されています。

問題の解決策に突然気付いたときに、私たちは「アハ体験」と呼ばれる感情的な反応を経験します。新しい気付きが引き金となり、脳内報酬系が強烈な快感を引き起こす化学物質を放出するのです。私たちの脳は、物事の関係性をそのような快感を得る機会として認識し、絶えず何かのパターンの認識を求めることになります。人がストーリーに注目してしまうのは、ストーリーが新たな気づきの経験を可能にする情報のパターンであるためです。


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ストーリー(正確には「ナラティブ」)は、一連の出来事を表し、その因果関係を示唆する情報の構造です。出来事の因果関係を発見したときに、その情報はストーリーの構造を持つ「エピソード記憶」として、私たちの長期記憶に格納されます。ストーリーの構造に至らない情報は、短期記憶とした処理され、忘れ去られます。同じようなエピソード記憶が蓄積されると、脳はそのパターンを認識し、一般的な法則や知識を抽出して、「意味記憶」と呼ばれる別の種類の長期記憶を形成します。これは私たちの習慣的な行動を決定するものです。


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知覚刺激とは、物事の因果関係を示唆することで、その理解を要求する情報のパターンです。新たな発見や気付きを引き起こし、その結果として消費者の認識と行動に影響を及ぼす長期記憶を形成します。示された情報の関係に自ら気づくことで、人はそれを自分自身の考えだと思い込み、パーセプションの変化が起きるのです。

この記憶のメカニズムを通じて、私たちは自律的に知識を獲得し、学習しています。しかし、あらゆるシステムと同様に、このメカニズムも完璧なものではなく、欠陥や脆弱性が含まれています。まず、脳はストーリーの真偽を区別することなく、報酬型を活性化させます。さらに、その快感はあまりに強力であり、生理的欲求の認識を含む認知活動の一部を無効化してしまいます。これらの欠陥により、人はストーリーに対してきわめて無防備になります。新たな気付きを体験したいがために無条件に注目をしてしまい、嘘や非現実的な結論を自ら信じ込んでしまうのです。

マーケティングにおける優れたストーリーは消費者の心を捉えて、注目をブランドのベネフィットに集中させ、製品やサービスの欠点が考慮される可能性を減らします。しかし、優れたストーリーは消費者に自身の価値観に反する行動を強く促すこともできるため、ブランドは十分にその責任を認識しなければなりません。

効果的なストーリー

ストーリーは私たちの認識と行動に影響を及ぼしますが、すべてのストーリーが強い影響力を有するわけではありません。遠い過去の出来事を長期間にわたって詳細に思い出すことができても、最近の出来事は思い出すことができないかもしれません。記憶の持続力は私たちが経験する感情の高ぶりの度合いによって決まるといわれており、その関係は逆U字の形のグラフで表すことができます。感情の高ぶりが弱い経験はもちろん忘れられますが、逆に感情の高ぶりが強すぎるトラウマ経験もまた忘れられます。これは精神に破壊的な影響をもたらす心的外傷を防ぐ「解離性認知症」と呼ばれる脳の自己防衛メカニズムだとされています。


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ストーリーは私たちに、そのようなトラウマ経験のリスクなしにさまざまな出来事を体験させてくれます。優れたストーリーのすべてに、その克服に悪戦苦闘する主人公の姿に誰もが共感できる問題が組み入れられているのはそのためです。ストーリーで描かれる問題が大きいほど、記憶の持続力が高まるのです。

ある専門家は、ストーリーは人が将来的な問題を回避し、解決法を学ぶためのバーチャル体験であると主張しています。ストーリーがより優れた行動を学習し、選択するための方法であるという考え方は、ナラティブ仮説を支持するもので、私たちの脳がこれほど強くストーリーを求めることも説明できます。

人は自分との関係を有する登場人物や状況に共感します。効果的なストーリーは、その共感を通じて私たちの理解と感情を高め、記憶の形成を助けます。さらに、日常的な出来事から記憶が頻繁に想起されるきっかけを作るのです。そのうえで、私たちはストーリーを通じて、社会のなかで適切に行動する方法を学ぶため、道徳性や社会規範の観点からも共感を求めます。道徳的葛藤(モラルジレンマ)や倫理的境界線の体験は感情の高ぶりを促す有効な手段です。しかし、道徳的にまったく受け入れられないストーリーには有用性がなく、共感されることはありません。


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ストーリーの効果を高めるもうひとつの要素は、変化です。変化は私たちに物事の関係性を認識させ、心のなかに具体的なイメージを描きます。変化は私たちに強い印象を与え、想起しやすく、持続力のある記憶を形成します。関係の変化は、時間(複数の事象間の絶対的ないし相対的な時間的関係)、因果関係(複数の事象間の条件と結果)、位置(対象物と事象の絶対的ないし相対的な空間的関係)、作用(対象物どうしの行動と反応)の四種類に分類することができます。マーケターはコミュニケーションにこれらの変化を用いることで、消費者の心にイメージを描き、強い印象与えることができます。

購買行動の促進

どんなに効果的ストーリーでブランドパーパスを伝えても、それだけでビジネスが成長することはありません。ブランドパーパスはブランド選択や価格正当化に寄与するとされていますが、これは自分の価値観に基づいて購入する消費者に限定されます。ブランドが高品質の製品やサービスを競争力のある価格で提供し、消費者にとって価値あるベネフィットを伝え、積極的にセールスプロモーションを実施しなければならないことに変わりはありません。

消費者の購買行動を駆り立てて、持続的なビジネス成長を達成するには、ブランドコミュニケーションと一貫するセールスプロモーションが必要です。両方に活用できるストーリーやアイデアを見つけ出すことは現代の多くのマーケターが抱える課題ではないでしょうか。

大規模な行動の変化を促すには、ブランドは社会規範として受け入れられつつあり、ティッピングポイントに近い価値観に着目すべきです。そのような価値観は、大半の人が同意できるトピックの下に隠されています。例えば、地球温暖化に対する真剣な取り組みが必要であることには、ほぼすべての人が同意できることでしょう。しかし、そのために自らの時間、金銭、利便性を犠牲にし、積極的な行動にコミットする人はごくわずかです。私たちは地球温暖化を問題視していても、本音ではひとりの人間の行動では何も変わらないと信じているのかもしれません。大義にコミットする少数の価値観を推進することで、ブランドは大衆にポジティブな行動の変化を促すことができます。さらに、購入や消費がこれらの価値観に沿うものであれば、購買行動につながるのです。

プロモーションは、消費者が求めるユニークで、新しい体験の提供を通じてその効果を発揮します。しかし、その役割は消費者の購買意欲を直接刺激することだけではありません。営業組織や小売企業のやる気をかき立てて、販売を促進するシナジー効果を起こすこともプロモーションの重要な役割です。プロモーションの直接的な効果だけでなく、商品の露出や消費者接点を増やすことがトライアルとリピート購入の増加につながるのです。

ブランドの誠実性

パーセプションフロー・モデルやストーリーテリングなど、マーケティングコミュニケーションの技術的な知識は間違いなく有益です。状況によっては成功に欠かせない要素でもあります。しかし、どのようなコミュニケーションもその主張に即した行動、すなわち誠実性が根底になければ相手との信頼関係は築けず、欺瞞として受け取られます。誠実性こそが、ブランドと消費者との関係を含む、すべての信頼関係の原点であり、人間のコミュニケーションの基盤なのです。そのため、ブランドパーパスはブランドが過去の行動から一貫してそれを体現していない限り、消費者に受け入れられることはありません。現代の消費者は不誠実なコミュニケーションを簡単に見破ります。

消費者に意義のある行動を促し、購買行動駆り立てるブランドは、ブランドパーパスを主張するだけでなく、その価値観に即した行動を徹底する必要があります。これはブランドの組織だけでなく、組織内の個人にも当てはまります。組織の誠実性は個人の行動の総和です。ブランド組織と個人の両方に深く根ざしていないなら、ブランドパーパスはどこかの時点で必ず嘘になるのです。


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私はこれまで、職業人生の大半をマーケティングコミュニケーションにおける技術的な知識の開発に費やしてきました。しかし、どのようなコミュニケーションの技術やノウハウがあったとしても、その根底に意義と誠実性がなければいずれ無益なものになるはずです。しばらくは一歩退いて、自分自身の意義の追求と誠実性の開発に集中し、それがビジネスに及ぼす影響を観察したいと思います。人がコントロールできる唯一のものが自身の行動であれば、意義あることの達成もまた、自分の行動からはじめなければならないのだと思います。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

データドリブンマーケティングの「ロードマップ」の作り方:企業のデジタル推進を実現するために

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データドリブンマーケティングの利点は明らかです。 データに基づく軌道修正と改善は、マーケティングチームが成果にコミットできる唯一の実践的な方法です。また、測定可能な仮説と適切なデータ分析に基づくマーケティングの意思決定は、ブランドの持続的な成長を可能にするものです。

マーケティングは統計学に裏打ちされた科学的分野であり、その活動はそもそもデータドリブンであるべきです。相手の反応を定量的に記録し、改善に活かす「インタラクティブマーケティング」の概念は、90年以上も前に、クロード・ホプキンスの『科学的広告法』(1923)によって確立済みです。いまになって、あらためてマーケティングにデータの活用が求められる背景には、計測可能な項目やデータ量の爆発的な増加に、私たちのマーケティングが対応できていない現状があります。現代市場において有効なデータドリブンマーケティングを実行するためには、闇雲にデータを収集する前に、そのプロセスを見直すべきでしょう。

多くのデータを収集し、統合し、分析すれば、意思決定に役立つヒントが得られるという考え方は間違っています。少なくとも、ひと握りの世界的なIT企業以外に、十分なデータ量や分析技術の獲得は現実的ではありません。一般企業が闇雲にデータを収集しても、手元にある断片的な情報から、有効なマーケティングの意思決定を行うことはできないでしょう。

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データに基づく意思決定は、目的、仮説、そして実行・検証方法の定義による事前設計が必要です。データやテクノロジーは、明確な方向性があってこそ、マーケティング効果の改善に役立てることができます。持続的かつスケール可能なデータドリブンマーケティングの実現には、正しいプロセスを示すロードマップと、規律を持った実行が欠かせません。

①目的

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ビジョン・ミッション
組織のなかでデータドリブンマーケティングの推進を担うのは、主に複数のブランドやマーケティング機能を横断する部署です。しかし、そもそもデータドリブンマーケティングに取り組む目的が明示されていなければ、ブランドやマーケティング機能を担当するチームとの衝突が発生し、推進が困難になります。会社組織の目的と合致するビジョンと、その達成方法(ミッション)を定義する指標がなければ、横断部署によるデータドリブンマーケティングの推進は見込めません。

マーケティング戦略
戦略は、目的の達成に向けた資源活用の指針であり、目的や資源に変更がなければ変えるべきではありません。施策の結果がマーケティング戦略に影響を与えないことはありませんが、しっかりとした現状分析に基づくマーケティング戦略であれば、大きな変更を行う必要はないはずです。また、データドリブンマーケティングを推進する部署にとって、マーケティング戦略は他部署によって定められるものであるはずです。そのため、上記のロードマップではマーケティング戦略を「目的」の段階に含めています。

プロジェクト目的
すべてのマーケティング活動の目的は、高いマーケティングROIの実現です。データドリブンマーケティングは、高いROIの実現のために意思決定の速度と精度を改善します。デジタル施策がROIに直接的な影響を及ぼすダイレクトレスポンスなどの分野では、デジタル単体での部分最適でも十分な成果が見込めます。しかし、それだけではROIの改善に大きく貢献できないカテゴリーも多く存在します。この場合、デジタル施策から得られたラーニングを資源とし、より大きな影響を及ぼす施策へのフィードバックを行うことが有効です。データドリブンマーケティングのプロジェクトは施策単体ではなく、他施策へのフィードバックを通じたROIの改善を目的とすることで、マーケティング組織全体に貢献することができます。

②仮説

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パーセプションフロー・モデル
ROIの持続的な改善には、マーケティング施策の仮説検証を繰り返し行う必要があります。マーケティング全体の詳細な設計図がなければ、仮説検証の粒度は荒くなり、精度は低くなってしまいます。消費者の認識変化を軸とし、マーケティングの全体像を描くパーセプションフロー・モデルを用いれば、データドリブンマーケティングに必要な仮説を網羅することができるのです。

③計画

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検証方法
マーケティング施策のROIには、さまざまな影響要因が存在します。メッセージ、クリエイティブ、ターゲティング、メディアなど、それぞれの影響を個別に検証しなければ、成功・失敗要因を特定することはできません。影響要因と該当する指標を分解し、評価方法を定めることで、収集すべきデータを定めることができます。

データ収集
どんなにたくさんのデータを保有しても、有益な意思決定につながらなければ無意味です。マーケティングの仮説と、正確な検証方法があってこそ、私たちはデータから価値を抽出することができます。デジタル施策はユーザーの行動に基づく細かい効果検証が可能ではありますが、マーケティングの意思決定がすべて行動データから取得できる訳ではありません。しかし、現在では個体識別を通じて、ユーザーの行動と調査データなどを掛け合わせることが可能です。データ収集の設計次第では、個別の広告視聴などの行動と、態度変容やオフラインの購買行動などとの直接的な因果関係を検証することができます。

企画・プランニング
検証方法とデータ収集の目処が付けば、具体的な施策のプランニングを開始することができます。言い換えれば、この段階までできていなければ、個別の施策を担当するエージェンシーにブリーフィングをすることはできません。検証すべきコミュニケーションをもとに、コンテンツやクリエイティブを企画し、適切なデータ収集が可能なメディアや媒体を選定します。さらに、目的を達成し、検証に十分なデータ量が確保できるよう、予算の配分を行います。

④実行

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実装、配信・運用
実行段階では、デジタル広告やコンテンツなどから正しくデータを収集するための実装と、配信・運用作業があります。これらの段階が正確に実行されなければ、調査パネルなどとのデータ連携や、評価方法に基づく分析が行えなくなります。マーケター自らが行う工程ではありませんが、データ収集における技術的制約を理解することは計画立案にも役立ち、決して無駄なことではありません。

データ分析
分析の段階では、データから意思決定に役立つ情報を抽出します。施策の実行から得られたデータを、さまざまな角度から分析することは可能ですが、プロジェクトがその分析を目的に設計されていなければ、データが十分であっても意味のある結論が導き出せるとは限りません。この段階では、新たにデータの活用方法を考えるのではなく、計画に定められたROIの影響要因と評価方法を活用し、将来再現すべき成功や、防止すべき失敗を導き出すのです。データ分析は事前の設計に従わなければ、精度と効率を維持することはできません。

⑤改善・レビュー

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ラーニング
マーケティング組織の強さは、ラーニングの数に比例します。優秀さとは、学習効率の高さであり、ひとつの事象からたくさんのラーニングが得られている状態を指します。しかし、重要な意思決定に役立たない情報は、ラーニングであるとは言えません。事前に定められた目的に沿って、仮説検証を行うことでマーケティングROIの改善に役立つラーニングが得られます。

フィードバック
得られたラーニングを活用できなければ、マーケティングROIの改善を実現することはできません。ラーニングをほかのメディアや施策で活用できるよう汎用化し、プロジェクト目的で定めたフィードバック先へと適用します。

プロセス改善
すべてのプロジェクトにはミスが付き物です。想定外の成功を含むミスは、人的なものではなく、プロセスの不備が原因です。理想的な実行とは、ミスを一度も犯さないことではなく、同じミスを二度と犯さないことです。プロジェクト終了時のレビューではミスの原因を特定し、プロセスの改善策を組織全体に周知します。

目的から整然と設計されたデータドリブンマーケティングは、将来あるべき姿を見据えて、マーケティング組織を前進させます。データの正しい活用は、過去を検証するだけでなく、私たちに未来を形作る術を与えてくれるのです。いままでに、多くの企業がデジタル推進を掲げ、デジタルマーケティングに特化した部署を立ち上げてきました。しかし、その多くはいまだ大きくマーケティングROIに貢献することができず、その存在意義を問われ続けています。デジタルマーケティングの本質的な価値は、デジタルメディアを通じた消費者との接触ではなく、消費者の反応を収集・記録する「インタラクティブ性」にあります。いま、デジタル担当部署に求められるのは、マーケティング全体のROI改善に役立つ、データドリブンマーケティングの体制を確立することではないでしょうか。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

「消費者ベネフィット」の定義に役立つ、6つの質問:ベネフィットセリング習得の第一歩

80年代以降、製品機能を中心としたマーケティングコミュニケーションは、効果的ではないとされてきました。「フィーチャーセリング」呼ばれるこの手法は、市場規模や顧客関係に制約をもたらし、ブランドの脆弱性をも生み出します。しかし、日本ではいまだ多くのブランドが、フィーチャーセリングの枠から抜け出せていないように思えます。

フィーチャーセリングが効果的でない理由は3つあります。まず、消費者が自身の機能的ニーズを自覚していないことが往々にしてあります。製品機能だけでは、享受できるベネフィットを理解することが難しいため、フィーチャーセリングは市場のごく一部に対する訴求力しか持ちません。次に、製品機能は一時的な機能的ニーズは満たしますが、消費者に強い印象与え、長期的な情緒的関係性を築くことには適していません。情緒的関係性がなければ、持続的成長をもたらすブランドロイヤルティを育むことが難しくなります。最後に、製品機能は競合に真似られ、同質化をされてしまう恐れがあります。機能を強みとして訴求する事は、同時に弱点を露呈してしまうことでもあるのです。
消費者の購買意欲を掻き立てるためには、マーケターが売りたいと思う製品の機能ではなく、消費者が求めるベネフィットを伝えなければなりません。ベネフィットは、消費者の視点から得られる状況改善を意味し、製品機能と表裏一体です。製品機能に立脚するベネフィットは、ブランドの定義には欠かせません。
 
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ベネフィットの特定には、活用できる分類法がいくつかあります。フィリップ・コトラーのブランドベネフィットラダーでは、情緒的ベネフィットと社会的ベネフィットが機能のうえに位置しています。デイヴィット・アーカーは情緒と社会に加え、自己表現ベネフィットに言及しています。

情緒的ベネフィット

このブランドを購入 / 使用すると、○○を感じる

製品の購入や使用の際に、ブランドが消費者の気持ちに与える変化が情緒的ベネフィットです。情緒的ベネフィットはより豊かなブランド体験を通じて、消費者に強い印象を残し、ブランドとの長期的な関係構築を可能にします。

社会的ベネフィット

このブランドを購入 / 使用すると、○○とのつながりを感じる

人間は社会的動物として、他人に認められ、集団に帰属することを切望します。ブランドがどのようにして消費者と他者の関係性を改善するのかが社会的ベネフィットです。

自己表現ベネフィット

このブランドを購入 / 使用する私は、○○である

自己表現ベネフィットは消費者の自己概念を強化するものです。ブランドは消費者が自己表現を行う媒介物として、消費者の自己イメージの確認と強化を支援することができるのです。

さらに、スタンフォード大学の心理学教授、B.J. フォッグによる「コアモチベーター」と呼ばれる興味深いモデルがあります。このモデルでは、人間の行動原理を、感覚、帰属、期待という3つの普遍的区分に分類し、各区分には、ポジティブとネガティブな側面が設けてあります。消費者行動の背景にある理由がベネフィットであるため、フォッグの理論もベネフィットの定義に活用できるはずです。

感覚的モチベーター (快楽 / 苦痛)

このブランドを購入 / 使用すると、<快楽>が得られる / <苦痛>が軽減できる

情緒的ベネフィットは認知に基づくものですが、感覚的モチベーターには生理的な欲求に基づきます。衝動的な購買の多くは、実際に一時的快楽を得たり、苦痛を軽減 / 解消するために行われています。

期待的モチベーター (希望 / 不安)

このブランドを購入 / 使用すると、<希望>が持てる / <恐怖>を払拭できる

消費者が購入する商品やサービスのなかには、購買時にその機能を発揮しないものがあり、将来的に何らかの改善につながる期待から購入されています。消費者は、将来への希望や、恐怖や不安の払拭というベネフィットを購入しているのです。

帰属モチベーター (承認 / 疎外)

このブランドを購入 / 使用すると、周りに<承認>される / <疎外>されない

帰属モチベーターは社会的ベネフィットとほぼ同義です。承認欲求と疎外感の回避は、消費者行動のもっとも強力な動機になり得ます。ベネフィットを定義する際には、このような社会的、帰属的側面を考慮するべきでしょう。
 
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上記の分類法を活用し、ベネフィットの定義に役立つ、6つの質問を用意しました:

  1. 消費者はどんな気持ちになりたいのか? どんな気持ちになりたくないのか?
  2. 消費者は誰に認められたいのか? どう見られたいのか? どう見られたくないのか?
  3. 消費者はどんな人物でありたいのか? どんな人物でありたくないのか?
  4. 消費者何に楽しみを感じるのか? 何に不安を感じるのか?
  5. 消費者はどんな快楽を得たいのか? どんな苦痛を解消したいのか?
  6. 製品機能はどのように競合との差別化を実現し、ベネフィットの提供を可能にするのか?

購入時にベネフィットを認識してもらえれば、購入率は上がります。ベネフィットを軸としたコミュニケーションは、「買うときの気持ち」からはじめ、現状へとさかのぼるよう設計しましょう。パーセプションフローモデルに当てはめると、以下のように形になります。最新のテンプレートがCoup Marketingのサイトからダウンロードできるので、ぜひ活用してみてください。
 
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ベネフィットは本質的にフィーチャーを消費者視点の価値に言い換えたものです。しかし、機能的ニーズに限定されず、人の普遍的な欲求を満たすものであるため、市場創造やカテゴリー成長に貢献します。何十年もその効果に疑問持ちながら、フィーチャーセリングの思考に捕らわれている場合ではありません。マーケティングが社会の発展に貢献するためには、私たち一人ひとりが1日も早くベネフィットセリングを習得する必要があるのです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

データドリブンIMC:主観的なマーケティング管理からの脱却と、継続的な成長の実現

私たちマーケティング実務者の仕事は、上司やクライアントなどの管理者を満足させることではありません。曖昧なブリーフやフィードバックは、仕事量の肥大化と、士気の低下を招きます。マーケティングの機能不全は、決して実務者の能力不足ではなく、主観的なマーケティング管理に起因しているのです。組織の強化を望むマーケティング管理者は、まず自らの管理手法を見直すべきではないでしょうか。

ブリーフ、フィードバック、レビュー

マーケティング管理業務は、目的を明確化するブリーフ、ブリーフと提案内容の整合性を確認するフィードバック、そして業務プロセスを改善するためのレビューに分類されます。継続的なブランドや事業の成長に欠かせないこれらの業務には、客観性が求められ、管理者の個人的な主観が入る余地はありません。

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管理者と実務者の協働には、目的の明確化と共通理解が欠かせません。良いブリーフは、目的に対する解釈の余地をなくし、客観的なフィードバックやレビューを可能にします。ブリーフにはさまざまなフォーマットがありますが、マーケティング目的の曖昧性をなくすためには5つの要素を含めると良いでしょう。ターゲットの属性、起こしたい態度変容、態度変容を起こす知覚刺激、成果指標と目標値、そして、予算と時間の制限です。

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これらの要素が定義されていれば、(検証すべき仮説を含む)提案に対する客観的なフィードバックが可能になります。そもそもフィードバックとは、ブリーフと提案内容の整合性を確認し、相違点を実務者に伝え戻す作業です。管理者の個人的な意見や好みを述べることではなく、目前の仕事に熱中する実務者が大局的な目的を見失わないために、客観的な視点を提供することなのです。

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マーケティング管理の目的は、継続的な事業の成長を実現することです。そのためには、業務プロセスの改善を可能にする実行施策のレビューが欠かせません。レビューを業務プロセスの改善に役立てるためには、効果測定と目標達成度の評価だけでなく、仮説検証によるラーニング、成功要因の分析による再現方法、そして失敗要因の分析による防止・回避方法の確立が必要となります。

主観的判断や属人性な業務プロセスは、マーケティングの再現性を阻み、成長に向けた管理を困難にします。実務者の能力に依存した成功や失敗は、管理手法の不備であり、再現方法や防止・回避方法を必要としているのです。米空軍に採用されているSTEALTHデブリーフィングという手法では、チーム全員が階級や個人としての主観を捨て、プロセスの不備と改善方法を議論することで、将来のミッションを成功に導く業務プロセスを構築することができるのです。

組織全体の連携を実現するIMCプラン

客観的なブリーフ、フィードバック、レビューが行われても、そのプロセスが施策ごとに分断されていては、部分最適に陥ってしまいます。マーケティングの全体像と施策間の関連性を描くIMC(Integrated Marketing Communications:統合型マーケティング・コミュニケーション)プランがなければ、組織全体の連携を実現することはできません。上記のブリーフに含まれるマーケティング目的の要素を、態度変容の流れを描く※パーセプションフローを用いて、購買行動の段階ごとに定義すれば、IMCプランの骨子が出来上がります。

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※パーセプションフロー:Coup Marketing Company 音部大輔氏考案のフレームワーク

しかし、自然な態度変容の流れを描き、段階ごとのマーケティング目的を定義することは決して簡単な作業ではありません。主観的に描かれたIMCプランは、主観的なマーケティング管理と同様、機能することはないのです。精度の高いIMCプランを作成するためには、既存顧客が購入に至った態度変容プロセスの分析が欠かせません。

消費者データからIMCプランの逆行分析を行う「データドリブンIMC」では、実在する態度変容プロセスからマーケティングの全体像を可視化します。自然発生している態度変容をマーケティングコミュニケーションで再現できるよう改良を加えれば、短期間でIMCプランの作成が可能になります。

目的を明確化するブリーフ、ブリーフと提案内容の整合性を確認するフィードバック、業務プロセスを改善するレビュー、そして、組織全体の連携を実現するIMCプラン。これらの客観的なマーケティング管理業務の実行により、組織全体に責任と規律が生まれ、継続的な改善を重視する文化が根付きます。マーケティング管理者は、組織の継続的な成長の実現に向けて、直ちに主観的な管理手法を見直すべきなのです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

そのカスタマージャーニーマップは、なぜ機能しないのか?:有効性の高いCJMの作り方

カスタマージャーニーマップ(CJM)は、無形のサービスをデザインするために、IDEO社が1990年に開発したフレームワークです。サービスに関わる一連の顧客体験(CX)を可視化し、改善箇所を特定するその手法は、マーケティングコミュニケーションの設計と管理にも応用されています。情報過多な現代の生活者に、さまざまなメディアで一貫性のあるCXを提供する統合型マーケティング(IMC)や、その効果を定量的に検証し、改善し続けるデータドリブンマーケティングには、もはやCJMの活用は欠かせません。

マーケティング従事者にCJMの重要性を問う必要はないでしょう。では、その有効性はどうでしょうか? CJMのマーケティング活用が進むアメリカでも、2016年時点の調査では、CJMが収益成長に貢献していると答えたマーケターはわずか5%に留まりました。これほど重視されている手法でありながら、CJMは何故成果を出せないのでしょうか? 元P&Gの音部大輔氏は、有効性の低いCJMを「飛行機の絵」にたとえて説明します。

飛ばない飛行機の絵

機体や翼、エンジンなどの部品を相対的に配置すれば、誰にでも飛行機の絵は描けます。しかし、その絵から飛行機を再現しても、決して飛ぶことはありません。マーケターが主張したい内容を、AIDMAなどの規定の枠に書き込めば、CJMらしいものは出来上がります。しかし、所詮「飛ばない飛行機の絵」のように描かれたCJMからは、効果的なマーケティングコミュニケーションが再現されることはありません。マーケティングに有効なCJMを作るためには、実在する態度変容プロセスにフォーカスしなければなりません。

態度変容を軸としたCJM

CJMの本来の目的は、顧客の体験を理解・管理することです。しかし、マーケティングは市場の認識を理解・管理することであり、その活動は主にメディアを介して行われるため、直接的に反応を得ることは容易ではありません。マーケティングに有効なCJMは顧客の体験ではなく、見込客の態度変容プロセスと、その要因となる知覚刺激を表さなければなりません。

音部氏によって考案され、FICCが推奨するパーセプションフロー・モデルは、見込み客がリピート購入や推奨に至るまでの態度変容プロセスを、要因となる知覚刺激とともに可視化します。また、パーセプションフロー・モデルはAIDMAやAISASのような、認知から購入という限定的な枠組みではなく、現状から目的達成までの生活者の認識を描き、その理解と管理を可能にします。

実在する購買行動の描写

マーケティングに対するCJMの有効性が低いもうひとつの理由は、その多くが空想の産物であることです。自らの力でカスタマージャーニーを制御できると勘違いするマーケターは、理想像を描こうとします。しかし、生活者の購買行動はマーケティング施策以外にも無数の知覚刺激に影響されるため、主観で描かれたCJMを再現することはほぼ不可能なのです。

しかし、実在する態度変容プロセスに基づくカスタマージャーニーであれば、マーケティングコミュニケーションで再現できる可能性があります。カスタマージャーニーは発見するものであり、決してマーケターが創り出すものではありません。

マーケターは、生活者が購入やブランドスイッチに至ったプロセスを再現し、スケールさせれば良いのです。そのためには、いろいろな調査データのツギハギではなく、シングルソースのデータから、個々の完全なジャーニー把握する必要があります。しかし、これも決して容易なことではありません。カスタマージャーニーには、同じものはふたつとなく、百人百通りのものが存在するのです。

コレクシア社が提供するカスタマージャーニーの調査ソリューションは、独自のアンケート手法を用いて100名ほどの態度変容プロセス含むCJMを個別に生成します。それらの共通点と相違点を分析し、ひとつのドキュメントに集約すれば、異なる段階構造や態度変容プロセスを網羅するCJMが出来上がります。

実在する態度変容プロセスを網羅的に俯瞰できるマップがあれば、粒度の細かい効果測定とマーケティングコミュニケーションの微調整が可能になります。四半期ごとにマーケティングプランを作り直す必要はなくなり、リソースを戦略的な市場拡大や、顧客生涯価値(LTV)の向上に充てることができるはずです。そして、継続的な運用を通じて、CJMはその有効性を次第に発揮するようになります。

実在するカスタマージャーニーの網羅的な調査から、異なる段階構造や態度変容プロセスを俯瞰するCJMを作成したあとは、定量調査でコミュニケーションの優先順位を決めます。マーケティング施策を実施したあと、マーケティング施策との接触を示す行動データを収集し、ブランドリフト調査から態度変容の有無を確認します。これでマーケティング予算を効果的なジャーニーに集中的に投資し、効果の低いコミュニケーションの内容を改善することができるようになります。精度と網羅性の高いカスタマージャーニーの仮説を、繰り返し検証することではじめて、私たちは飛行機の絵ではなく、空を飛ぶための図面を手に入れることができるのです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

デジタルマーケティングの「本質」とは何か?:求められるデータドリブンな側面の理解

デジタルマーケティングは、「デジタルメディアを通じたマーケティング」ではありません。デジタルメディアのインタラクティブ性(反応を収集し、記録する特性)を活かした、「数値化されたデータに基づくマーケティング」と定義すべきです。ターゲティング精度が高く、粒度の細かいコミュニケーションが可能なデジタルマーケティングでは、データに基づく継続的な軌道修正と改善が効果的です。しかし、多くの広告主は、いまだこのデジタルマーケティングのデータドリブン的な側面の理解に至っていません。

インタラクティブ性と、高精度なターゲティングは、特定ターゲットの広告反応を計測可能にします。得られた反応データをもとに、コミュニケーション設計やメディア運用を改善すれば、継続的なマーケティング効果・効率の向上が見込めます。いまや、この考え方はダイレクトレスポンスだけでなく、ブランドマーケティングにも適用できます。しかし、パフォーマンスの向上に役立つデータを得るためにはまず、マーケティング施策を得たいデータに合わせて設計しなければなりません。

オーディエンスの分類

データ取得が可能な属性(年齢や興味など)によって、オーディエンスを分類することで、マーケターはターゲットごとの反応に意味を見い出せるようになります。もしターゲットが分けられていなければ、得られる反応データはひとつの無意味な塊となり、属性ごとの違いが見えません。何人が目的を達成したか、ということだけがわかり、それがどのような人物であるかを知る事ができないのです。ターゲットを広く設定することは構いません。ただ、その反応データは必ず属性ごとに収集し、分析可能にすべきです。

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コミュニケーションの設計

デジタルマーケティングの利点は、粒度の細かいコミュニケーションが可能なことです。元P&Gの音部大輔氏が考案した”パーセプションフロー・モデル”という手法を使えば、生活者が購入に至るまでの段階的な態度変容と、必要な刺激からコミュニケーションを設計できます。そして、DAGMAR(広告効果測定のための広告目標の定義)という広告効果管理のアプローチを採用すれば、段階ごとの広告接触と、その態度変容効果の測定が行えるのです。

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ターゲットのニーズが異なれば、フローも分岐されます。しかし、フローの分岐は実施と管理の工数を肥大化させるため、最小限に抑えましょう(画像クリックで拡大)。

広告の反応データは、さまざまな方法で収集することができます。しかし、マーケターはデータを収集をする前に、その意味を正しく理解しなければなりません。動画視聴、ページビュー、スクロール深度、クリックなどの行動データは、広告との接触や、接触時の反射的行動を計測しています。心理的な反応を計測し、態度変容や購買行動の有無を確認するためには、ブランドリフトサーベイと呼ばれる、アンケート調査が必要となります。行動データとサーベイデータが互いを代替することはなく、広告接触と心理効果の関係を理解するために補完し合わなければならないのです。

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マーケティング活動へのフィードバック

リアルタイムな行動データと、定期的なサーベイデータの分析は、マーケティング活動にフィードバックすることができます。オーディエンスのなかから購入に至り易いターゲットを見つけ出し、広告予算を集中すれば、マーケティング「効率」が向上するのです。ブランドの成長には、コミュニケーションの改善を通じたマーケティング「効果」の向上が欠かせません。ターゲットが購入に至る比率自体を上げなければ、広告費のROIは、すぐに頭打ちになります。

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データからコミュニケーションを改善するためには、まずは改善すべき箇所を特定し、ターゲットと同様にコミュニケーションの「分岐」を作ります。コミュニケーションの分岐は、クリエイティブのバリエーションを必要とするため、事前に制作費の費用対効果を考慮しなければなりません。新しいクリエイティブによってマーケティング効果の向上が期待できるのは、広告が視聴されていながらも、十分に態度変容が起きていない(行動データの量的な反応が高く、サーベイデータの質的な反応が低い)箇所です。このように心理的な歩留まりが確認できる箇所で、かろうじて反応しているターゲットの属性を特定し、新しいコミュニケーションの仮説を導き出し、その効果を検証します。効果的なコミュニケーションは、ターゲットごとに異なる可能性もあります。分岐されたコミニケーションの効果は、ターゲットごとにも検証をすべきでしょう。

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デジタルマーケティングは、膨大な量のデータ収集を可能にします。しかし、マーケティング施策が必要なデータを収集するように設計されていなければ、集められたデータは何の役にも立ちません。DMPを設け、データマネジメントの重要性を掲げる広告主は増えました。しかし、そのデータは本当にマーケティングの改善に役立てているのは、そのなかでもほんのひと握りなのではないでしょうか。“Garbage in / Garbage out”(ゴミのようなデータを分析しても、ゴミしか得られない)と言われるような結果を防ぐために、私たちは数値化が可能なマーケティングに挑み続けなければならないのです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。