「ブランドパーパス」を本当に機能させるには?

娘がまだ幼いころ、私は彼女の自発的な学びを促すために、絵本を読む代わりに毎晩彼女の質問にひとつ答えることを日課にしていました。「捨てられたゴミはどうなるの?」とか「世界一深い海はどこ?」といったことを娘は尋ねてきて、一緒にWikipediaやYouTubeで答えを探していたのです。7歳になったときに娘は、「生きていることに意味はあるの?」と聞いてきました。その頃、彼女は宇宙に関する本を読んでいて、宇宙全体から見る人間の存在はとても小さく、意味を持てるようなものではない、と主張しました。正直、この質問にはどう答えてよいかわかりませんでした。かといって、質問自体に意味がないとはねつけることもできません。その晩、私たちは満足する答えを見つけるまで検索を続け、ヴィクトール・フランクルの「人生の意味とは、人生に意味を与えることだ」という名言にたどり着いたのです。

幼い子供と同じように、私たちは誰もが生きることに意味を求め、自身が存在する目的を理解しようとします。存在目的(パーパス)があれば目標があり、目標を実現することで、私たちは存在意義を感じることができるからです。「ブランドパーパス」とうコンセプトが急速に世界的なマーケティングのトレンドになっているのも、これが理由かもしれません。消費者が意義を感じるブランドの活動を通じて、ビジネスの成長を約束するブランドパーパスは、実際に効果があるか否かにかかわらず、マーケティングという私たちの仕事に意義を感じさせてくれるものなのです。

このトレンドは、企業の責任と社会貢献の意識を高めました。しかし、同時に社会問題の解決を訴えて製品の販売を試みる、多くの無計画なパーパスキャンペーンも生み出しました。このような一時的なキャンペーンはビジネスにも、社会の役にも立たず、ブランドやマーケティング業界への不信を煽るだけです。ブランドパーパスは必ずしも社会問題の解決に関わるものではありません。啓発された自己利益という考えに基づき、すべてのブランドが持てる、ビジネスを通じて人の生活をより良いものにするという目的なのです。

ブランドパーパスはポジティブなトレンドであるはずです。しかし、このままではむしろ有害無益なものとなる可能性もあり、ほとんどのブランドはそのビジネスと社会的な意義の関係性を見い出せないままになるでしょう。これは、非常に残念なことだと思います。では、どうすればブランドパーパスを本当に機能させることができるでしょうか?

行動の変化

あらゆるマーケティング活動は、消費者の行動を変えることを目的とします。しかし、他者の行動をコントロールすることは不可能であり、影響を及ぼすことしかできません。そのため、マーケティングでは行動の自主的な変化を促すためにコミュニケーションを利用するのです。


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人の行動はすべて、なんらかの刺激への反応です。ただし、人間である以上、私たちは反応の仕方を選択することができます。人にはものごとがどうあるべきかという信念、すなわち自分の「価値観」に基づいて行動する能力が備わっています。そのため、行動の変化を促すマーケティングコミュニケーションにはふたつの役割が考えられます。ひとつは消費者の価値観に沿う行動の後押しをすること。もうひとつは消費者の価値観に反する行動を誘引することです。

パーセプションの変化

私たちが自分の価値観に従って行動するか否かは、自分自身と周囲の世界をどう見るかというパーセプション(認識)によって決定されます。たとえば、ひとりの行動では環境に大きな影響を及ぼさないと考えている人が、環境保護のために積極的な行動を取る可能性はほとんどありません。それどころか、環境保護のために自分の時間や利便性を犠牲にする人々の行動を愚かだと思うかもしれません。しかし、もちろん自分の行動に影響力があると考えるなら、違う思考と行動を取るはずです。

いかなる状況においても、人には自分の行動を選択する能力があります。その選択は周囲の人々に大きな影響を及ぼし、自身の幸せを左右します。能力と影響に対するパーセプションを変えることで、人の生活をより良くする、価値観に沿った行動に後押しすることができるはずです。では、どうすればこのようなパーセプションを変えることができるでしょうか?


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※パーセプションフロー・モデルの構成要素の一部

パーセプションフロー・モデルでは、「知覚刺激」がパーセプションを変える原因とされます。耳慣れない用語で、多くの人には理解しにくい概念かもしれませんが、効果的なマーケティングコミュニケーションの重要な要素です。知覚刺激の概念を理解するにはまず、記憶のメカニズムについて考える必要があります。

記憶とストーリー

人類は歴史を通じて、思想や価値観を他者の心に植え付けるためにストーリーを利用してきました。マーケティングの分野では、ストーリーは製品の特製、消費者にもたらされるベネフィットや、ブランドパーパスの説明にも使われます。しかし、最近の研究では、ストーリーは効果的な人間のコミュニケーションのための手段であるだけでなく、脳が経験を認識し、記憶を形成するための手段であるともいわれ、この考え方は「ナラティブ仮説」と呼ばれ、自動翻訳やバーチャルアシスタントの開発を可能にする計算言語学の研究にも採用されています。

問題の解決策に突然気付いたときに、私たちは「アハ体験」と呼ばれる感情的な反応を経験します。新しい気付きが引き金となり、脳内報酬系が強烈な快感を引き起こす化学物質を放出するのです。私たちの脳は、物事の関係性をそのような快感を得る機会として認識し、絶えず何かのパターンの認識を求めることになります。人がストーリーに注目してしまうのは、ストーリーが新たな気づきの経験を可能にする情報のパターンであるためです。


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ストーリー(正確には「ナラティブ」)は、一連の出来事を表し、その因果関係を示唆する情報の構造です。出来事の因果関係を発見したときに、その情報はストーリーの構造を持つ「エピソード記憶」として、私たちの長期記憶に格納されます。ストーリーの構造に至らない情報は、短期記憶とした処理され、忘れ去られます。同じようなエピソード記憶が蓄積されると、脳はそのパターンを認識し、一般的な法則や知識を抽出して、「意味記憶」と呼ばれる別の種類の長期記憶を形成します。これは私たちの習慣的な行動を決定するものです。


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知覚刺激とは、物事の因果関係を示唆することで、その理解を要求する情報のパターンです。新たな発見や気付きを引き起こし、その結果として消費者の認識と行動に影響を及ぼす長期記憶を形成します。示された情報の関係に自ら気づくことで、人はそれを自分自身の考えだと思い込み、パーセプションの変化が起きるのです。

この記憶のメカニズムを通じて、私たちは自律的に知識を獲得し、学習しています。しかし、あらゆるシステムと同様に、このメカニズムも完璧なものではなく、欠陥や脆弱性が含まれています。まず、脳はストーリーの真偽を区別することなく、報酬型を活性化させます。さらに、その快感はあまりに強力であり、生理的欲求の認識を含む認知活動の一部を無効化してしまいます。これらの欠陥により、人はストーリーに対してきわめて無防備になります。新たな気付きを体験したいがために無条件に注目をしてしまい、嘘や非現実的な結論を自ら信じ込んでしまうのです。

マーケティングにおける優れたストーリーは消費者の心を捉えて、注目をブランドのベネフィットに集中させ、製品やサービスの欠点が考慮される可能性を減らします。しかし、優れたストーリーは消費者に自身の価値観に反する行動を強く促すこともできるため、ブランドは十分にその責任を認識しなければなりません。

効果的なストーリー

ストーリーは私たちの認識と行動に影響を及ぼしますが、すべてのストーリーが強い影響力を有するわけではありません。遠い過去の出来事を長期間にわたって詳細に思い出すことができても、最近の出来事は思い出すことができないかもしれません。記憶の持続力は私たちが経験する感情の高ぶりの度合いによって決まるといわれており、その関係は逆U字の形のグラフで表すことができます。感情の高ぶりが弱い経験はもちろん忘れられますが、逆に感情の高ぶりが強すぎるトラウマ経験もまた忘れられます。これは精神に破壊的な影響をもたらす心的外傷を防ぐ「解離性認知症」と呼ばれる脳の自己防衛メカニズムだとされています。


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ストーリーは私たちに、そのようなトラウマ経験のリスクなしにさまざまな出来事を体験させてくれます。優れたストーリーのすべてに、その克服に悪戦苦闘する主人公の姿に誰もが共感できる問題が組み入れられているのはそのためです。ストーリーで描かれる問題が大きいほど、記憶の持続力が高まるのです。

ある専門家は、ストーリーは人が将来的な問題を回避し、解決法を学ぶためのバーチャル体験であると主張しています。ストーリーがより優れた行動を学習し、選択するための方法であるという考え方は、ナラティブ仮説を支持するもので、私たちの脳がこれほど強くストーリーを求めることも説明できます。

人は自分との関係を有する登場人物や状況に共感します。効果的なストーリーは、その共感を通じて私たちの理解と感情を高め、記憶の形成を助けます。さらに、日常的な出来事から記憶が頻繁に想起されるきっかけを作るのです。そのうえで、私たちはストーリーを通じて、社会のなかで適切に行動する方法を学ぶため、道徳性や社会規範の観点からも共感を求めます。道徳的葛藤(モラルジレンマ)や倫理的境界線の体験は感情の高ぶりを促す有効な手段です。しかし、道徳的にまったく受け入れられないストーリーには有用性がなく、共感されることはありません。


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ストーリーの効果を高めるもうひとつの要素は、変化です。変化は私たちに物事の関係性を認識させ、心のなかに具体的なイメージを描きます。変化は私たちに強い印象を与え、想起しやすく、持続力のある記憶を形成します。関係の変化は、時間(複数の事象間の絶対的ないし相対的な時間的関係)、因果関係(複数の事象間の条件と結果)、位置(対象物と事象の絶対的ないし相対的な空間的関係)、作用(対象物どうしの行動と反応)の四種類に分類することができます。マーケターはコミュニケーションにこれらの変化を用いることで、消費者の心にイメージを描き、強い印象与えることができます。

購買行動の促進

どんなに効果的ストーリーでブランドパーパスを伝えても、それだけでビジネスが成長することはありません。ブランドパーパスはブランド選択や価格正当化に寄与するとされていますが、これは自分の価値観に基づいて購入する消費者に限定されます。ブランドが高品質の製品やサービスを競争力のある価格で提供し、消費者にとって価値あるベネフィットを伝え、積極的にセールスプロモーションを実施しなければならないことに変わりはありません。

消費者の購買行動を駆り立てて、持続的なビジネス成長を達成するには、ブランドコミュニケーションと一貫するセールスプロモーションが必要です。両方に活用できるストーリーやアイデアを見つけ出すことは現代の多くのマーケターが抱える課題ではないでしょうか。

大規模な行動の変化を促すには、ブランドは社会規範として受け入れられつつあり、ティッピングポイントに近い価値観に着目すべきです。そのような価値観は、大半の人が同意できるトピックの下に隠されています。例えば、地球温暖化に対する真剣な取り組みが必要であることには、ほぼすべての人が同意できることでしょう。しかし、そのために自らの時間、金銭、利便性を犠牲にし、積極的な行動にコミットする人はごくわずかです。私たちは地球温暖化を問題視していても、本音ではひとりの人間の行動では何も変わらないと信じているのかもしれません。大義にコミットする少数の価値観を推進することで、ブランドは大衆にポジティブな行動の変化を促すことができます。さらに、購入や消費がこれらの価値観に沿うものであれば、購買行動につながるのです。

プロモーションは、消費者が求めるユニークで、新しい体験の提供を通じてその効果を発揮します。しかし、その役割は消費者の購買意欲を直接刺激することだけではありません。営業組織や小売企業のやる気をかき立てて、販売を促進するシナジー効果を起こすこともプロモーションの重要な役割です。プロモーションの直接的な効果だけでなく、商品の露出や消費者接点を増やすことがトライアルとリピート購入の増加につながるのです。

ブランドの誠実性

パーセプションフロー・モデルやストーリーテリングなど、マーケティングコミュニケーションの技術的な知識は間違いなく有益です。状況によっては成功に欠かせない要素でもあります。しかし、どのようなコミュニケーションもその主張に即した行動、すなわち誠実性が根底になければ相手との信頼関係は築けず、欺瞞として受け取られます。誠実性こそが、ブランドと消費者との関係を含む、すべての信頼関係の原点であり、人間のコミュニケーションの基盤なのです。そのため、ブランドパーパスはブランドが過去の行動から一貫してそれを体現していない限り、消費者に受け入れられることはありません。現代の消費者は不誠実なコミュニケーションを簡単に見破ります。

消費者に意義のある行動を促し、購買行動駆り立てるブランドは、ブランドパーパスを主張するだけでなく、その価値観に即した行動を徹底する必要があります。これはブランドの組織だけでなく、組織内の個人にも当てはまります。組織の誠実性は個人の行動の総和です。ブランド組織と個人の両方に深く根ざしていないなら、ブランドパーパスはどこかの時点で必ず嘘になるのです。


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私はこれまで、職業人生の大半をマーケティングコミュニケーションにおける技術的な知識の開発に費やしてきました。しかし、どのようなコミュニケーションの技術やノウハウがあったとしても、その根底に意義と誠実性がなければいずれ無益なものになるはずです。しばらくは一歩退いて、自分自身の意義の追求と誠実性の開発に集中し、それがビジネスに及ぼす影響を観察したいと思います。人がコントロールできる唯一のものが自身の行動であれば、意義あることの達成もまた、自分の行動からはじめなければならないのだと思います。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

ブランドパーパス、そのインパクトをいかに測定するか?

ブランドパーパスがビジネスに大きなインパクトを与えるという考え方は、徐々に受け入れられつつあります。マーケティング活動の成果や強いチームの結束などという形で、その効果を直接体験したという主張も、もはや珍しいことではありません。

社会的にポジティブな変化がビジネスの成長を加速させるという可能性は、マーケターに大きな期待感を与えます。それは私たちの仕事により広い社会的な側面を与え、意義を感じさせてくれるものです。ジムステンゲル氏の『GROW』が出版された2015年から、たった4年でカンヌを席巻するほど、ブランドパーパスがマーケターの間で人気のコンセプトになったのも不思議ではありません。

ブランドパーパスの幅広い可能性に目を向けるにあたって、そのインパクトを測定する明確な方法が必要になります。従来の調査方法では、パーパスに対する熱意や、ビジネスにおける費用対効果などを指し示すことはできません。従業員、消費者、そして社会というあらゆるレベルに影響を及ぼすブランドパーパスの計測は決して簡単なものはないはずです。

 
ブランドパーパスの図
 

しかし、複雑であるということは言い訳にはなりません。私たちはブランドとそのビジネスを社会にとってより良い形にする機会を享受していますが、それには活動を測定し改善するという責任が伴います。その重要性から、ブランドパーパスのインパクトを測定する方法は急速に確立されていくはずです。先ずはインパクトの対象となる従業員、消費者、社会という対象毎にどのようなアプローチがあるのかを考えてみましょう。

従業員へのインパクトを測定する

ブランドパーパスのインパクトは組織内から始まります。パーパスから得られるメリットの中でも、チームの結束は最も目に見え、価値のあるものです。アンケートによって社内エンゲージメントを測るツールなどで、ブランドの一部であることに対する従業員の熱意を理解することはできません。そのためには、1 on 1などの対面のミーティングが欠かせません。

しかし、ほとんどの組織では自らの活動を正当化し、改善するために何らかの量的指標が必要となります。ブランドへのエンゲージメントを測定する基準は数多くありますが、中でも最も適切なのがブランドアイデンティフィケーション(ブランドとの同一化)であると思います。次の項目に従い、5段階のスケールなどで評価を行うことにより、従業員がどれほどブランド自身のアイデンティティーと同一化しているかを測定し、改善すべき点を理解することができます。

ブランドとの同一化

  • ブランドや組織の成功を自分の成功のように感じますか?
  • 他の人がブランドや組織についてどう思うか興味がありますか?
  • 誰かがブランドや組織を褒めた時、自分が褒められているように感じますか?
  • ブランドや組織を「私たち」と「彼ら」のどちらで呼びますか?
  • ブランドや組織が批判されると自分が侮辱されたように感じますか?

現在のアイデンティティ

  • 自分を表現する上で、ブランドや組織はどれほど重要ですか?

理想のアイデンティティ

  • ブランドや組織はどれほどなりたい自分に近づいていると感じさせてくれますか?

有意義さ

  • ブランドや組織はどれほど自分の人生に意義を与えてくれていると感じますか?

アチチュード(態度)の強さ

  • ブランドや組織のことを考える頻度はどれくらいですか?

消費者へのインパクトを測定する

ブランドアイデンティフィケーションに関する調査は消費者へのインパクトの測定にも活用することができます。しかし、その結果から個別の活動を評価し改善することはできません。消費者の心理的変化を管理するためには、パーセプションフロー・モデルが有効な手法です。消費者行動の各段階における購買への影響を評価し、購入や再購入の段階を軸にROIに基づいて段階ごとのKPIを定義することができます。

下にブランドパーパスの消費者へのインパクトを示したパーセプションフロー・モデルのテンプレートを用意しました。消費者が自分にとって重要な社会的問題に気付くことから始まり、その問題に共に取り組むブランドと同一化するプロセスを描いています。
 

ブランドパーパス版

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ジム・ステンゲル氏曰く、「ブランドパーパスはビジネスそのもの」であるべきです。私たちは消費者へのインパクトを測定し、そのROIを示すことで、マーケティングへ投資を正当化しなければなりません。私は今のところパーセプションフロー・モデルを用いたインパクトの測定が最も現実的な方法だと思います。

社会へのインパクトを測定する

ブランドパーパスの最も重要な側面はその社会へのインパクトです。ブランドパーパスに基づいた活動は、個人や社会全体に目に見える改善をもたらし、信頼できるものであるべきです。ブランドはそのオーセンティシティ(真正性)だけでなく、実際のインパクトも証明しなければなりません。

ブランドパーパスに基づいた活動はそれぞれ異なる目的を持っているため、あらゆるケースに対応する汎用的なソリューションは存在しません。また、ブランドの活動に対する社会的な価値は、常に主観的判断に左右されます。しかし、その社会的インパクトを証明できなければ、ブランドはいずれ従業員と消費者からの支援を失うことになります。

非営利団体への助成金の給付などに活用されるSROI(社会的投資収益率)フレームワークはブランドパーパスの社会的インパクトを測定するためにも活用できるものだと思います。

このフレームワークでは、生み出された「アウトカム(成果)」や人々の生活の改善に対する経済的価値を定義することで、活動の社会的価値を算出します。こうしたアウトカムに絶対的な評価指標はないため、その経済的な価値を指し示すには代わりの「プロキシ(基準値)」を設けなければなりません。こうした代替の基準値はブランドが独自に定義するのではなく、実際にその社会的問題に直面している人々の視点から調査を行うべきです。
 


 

デッドウェイト(死荷重)は、特に何もせずにもいずれは発生していたアウトカムの価値を指します。ディスプレースメント(置換)は、活動の結果として生まれた他者に賦与されたコストのことです。これらをアウトカムの合計から差し引くことで、本当の社会へのインパクトを明らかにすることができます。

[社会へのインパクト] = [アウトカムの合計] – [デッドウェイト及びディスプレースメント]

ブランドパーパスの測定はまだ黎明期にあり、今後マーケティングのROIを改善し、収益を生み出すポテンシャルは大いに存在します。ブランドパーパスは間違いなく21世紀のブランドの原動力となるものです。より多くのブランドがそのパーパスを追求し、ビジネスを成長させるためには、私たちが確実な測定方法を確立しなければならないのです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

ブランドパーパスの発見と活性化、いかに達成すべきか?

多くの製品カテゴリーにおいて、どのブランドを選ぶかということは、消費者にとって重要な問題ではありません。消費者の強い関心と、マーケットシェアを獲得するためには、ブランドが消費者にとって大切な意味を持つ必要があります。激化の一途をたどる競争環境により、ブランドパーパスの有効性は今後も伸び続けるはずです。

ブランドパーパスはブランドと社会が共有し、互いに存在意義を感じる目的です。消費者が担う社会的役割によって、大切な目的は異なるはずです。その目的を全ブランド活動の指針とすることで、ブランドパーパスはビジネス成長の原動力となります。

ブランドパーパスを活用するプロセスには大きく発見、活性化、計測の3段階が存在します。今回の記事では発見と活動について説明します。

ブランドパーパスの発見

ブランドパーパスを発見するうえで重要な要素3つ。ブランドのルーツ、社会的インパクト、そして、ビジネスリーダーのコミットメントです。
 

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1. ブランドのルーツ
ただ消費者の関心が高い社会問題の解決を掲げても、ブランドパーパスとしては成立しません。パーパスは決してやりたいことではなく、やるべきことです。組織はそれぞれの生い立ちや状況によって、社会に貢献できる方法が異なります。だからこそ、パーパスはブランドのルーツに基づいていなければならないのです。

  • ブランドが貢献すべき相手は誰か? その相手はどのような社会的役割を担っているか?
  • ブランドが保有し、相手への価値となる知識や経験は何か?
  • ブランドの行動指針となる価値観や信念は何か? それらが形作るカルチャーとブランドパーパスは合致しているか?

2. 社会的インパクト
ブランドが追求すべきパーパスは、実際に人々の生活に違いを生むものです。幸せ、つながり、探求、誇り、社会貢献という人間の5つの普遍的価値に基づき、計測可能な影響を与えなければなりません。

  • どのように人々の生活をより良くするのか?
  • 人々の生活にどのような違いを生むのか? あるのとないので社会はどう変わるのか?
  • その影響を計測し、証明することはできるのか?

3. ビジネスリーダーのコミットメント
ブランドパーパスは収益を成長させ、有能な人材を魅了することでビジネスの利益につながります。しかし、その達成は全活動のアライメントを要するため、ビジネスリーダーのコミットメントが欠かせません。事業の責任を持つビジネスリーダーのコミットメントを得るためには、パーパスは慈善事業ではなく利益を生むものでなければなりません。

  • パーパスはどのように利益を生むのか? どのように収益を成長させ、有能な人材の獲得を可能にするのか?
  • パーパスによる収益成長と人材獲得を実現する具体的な戦略はあるか?
  • リーダーは、パーパスのビジネス上の必要性を確信し、情熱を持って語ることができるか?

ブランドパーパスの活性化

パーパスはブランドのすべての活動の指針となる起点であり、社会と共有する事業の存在目的として、目標や戦略を定めるものです。ブランドパーパスと利益の相互因果関係や、その実現に向けた戦略が定まれば、その達成を阻むのは無関係な活動のみです。
 

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ブランドパーパスの活性化には、社内エンゲージメント、商品・サービス化、社会奉仕活動、ブランドエクスペリエンス、消費者エンゲージメントの5つの要素があります。

1. 社内エンゲージメント

ブランドパーパスにはビジネスに対するさまざまなメリットが存在しますが、社内の結束だけでも十分な投資価値があると言えるでしょう。エンゲージメントの目的は、その一部でありたいと思ってもらうことであり、組織のなかで機能パーパスが、外で効果を発揮することはありません。

  • パーパスに対するリーダーのコミットメントや、ビジネス上の必要性をどのように伝えるべきか?
  • 社員の一人ひとりがパーパスを語り継げるストーリーは何か?
  • 組織全体がパーパスに沿って動くための成果指標や評価制度は何か?

2. 商品・サービス化

パーパスが収益を生むためにはブランドの商品やサービスに反映されていなければなりません。

  • 商品やサービスはパーパスを反映しているか?
  • 顧客の重要な問題を解決しているか?
  • ビジネスに十分な収益性をもたらすか?

3. 社会奉仕活動

パーパスを体現し、その達成に向けて消費者を牽引するために、ブランドは収益を生む活動だけでなく、社会奉仕活動にも積極的に取り組むべきです。

  • パーパスに基づく社会的活動はエンゲージメントを推進する(ブランドの一部になりたいと思わせる)か?
  • 一時的なトレンドではなく、普遍的な価値を反映したものか?
  • 誰もが参加でき、疎外感を感じないものか?

4.ブランドエクスペリエンス

ブランドのさまざまな活動のなかで、パーパスと矛盾するものは消費者に大きな違和感を与えます。完璧なブランドエクスペリエンスの提供は不可能ですが、可能な限り近いものを目指し、矛盾点の排除に尽力すべきです。

  • パーパスに対する経時的な一貫性は保たれているか? 過去のブランドの活動との矛盾点は存在しないか?
  • パーパスに対する共時的な一貫性は保たれているか? ブランドエクスペリエンスを提供するさまざまな要素にパーパスとの矛盾点はないか?
  • パーパスに合致しておらず、優先的に修正すべき3つのポイントは何か?

5. 消費者エンゲージメント

消費者が、社員よりもパーパスに対する関心や信頼を示すことは期待できません。ブランドはそのオーセンティシティ(真正性)と、強い意志を示すために、言葉ではなく行動を通じてパーパスを体現する必要があります。

  • パーパスを体現できる行動は何か?
  • その行動に顧客や消費者が参加できる方法は何か?
  • その活動の効果を証明し、伝える方法は何か?

企業により一層の透明性が求められる時代において、ブランドパーパスの活用はいずれ避けられないものになるかもしれません。企業の道徳性という意味では、私たちエージェンシーのビジネスにも大きな影響を与えるものです。いまはまだブランドパーパスの黎明期かもしれませんが、その発見、活性化、計測に対するニーズは、今後伸び続けるはずです。次回はブランドパーパスの計測について考えをまとめます。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

利益と成長をもたらす、ブランドパーパスの見つけ方

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ブランドパーパスは、理想主義や利他主義に基づく思想ではありません。それは、人々の生活をより良いものにするという社会的な存在意義を通じて、ブランドが成長し続けるための方法です。前提として、ブランドのパーパスとビジネスのプロフィットを上下関係ではなく、表裏一体とすることが求められます。

人間の基本的価値に関わるパーパスは、人に存在意義を感じさせることで、ブランドとの深いつながりを生み出します。人間関係にもとづくすべてのビジネスにとって、人とのつながりは大切な資源です。パーパスは、従業員や顧客だけでなく、ブランドの言葉に耳を傾けるすべての聴衆とのつながりを可能にし、持続的な成長に必要な機会を創出します。

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5つの基本的価値

ブランドパーパスは、ブランドが社会に提供するベネフィットであるとも言えます。前回も紹介した書籍『GROW 本当のブランド理念について語ろう』では、人々との深いつながりを生み出すブランドパーパスは、5つの人間の基本的価値に関わるものであると紹介されています。製品やサービスの機能に立脚するものを選び、文の主語を消費者に変えれば、ブランドが消費者に提供するベネフィットとして活用することもできます。

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デイビッド・アーカーは、消費者が享受するベネフィットを、機能以外の3カテゴリーに分類しています。消費者の感情を刺激するエモーショナル・ベネフィット、消費者と準拠集団との関わりを示すソーシャル・ベネフィット、そして、消費者に自己表現の術を与えるセルフエクスプレッシブ・ベネフィットです。5つの基本的価値に関わるベネフィットは、自己肯定感、準拠集団との存在意義の共有感覚、価値観を表現する術を与え、アーカーが定義するすべてのベネフィットの要素を満たすものです。

つながりを生むストーリー

人々とのつながりの深さは、ブランドが伝えるストーリーの質によって決まります。ストーリーは、幅広い聴衆を魅了し、明快さと説得力を持ってメッセージを伝えるものです。その構造はブランドパーパスの効果的な伝達にも役立つはずです。

Story Spine”は、ストーリーの本質を3つの文章で定義するフレームワークです:

Hookと呼ばれる最初の文章は、文字通り聴衆の注目を引くためのものです。当たり前な正論や、綺麗事に聞こえるブランドパーパスが、人の心を動かす事はありません。ブランドは、社会の不利益を生む既成概念に対抗し、新しく、刺激的な「イデオロギー」を示すことで、聴衆の関心を獲得します。

次のBuildは、聴衆の興味を持続させるものです。人は、自分の価値観や信念を肯定するものに強い共感を覚えます。人が大切に想う価値を表すことで、ブランドは特別な意味を持つ存在になり得ます。

給料日を意味するPaydayは、聴衆に満足感を与えるものです。パーパスを達成するブランドの意志に加え、その方法と能力を示すことで、人々に期待と希望を与えることができます。

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ブランドパーパスの伝達に必要なストーリーの本質は、あらゆるコミュニケーションの機会に適応することができます。雛型となるStory Spineがあれば、ストーリーの軸を見失うことなく、表現を改善し続けることができるはずです。

本物のブランドとは

パーパスに基づくブランドの活動は、すべて顧客の体験に集約されます。人々の生活をより良いものにする意志と努力は、パッケージ、店頭、広告、製品などすべての顧客接点に反映され、優れたブランド体験を創り出します。一方で、顧客はブランド体験のなかで矛盾する点を簡単に見つけ出します。聴衆のなかには、必ずブランドの真意に疑いを持ち、公の場でその嘘を暴こうとする人がいます。このような、一見厄介に思える人でさえも、パーパスに基づく本物のブランドにとっては、関節的な支援者になり得るのです。

一連のブランド体験を通じて、顧客を欺く方法はありません。唯一の解決策は、人々のより良いを生活の実現を、本心から求めることだけです。大切なのは、あなた自身が本当の価値観や信念を表していること。その価値観や信念に行動が基づいていること。そして、人々の生活をより良いものとし、ブランドを成長させ続けるというあなたの想いが、本物であると信じることです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

ブランドパーパスはビジネス成長の条件か? またはマーケターの幻想か?

ブランドには利益だけでなく、社会に貢献するパーパス(存在目的)が求められます。優れたパーパスの存在はビジネスの原動力となり、その成長に大きく貢献します。この理想主義的のような考え方により、現在ブランドパーパスを軸とするマーケティング活動が世界中で活発化し、欧米では一般化の兆しも見せています。

元P&Gグローバルマーケティング責任者、ジム・ステンゲル氏は、この世界的なマーケティングトレンドを起こした著書の『GROW 本当のブランド理念について語ろう』で、社会的大義をパーパスに掲げる50のブランドが、代表的な上場企業の4倍もの成長率を実現しているという研究結果を発表しました。そして、ブランドパーパスこそがビジネス成長の普遍的な条件であると主張したのです。

ブランドパーパスの効果

ステンゲル氏の主張と研究結果の正当性を疑問視する声も上がっています。しかし、彼の言葉は多くのマーケターにとって自身の仕事の意義を示し、勇気を与えてくれるものでした。「ビジネスの成長にはブランドパーパスが欠かせない」という考えは、業界全体の規範として急激に浸透し、受け入れられていったのです。この現象を逆手に、ブランドパーパスはマーケターが望んだ幻想であると言う人もいます。しかし、私はこの新しいイデオロギーの発生こそが、ステンゲル氏の主張を裏付けていると思っています。

その後、広告代理店コンサルティングファームからは、消費者の購買判断がブランドパーパスの影響を強く受けているという調査報告が相次ぎます。しかし、人はアンケートの発言通りに動くことはなく、その効果を鵜呑みにすることはできません。ブランドパーパスが直接的な購買理由にならなくても、その判断を正当化する効果は十分に考えられます。また、消費者が共感するブランドの選択だけでなく、共感できないブランドの不買も発生しているはずです。私達はブランドパーパスの効果に過剰な期待を抱く前に、購買行動に対する影響を正確に把握するべきではないでしょうか。

ステンゲル氏の主張は業界全体を牽引し、多くの企業の追随を招きます。しかしブランドパーパスの活用は広告代理店に委ねられ、社会問題に対するスタンスを表明する広告が相次いで発表されます。本来パーパスは全てのブランド活動の指針であるべきです。パーパスに対する十分な活動の整合性と積み重ねがなければ、ブランドの主張が消費者に受け入れられることはありません。ブラック・ライヴス・マターに似たデモの解決を描いたペプシの事例や、それまで推奨してきた「男らしさ」を有害なジェンダーステレオタイプとしたジレットの事例は、ただ大義を振りかざすだけの広告として消費者の強い反発を受けました。無闇に注目の社会問題を起用し、偏ったスタンスを表明するような広告は間違いなくブランド毀損を招きます。ブランドの根底にある信念に基づき、十分な時間と労力を費やさなければ、ブランドパーパスはただの「利益を得るための嘘」になってしまいます。

広告活用の成功事例

もちろん、ブランドパーパスを活用した広告の成功事例もあります。人種差別に反対し、試合時に国歌斉唱を拒否してきたコリン・キャパニック選手は、2015年からNFLのチームに所属していません。ナイキは彼の生き様と、自らが彼の起用に対して抱えるスポンサーのリスクを重ね、「全てを犠牲にしても、信念を貫け」という強烈なコピーを打ち出しました。この広告は、キャパニック選手の国家斉唱拒否に反対する年配者による反発や不買運動を発生させました。しかし、スポーツシューズの中核的購買層である世代からは、熱狂的な支持を得ることに成功しました。ブランドの活動とパーパスの整合性を見事に実現した事例です。

ブランドの活動とパーパスの整合性が無ければ、消費者の信頼は得られません。そのためには、より良いの社会の実現に向けて、真摯に取り組む以外ありません。とはいえ、企業活動の継続には利益の獲得が必要であり、利他的な社会貢献ばかりを優先していては、ブランドの存続が困難になってしまいます。利益とパーパスをトレードオフの関係で考えてしまうと、必ずどちらかが優先されてしまいます。しかし、2つを相互補完関係で考えれば、持続的なビジネス成長の答えが見えてきます。

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パーパスは利益の目的であり、手段でもあります。人々にとってより良い社会が、ブランドにとってより良い市場でもあるべきなのです。このパーパスと利益を両立する社会的なビジョンこそビジネス成長の原動力であり、その力は、P&Gの歴史からも見ることができます。

大恐慌の時代に、アメリカ内陸部のシンシナティで石鹸製造業を営むジェームズ・ギャンブルと、ローソク製造業のウィリアム・プロクターは、暗く、不衛生な生活環境の改善を目的に、原料を奪い合うのではなく、共有し合ったのです。「人々の生活が豊かになれば、より多くの生活用品を買ってもらえる」というパーパスと利益の相互補完関係を含むビジョンこそが、P&Gの成長の原動力なのかもしれません。

ビジョンを実現するために

ビジネス成長の原動力となる社会的なビジョンが描ければ、次はそれを達成する方法が必要になります。社会的な変革は単独で起こせるものではありません。ビジョンを実現するためには、業界など社会の一部を牽引しなければなりません。ブランドパーパスの権威であったステンゲル氏は、自身のビジョンを正当化するイデオロギーで業界全体を牽引しました。その結果ブランドパーパスへの需要は世界的に高まり、彼にとって理想的な社会が実現しています。

もちろん、イデオロギーを広めるためにはさまざまなリレーションシップが必要です。それまでに多くの人から絶大な信頼を勝ち得てきたからこそ、新しい考え方を広め、浸透させるほどの影響力を持つことができたのでしょう。それは、確実なビジネスの成功というベネフィットによって構築され、ブランドパーパスに対する実証的な研究というフィーチャーに立脚しています。ステンゲル氏の本の内容だけでなく、彼が成し遂げた、世界中の企業に社会貢献の重要性を認識させるという社会的な改革からも、ブランドパーパスの活用方法を学べます。
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ブランドパーパスに対する世界的な関心にもかかわらず、その直接的な効果を証明する事例は未だ多く存在していません。私たちはまだブランドパーパスと言う概念が持つ意味や、その活用方法を理解し始めたばかりです。多くの失敗例が目立つ中でも、ブランドの活動と整合性のあるパーパスが人を奮い立たせることはわかっています。人々のよりよい生活を実現し、ブランドの需要を高める社会の中で、ビジネスが成長しないはずがありません。ブランドという存在を嘘や、幻想で終わらせないためにも、私たちはこれからもパーパスについて学び続けなければならないと思います。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

消費者が意義と共感を感じる、ブランドパーパスの作り方


私は学生の頃に「広告は社会変革の道具である」と教えられました。社会に大きな影響を及ぼす広告は、モノを売り、収益を得るだけでなく、社会を豊かにする役割を持つべきだというのです。当時の私は、先生の言葉を十分に理解することができませんでした。しかし、20年経ったいまは、その言葉が私に働く意義を与え続けてくれています。

人は自身の存在に意義を求めます。意義は私たちの行動を正当化し、後押しとなるモチベーションを与えてくれるのです。だからこそ、私たちは意義のあるブランドを好むのです。
消費者が意義と共感を感じるブランドパーパス(ブランドの存在目的)は、ブランドの成長を加速させることがわかっています。P&GのCMOを務めたジム・ステンゲル氏は、著書の『GROW:本当のブランド理念について語ろう』のなかで、パーパスを持つブランドは、他社よりも3倍の成長を実現すると述べています。ハバス(HAVAS)のミーニングフル・ブランド(Meaningful Brands)調査からは、ブランドパーパスが、購入意向や価格プレミアムウォレットシェアなどを高めることがわかります。もはやブランドの成長と、パーパスを切り離して考えることができません。成長に貢献するブランドパーパスは、一体どのようにして作られるのでしょうか?

社会規範と他者貢献

人は社会に属し、他者とともに生活をする社会的動物です。私たちは社会の一員として認められるために、周りからの期待に応えようとします。社会全体に共通する「社会規範」は、個人が自己利益よりも「他者貢献」を優先することを求めます。自分自身よりも、属する社会を優先することは、私たちの帰属欲求、承認欲求、そして自己実現欲求をも満たしてくれます。この社会規範に基づく他者貢献こそが、私たちに存在意義を実感させる、ブランドパーパスの本質なのです。


社会と個人をつなぐ社会規範

共同体感覚

他者貢献という軸だけでは、必ずしも消費者の共感を得ることはできません。人は社会のなかでも、家族や組織、国家など、さまざまな共同体に属し、それぞれへの貢献を求められます。「共同体感覚」と呼ばれる、特定の共同体への貢献意志は、人によって大きく異なるものです。そしてこの共同体感覚は、外的な影響や、状況にも大きく左右されます。
私は以前、売上の一部を途上国に寄付する、コーズマーケティング施策に参加しました。開始から数年間は社会全体に広く共感され、大きな売上の増加を実現しました。しかし、東北地方の震災を機に「被災地を優先すべき」という意見が増え、社会の共感を失ってしまったのです。消費者が参加でき、寄付に加えた10年間の自立支援を含む、正当性の高いプログラムであったにも関わらず、共同体感覚の急激な変化には対応することができなかったのです。


支援を歓迎するマリ共和国、チャアラ村の子供たち

ブランドパーパスは、必ずしも社会全体や人類に貢献するようなものである必要はありません。むしろ、家族のような小さな共同体への貢献が、はるかに効果的であることも多いでしょう。共同体感覚に基づくブランドパーパスは、ブランドと消費者を強い共感で結びます。消費者が大切に想い、強い帰属意識を感じる共同体を把握することは、ブランドパーパスの作成に欠かせないのです。


異なる共同体感覚の範囲

ブランドパーパスは、消費者と同じ共同体への参加を示すものです。社会的パーパスを掲げるブランドは、消費者と共通の共同体への貢献意識を持たなければなりません。そして、そのすべての行動に一貫性を持たせる必要があるのです。

嘘偽りのなさ

消費者は、ブランドの偽善を簡単に見抜きます。ブランドの外的なメッセージや体験が、企業組織としての内的な文化や行動と異なれば、ブランドパーパスは崩壊します。ブランドパーパスは、ブランドという無形な存在ではなく、その運営を行う人々の理念を表すものです。消費者との共同体には、ブランドが守るべき社会規範が存在し、規範に反するブランドは共同体から除外されます。ブランドパーパスは、決してマーケティングメッセージではなく、組織全体の行動指針となるものです。正しく定義することができれば、組織のなかにもたくさんのメリットが生まれます。

  • 組織の意思決定の指針となる
  • 共感する従業員を引き寄せる
  • 方向性を定め、協働を促す
  • 競合に真似できない文化を生む
  • 組織やブランドの強い推奨を生む

ブランドパーパスを掲げる組織は、その判断や行動のすべてを一貫性が求められます。今後ブランドには、ますます透明性が求められ、その存続には誰もが信じて疑わない、嘘偽りのないブランドパーパスが必要となるはずです。これは決して簡単なことではありません。しかし、広告やマーケティングに従事する私たちがブランドパーパスを本質的に理解し、自ら体現できれば、ブランドの持続性と、より豊かな社会の発展を実現することができるはずです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。